象は忘れない / A.クリスティ (下) | カーツの歴史散策&御朱印作庭  庭は眺めるものではなく、       出てみるものなのだ、、

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電光影裏斬春風

知っているようで知らない歴史の裏側をそっと、

御朱印帳をたずさえぶらり、ふらり、、つれづれに、、、

日々徒然に

 あれはエジプトのものでね、
 神聖甲虫 (スカラベ) とかいうんですよ。

 

 

 私が、バーナビー家におりました頃のことですよ。

 

 

 「やれやれ」とスペンスが言った。

 「それじゃ、まるで暑い日、

 バターの中に沈み込んだパセリみたいですな。

 ほら、シャーロック・ホームズと、

 夜はなにもしない犬」

 

 

スカラベは、V.ダインを、バーナビーはE.クイーンを、、これらの一文は、クリスティなりの回想なのではあるまいか? 

パセリはクリスティの好きなホームズ譜では有名な未発表事件のひとつだねぇ、一方、犬といえば、いくつかの事件が想起される

 

 

また、

 

 

 ヒルダという女が、

 椅子にすわったまま絞め殺されていて、

 死んだ後、両眼がやられていました。

 殺したほうの女は病院で死にましたが、

 罪の意識などまるでなく、ただ、

 これは自分に与えられたやむを得ない命令だ、

 というのは、悪魔を滅ぼすのは自分の義務だったからだと

 思いこんでいたのですよ」

  ポワロは悲しげに首を振った──

 

 

本編には直接には関係ないけれど、クリスティは、こういったいわゆる猟奇殺人的な事件を今後物語に取り込もうとしていたのでは? それは 世相の反映 というか、、

 

その一つのきっかけは、

 

例えば、より具体的には エクソシスト "事件" における猟奇的な殺人の側面だったのかも?

そういう妄想が許されるという面で本作は、非常に興味深い、というか、、だからこそか、本作が執筆された時点 (1972年) ではまだその準備段階で、過去 (回想の中) にそのミステリー性 (事件の謎) を探すしかなかったというか、、、

 

もし、クリスティが次作を書いたとしたら、そういったより時代性に接近したポアロ物を書いたのかも? と、思わせるほどに、本作は逆にとてもオーソドックスな作りとなっている (*1)

そう、ただ、何故にここまでオーソドックスなのか? クリスティに詳しくないので、作品の書かれた背景まではわからないのだけれど、、

 

 

*1:

だってこれ、ホームズ譜にあるあの事件そのまんまだからねぇ、読み始めてすぐに犯人と事件のあらましは分かったから

ただ違うのは、そこにポワロも悲しげに首を振るような "悪魔" を忍ばせたことか... (*2)

それに呼応するかのように、ある登場人物にペスト流行時の人々のとった行動を語らせる一文がある

 

 

 もしそうだったら、

 重病にかかっている人と考えるより仕方がありません

 ──たとえば、村に住んでいて、

 ペストにかかった人のようなものですわ。

 村の人はその人を外出させもしないし、

 食べものも与えない、人中に出ることも許さない、

 だってそんなことをしたら、村は全滅ですもの。

 それに似たことですわ。

 

 

同じひとりの死に、理解出来る理不尽と、理解出来ない理不尽とがある、その対比が本作の裏テーマだったのかも?

 

と、

 

ミステリーの部分の妙味は薄いものの、だからこそ、何かと想起させられる本作は、クリスティの晩年の創作意欲 (思惑) にせまれる一編なのかもしれないなぁ とも思ったり

そういう意味では、クリスティ死去の翌年に刊行された横溝正史の「病院坂の・・・・・・」などは今一度再読してみたいところ

 

 

*2:

先駆は1949年刊行のE.クイーンの都会の闇を扱った森博嗣さんもお気に入りの名作「九尾の猫」が相応? 

 

 

 「足跡ですか」

 「足跡です」

 「男のですか、女のですか」

 モーティマー医師は、一瞬、異様な顔をして私たちを見たが、

 ささやき声にまで声を低めて答えた。

 「ホームズさん、ものすごく巨大な犬の足跡でした」

 バスカヴィル家の犬 / A.C.ドイル

 創元推理文庫1960発行版

 

 

エピローグ

 

クリスティに詳しい人に聞いてみたいなあ

 

この作品をどう読んだ?

 

物語自体はさほどの謎もなくあっけないほどにすぐわかったのだけれど、わかったからつまらないというレヴェルの読み方は本作には相応しくないように思えるし

 

なぜ、このような作品をそのときクリスティは書いたのか? 

 

物語はリアルタイムでは1972年が現在で、ポワロが調べるのは過去の事件、いわゆる回想の殺人の部類

 

ミステリーの部分の妙味は薄いのだけれど、何かと想起させる本作はクリスティの晩年の創作意欲 (思惑) にせまれる一編なのかもしれない

 

 

  「象も忘れるとかという題だそうですな。

 こう申してはなんですが、

 わたしは忘れないものだと思っておりましたが

 ──つまり象というものはですな」

 予告殺人 / A.クリスティ

 

 

 

 

 

■関連ブログ■

象は忘れない / A.クリスティ (上)

エクソシスト / W.P.ブラッティ 再読

予告殺人 / A.クリスティ

 

 

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読書遍歴:ひとはなぜ 物語 を読むのか? 2018-11-28
・特に好きな日本の作家さん
・無人島に持っていく五冊
・そして死ぬまでに、XXX を読み終えたい、、
・2018年は、こんな本を読んできた ( ひとはなぜ 物語 を読むのか? (2018年のまとめ) ) 2019-01-08
・2019年は、こんな本を読んできた ( ひとはなぜ 物語 を読むのか? (2019年のまとめ) ) 2020-01-18

・2020年は、こんな本を読んできた ( ひとはなぜ 物語 を読むのか? (2020年のまとめ) ) 2021-01-06
** あなたにとって読書とはなんですか? **


 死ねば大好きだったこの大切な本のページはめくれず、
 読み終えたかったという願いは叶わない。

 二都物語 / C.ディケンズ
 

 

※2021年に読んだ文庫本など

本陣殺人事件 / 横溝正史 再読

黄色い部屋の謎[新訳] / ガストン・ルルー 再読

黒猫の三角 / 森博嗣 再読

フォックス家の殺人[新訳]/ E.クイーン 再読

モロー博士の島 / H.G.ウェルズ

斜陽 / 太宰治
砂漠の惑星 / スタニスワフ・レム
鳥居の密室 / 島田荘司

屋上 / 島田荘司

イルカの島 / A.C.クラーク

鹿の王 水底の橋 / 上橋菜穂子

人斬り彦斎 / 五味康祐

さよならの手口 / 若竹七海 再読

静かな炎天 / 若竹七海

錆びた滑車 / 若竹七海

不穏な眠り / 若竹七海

書楼弔堂 炎昼 / 京極夏彦

ウィチャリー家の女 / R.マクドナルド

・髑髏検校 / 横溝正史 再読

宇宙の戦士[新訳]/ R.A.ハインライン

・斜め屋敷の犯罪 改訂完全版 / 島田荘司 再読

・ガリレオの苦悩 / 東野圭吾

・獣眼 / 大沢在昌

予告殺人 / A.クリスティ

エクソシスト / W.P.ブラッティ 再読

象は忘れない / A.クリスティ (上)

 

アンチノイズ / 辻仁成

合唱 (コーラス) 岬洋介の帰還 / 中山七里

コンビニ人間 / 村田沙耶香

・白骨街道 (ハヤカワミステリマガジン連載) / 月村了衛

・バスカヴィル家の犬 / A.C.ドイル 再読

・トム・ソーヤーの冒険 / M.トウェン 再読

・とるとだす / 畠中恵

・君たちは絶滅危惧種なのか? / 森博嗣

・大いなる眠り / R.チャンドラー

 

 

 

 

 「アラユルモノノウチニ安ラギヲ求メタガ、

 ドコニモ見出セナカッタ。

 タダ片隅デ書物ト共ニイルトキヲ除イテハ」

 薔薇の名前 上 / U.エーコ