【菊と稲荷】の始まりの物語はコチラです→『プロローグ。』
<あらすじ>
『怖いと思われている稲荷の誤解を解いてほしい』
その言葉と共に、六甲山の高取神社で
「神様」という存在に、接続してもらった私。
前からついていたという高野山の清高稲荷大明神さまの
子狐眷属の姿も確認できるようになり、
奇妙な共同生活(?)が始まっていた。
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菊「……なんか新鮮。森の奥の拝殿みたい✨」
子狐1「初めて拝見する初夏の三輪惠比須神社さまだもんね!」
その日から半年。
初夏の瑞々しい葉が揺れるその姿。
実は延命処置で下の方の枝は落とされ、そこから新しい芽が溢れていた。
子狐2「風になびいて、きれいだね……✨」
菊「うん。本当に……」
張った根の分だけ、光を集める葉は必要。
600年生き続けているその幹を支える根に力を集めようと、
ご神木さまは溢れるほどの芽を出された。
菊「八重事代主命さま、おはようございます。
初夏の緑が最高にきれいですね……
この緑の境内を見るのが楽しみでした」
二礼二拍手一礼。
そして私は相談した。
このご神木さまに樹医をつけるために、
三輪惠比須神社は協賛企画として、お茶会を開催することを決められた。
お茶会と言っても、正式な昇殿参拝や宮司さまや神職さまのお話もある企画。
その第一回の講師役に抜擢された。
菊「八重事代主命さま。この度は光栄すぎるお話をありがとうございます。
人前で話すのは講師経験もあり得意ですが、
神社さまからのご依頼で話すのはもちろん初めてです。
何かアドバイスを頂けますか……」
八重事代主命(以下:八)「最初の一滴は大切です」
初夏の緑色を背に、
そよそよとした風と共に姿を現した八重事代主命。
菊「八重事代主命さま。お久しぶりです。
お言葉ありがとうございます。
最初の一滴ですか……?」
菊「………はい。緊張します……」
八「澄んだ中に落とすから、何ものにも邪魔されず
そのままの印象が広がる。最初の特権、ですね。
一人で決めなくていいよ。
宮司殿と女子神職殿、そしてお前がその色を決めればいい」
八「思い出して。最初の日のこと。
"赤と黄色" というのが私と繋がる全ての鍵だった。
それはお前が先に御影を準備していたからでしょう?」
確かに。
あの時、"赤と黄色" の装束のえびす神を描いていなかったら、
こんな時間はなかったかもしれない。
菊「……はい。おっしゃる通りです。
あの時は、"赤と黄色" という言葉を伺ったことでピンときて、
再度本殿に取材に戻ったので……」
そしてその取材から、
この三輪の八重事代主命を伝える流れが生まれたのでした。
八「時間は限られている。
限られているから、進めるべき事は少しでも早く進めておく。
何色にする?
それは全て、自分たちで決められることだからね」
三輪のご神木さまが私に繋ぐ、初夏の青い空。
菊「……………」
その優しく強い姿を見上げながら、
新しく始まる三輪惠比須神社の時間の色のことを考えた。
*2019年春の連載『ヒルコノミコト』はコチラです。
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