【菊と稲荷】の始まりの物語はコチラです→『プロローグ。』
<あらすじ>
『怖いと思われている稲荷の誤解を解いてほしい』
その言葉と共に、六甲山の高取神社で
「神様」という存在に、接続してもらった私。
前からついていたという高野山の清高稲荷大明神さまの
子狐眷属の姿も確認できるようになり、
奇妙な共同生活(?)が始まっていた。
***
菊「太陽が沈んで暗闇に包まれる、不安な時間。
そんな時間も御神影として人々に寄り添い、
人々を守っている神……」
御神影(おみえ)とは、えびす神の姿が描かれた神札。
平安時代から全国で配布されてきた。
子狐2「ポッチャンするの?」
菊「ポッチャン?? 何が?」
子狐2「お日さま」
菊「太陽? ポッチャンて何?」
子狐2「お日さまって沈むんでしょ? 沈む時の音」
菊「あー水に入る音? 沈むけど……音はしないよ」
子狐2「沈むのにポッチャンしないの?」
菊「…………」
え。
ちょっと待って。
太陽が水に入った時の……音……
菊「…………」
子狐「…………」
菊「昔の人って……」
子狐「?」
菊「昔の人って 宇宙の概念がないから……
もしかして太陽はいつも
海にほんまに沈んでるって思ってたんじゃ……」
じゃないと「太陽が沈む」って日本語が……ヘン。
妄想が頭を巡る。
夕日を見る場所にもよるけど、日本は島国だから、
最終的には「海に沈む太陽の姿」を確認していたはず。
夕日が遠くの海に沈むのを見て、
そして次の日に海から昇るのを見て……
"夜の太陽は海の中"
そう人々は思っていたのでは……
その時、私は長田神社で事代主神が渡して下さった言葉を思い出した。
万物は影響し合う中でそれぞれの気を受け、どこか消耗する。
"気枯れ” という状態だ
次に思い出したのは、三輪惠比須神社の湯立て神事。
塩はネガティブなものを根こそぎ切り離す
塩に浄化作用があるとしているのは、日本特有
1日の終わりに塩風呂……
菊「太陽ってさ……」
太陽って、その日1日の人や街や時間や……
とにかくその日1日の疲れや穢れをその身に付けて
そして海に沈んで……
そして光り輝く光と共に、新しい朝を運んでくれるって……
菊「そんな風に、昔の人達は信じてたんちゃう?」
子狐2「お日さまの1日の終わりの塩風呂が "海" ってこと?♪」
菊「……なかなか的を射た例を一発で出してくるね💧」
その時、ふと思い出した。
それは去年の12月の下旬祭後に西宮神社の宮司さまが話された事。
ヒルコノミコトは、海に捨てられた可哀想な神と思われていました。
古事記などの書物について、昔から研究がされていまして、
平安時代にもそういう会があったのですが、その時にこんな事が分かりました。
ヒルコノミコトに使われる「棄つ」という言葉は今では「棄てる」という意味ですが、
古事記の中で「棄」という漢字が使われている他の場面を調べたところ、
イザナギが黄泉の国で逃げる際に「桃を棄つ」であったり、
櫛を折って「棄つ」という所で出てくるんですね。
神話においては単に「棄てる」という意味ではなく、
その場を清め浄化する意味。
さらに、捨てた場所からタケノコが生えてくる事から、
再生や誕生をさせる力を持つ言葉であると分かりました。
こういった事から、単に棄てられた可哀想な神ではなく、
清め浄化し、
再生させる力をもった
神であると思われます。
頭の中がパアッと晴れた。
ヒルコノミコトは
穢れて沈んだ太陽を
海の中で清め浄化し、そして太陽本来の力を再生させ、
新しい "朝" を誕生させる神……
海に沈んでいる間の……
つまり
夜の "見えない太陽" を守り司る神なのでは。
菊「サナギ。なんだ……きっと」
さ なぎ。
狭 凪。
「凪」は風速ゼロの静かな状態。
「狭」は神聖。
菊「そして、そのまま狭いという意味も」
サナギは殻の中で、新しい姿を再生し、
羽化をする。
そしてサナギから出た蝶のその姿は……
自由で、軽くて、美しくて
そんな日々を、えびす神は私たちに毎日、毎年、
ある一定の期間を「サナギ」の中で守り、清め、与えてくれている。
『青柴垣神事』で、當屋さんが『蝶形の扇』を後ろ襟に挿して、
それが私は後光に見えて太陽のようだと書いたけど。
『青柴垣神事』での「蝶」は
「太陽」そのものであるんだろう。
子狐1「清められた太陽を釣るのが "三郎殿" で、
海の中で清める事をされているのが "夷さま" という事?」
菊「……夷さま……えびす」
もともと古代はやまと言葉。
音に意味があり、漢字は後世の単なる当て字。
「え」=「江」
「び」=「日」
「す」=「守」
そんな漢字が浮かんだ。
「江」はもともとは「大きな川」という意味だが、日本特有の意味がある。
それは「海や湖水などの陸地に入り込んでいる所。いりえ」とある。
菊「西宮神社も昔は入り江にあったし、
美保神社も入り江だよね」
"えびす神" って、入り江にいて、
或いは入り江の中で
太陽を守る神の事を指しているのでは……。
子狐1「太陽のことを "お日さま" って呼ぶけど。
この "日" っていう字って、いろんな読み方があるんだね。
さっきも "その日一日" って……」
菊「ほんとだね……」
『日』という漢字が表すもの
① 太陽
② 昼間
③ 一日 日にち
④ 日々
⑤ 日曜
⑥「日本」の略
……そうか。
「日」という字は太陽であり、それは私たちの毎日の暮らしそのもので。
そしてそれはまた「日本」という国そのもので。
菊「……えびす大神さまはさあ……」
新しい太陽を……つまり新しい「朝」を釣り上げ、
新しい「暮らし」を毎日、私達に与えて下さっている。
そして
今は……
清めた光り輝く "新しい時代" を釣り上げ、
与えてくれる神なのではと、私は感じた……。
《『ヒルコノミコト』最終話に続く》