【菊と稲荷】の始まりの物語はコチラです→『プロローグ。』
<あらすじ>
『怖いと思われている稲荷の誤解を解いてほしい』
その言葉と共に、六甲山の高取神社で
「神様」という存在に、前よりも強く接続してもらった私。
前からついていたという高野山の清高稲荷大明神さまの
子狐眷属の姿も確認できるようになり、
奇妙な共同生活(?)が始まっていた。
その清高稲荷大明神に依頼されたお祭りが終わると同時に、
次のミッションが始まっていた。
それは「事代主(コトシロヌシ)という神を解読すること。
事代主神とは、もう一柱の「えびす神」だった。
***
続きです。これまでのお話。
ご祈祷とその巫女舞が始まる前に、
事代主神さまの本殿すぐそばに行った私。
そしてご祈祷が始まり、祝詞が奏上される。
私は急いで録画を開始した。
曇る視界の中
途中からはうつむいて
震えながら
拝殿に響き渡る祝詞をただ聞いていた。
夜の守り 日の守り
それはいつも私が奏上する「稲荷大神秘文」にもある言葉。
その言葉からの叫ぶような祝詞の響きが、
胸に刺さった。
響く。響く。
私はさっき拝殿前に戻る前に、戻りかけた足を止め、
再度裏山の前に戻り、そこで柏手を打って確認をしていた。
菊「……やっぱり拝殿で打つ方が、音がきれいに響くんだ」
聞いたこともないような胸の震える祝詞と巫女舞を体感した後、
私は拝殿の正面に戻り、事代主神さまを待った。
何か言葉が欲しかった。
渡されるのをただ待っていた。
風
反響し、海に届く
風通し
「…………………」
形あるもの
粒子を通過し、届く
届くが、逆さとなる
直に海へ
本当はそれがいい
最初に届いたのは「反響」という言葉で。
それはこの地形だから起こることだって、
美保神社に立っていた私は気がついていた。
そしてそのことは帰宅してから再度見た
美保神社の公式サイトにも書かれていた。
船庫を模した独特な造りで壁がなく、梁がむき出しの上、天井がないのが特徴です。
この構造に加え周囲が山に囲まれている為、優れた音響効果をもたらしています。
この拝殿は昭和3年に建てられたとあるけれど
その前も その前も
ずっと遥か昔から……
背後の山に向かって打つ音の響きを、
海の中の神に伝えようとしてきたんじゃないだろうか。
その響きは山に反射することで
より広く、より遠くに響き渡ったのではないだろうか。
海はとても大きく、深いから。
形あるもの
粒子を通過し、届く
空気、建物、植物、海水……
すべてのものは元は素粒子からなる。
だから伝わるんだと思う。
祈りは、海の底であっても。伝わるんだと思う。
美穂神社の拝殿は、音を美しく響かせ増幅させる。
その響く音に加え、
逆さにならない音や声も……事代主神は聞きたいのかも。
そんな風に思った。
忘れそうになった『美保神社ではおみくじを引く!』というのを思い出し、
引いてみて拝殿で封を開けた。
そして出てきた『当り矢』
菊「………書きますね。私が感じた事代主神さまの言葉」
美しく響く拝殿から届く音や声。振動。
そして直に触れられる、音や声。振動。
「その両方があれば」
それくらいのわがまま……というか。
そんなん、叶えてさしあげたいと思った。
美保神社の大鳥居を出てすぐ前の場所に
海に触れられる階段がある。
ここで『冨屋』は毎晩禊ぎをされているのだろうか。
菊「事代主神さま、触れることができました。
ありがとうございます。絶対に書いて伝えますから……!」
現地に立つと、ものすごく感じる。
そこに祀られる神様のこと。
美保神社を離れ、向かうは出雲大社。
その方向に、光が差していた。