私が本当に愛した男 | 立ち止まったハートが前進する!未来が視える奇跡リーディング

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リーディング小説「生む女~茶々ってば~」

第三十三話 私が本当に愛した男

 

 

生きて生きて、生きのびてきたのは、彼のためだけ

愛されている自信が、ない

傷つくのは、こわいですか?

私はコンフェイト

女として生まれ、女を武器に、天下を取る

妻の策略

野心と快感の扉

Are You Ready?

この野望を叶えるためなら、どんな手段でも取る

命がけで私の野望を叶える男

天下人の愛妾

二度と女に生まれてきたくない

だったら、私が強くなればいい

本当に欲しいものは、どんな手段を使ってでも手に入れる

女としては最低だが、母としては当然

それも一つの愛の形

本当に嫌な女だ

私が一番、愛されている

お金は何のために使う?

I am a woman 今の自分から自由になる

よこせ よこせ 私に子種をよこせ!

欲しいものは欲しいと望み、手を伸ばすからこそ、与えられる

神は強い思いを持つものに味方する

運は強気なものに微笑み、その背を押す

自分の存在価値を、認められますか?

愛しすぎる女たち

親の期待に添って生きる子どもたち

正直に言おう、きらいだ、大嫌いだ!

今あなたが生きている現実は、すべてあなたが引き寄せたもの

愛に満たされて

私を抱きなさい

 


これまで抑え続けてきた本音が明らかになった今、するべきことがあった。
涙をぬぐい、背筋を伸ばす。

顔を上げ、秀頼と千姫のところに向かった。
徳川との最後の戦が始まり、徳川のルーツを持つ千姫は、周りから白い目で見られていた。

それでも彼女は気丈にふるまっていた。

その姿は彼女の祖母であり、私の母を思い出させる。

伯父織田信長と戦っていた浅井の城で、母は敵方の身内だった。

だが母は何にも臆することなく、堂々としていた。

千姫の中にたしかに浅井が生きている、と涙が出そうな思いだった。

母上、あなたの思いと血脈は受け継がれています

思わず天を仰ぎ、感謝した。

 

この日二人は、死を覚悟した青ざめた顔をしていた。

千姫は私が何を言うのか、わかっていただろう。

うつむいたまま震える千姫の手を、秀頼はしっかり握りしめていた。

「千姫、あなたはこれ以上ここにいる必要はありません」

千姫は私の言葉を聞いて、顔を上げしっかり私を見た。

「お母様、私は秀頼様の妻です。
最後まで一緒に居させてください。
それに・・・
それに、私は何の役にも立ちませんでした!
お母様と秀頼様の命を救うことができなかった私は、この世で生きていく価値などありません!」

千姫は、泣きながら叫んだ。
その千姫の肩を抱き、秀頼は静かに言った。
「もうそれ以上、何も言わなくていい」
とても慈愛に満ちた言葉だった。

私は千姫のそばに行き、膝を折り彼女を見つめた。
「何を言っているのですか、千姫。
あなたはまだ若い。
あなたは、私達のために本当によくやってくれました」

それは私の本心だ。

私は彼女に精いっぱいのやさしさと慈しみを込めて伝えた。

「あなたは家康様の孫娘。
家康様も孫娘のあなたが城外に出れば、喜んで迎えるでしょう。
秀忠殿も江も、あなたの無事を祈り、帰りを待っています」

その言葉に千姫は、強く首を振った。

「いいえ、お母様!
千は、もう徳川の人間ではありません。
豊臣の人間です。
お母様が私をずっと疎んでいたのは、知っていました。
でもそれは仕方のないことです。
けれど、最後は・・・・・・
最後くらいは、豊臣の女として秀頼様とこの世を去らせて下さい!」

千姫は私を見つめ、必死に嘆願した。
そんな姪に、私はなおもやさしく話しかけた。

「千姫、あなたには私と江の母、浅井家と母上の実家、織田の血も流れています。
秀頼も私もそうです。
わかっているでしょう?

豊臣はこれで終わりです。

終わるのです。
秀頼の父、秀吉は一代で農民から天下人に成り上がりました。
ですから、その家系がここで尽きるのは仕方ないことです。
けれど、浅井と織田の血は絶やしてはいけません。

それは徳川の血と一つになり、後世につながっていくのです。
私達の中に綿々と流れるご先祖様の命を、無駄に殺してはいけません。

私と秀頼は家康様に引き渡されたとしても、殺される運命です。
それを江や初に見せるわけにはいきません。
二人共、私達のためにどれだけ尽くしてくれたことか。

でもどうしようもありませんでした。

千姫、あなたの寿命はここで尽きるのではありません。
生きるのです!
生きて、後世の人たちに正しく伝えてほしいのです。

あなたと秀頼のこと。
大阪城での暮らしのこと。
誰も本当のことを知るものがいなくなったら、人はおもしろおかしく書き立てるでしょう。

だから、千姫。
生きるのです!
生きて、命を伝えるのです」

千姫は唇をぐっ、と噛みしめうつむいた。
秀頼が千姫をそっと抱き寄せた。

「千、千には大阪城を出て、生きて欲しい。
だからおじいさまのところに行きなさい。
私は千と一緒に過ごせて、本当に幸せだった。
千の笑顔を見ているだけで、私の心は癒された。

もし今度平和な時に生まれたら、もう一度一緒に生きよう。
約束する。
その時は共白髪になるまでずっと一緒にいる。
だから、今は生きて欲しい」

そう伝えると秀頼は千姫をぐっと抱きしめ、私の目の前で口づけをした。
心臓をぐっ、とつかみ取られるような痛みを感じた。

だが必死にこらえた。

そして叫んだ。

「千姫の支度を!」
千姫の乳母や侍女や家来達に千姫がこの城を出る仕度するよう、命じた。
ついに千姫は泣きくずれ、その背中を秀頼は撫で続けた。

「大丈夫だ。
大丈夫だ。
千がどこにいても、私は君をあたためる日差しとなり、風となり、見守っている」
秀頼は、ずっとそう言い続けた。

そう言わねば、彼女がこの城を去れない事を知っていた。

 

「千姫様、お支度ができました」

乳母が声をかけた。

秀頼と千姫はその場で固まった。

一瞬、時が止まった。

が、私はその沈黙を引き裂き、鋭く言った。

「千姫、行きなさい!」

それでも千姫は動こうとしない。

泣き疲れ呆然とした顔で、その場に座り込んでいた。

秀頼がまた千姫を抱き寄せようとした。

それより早く、私は秀頼の手を掴んだ。

秀頼が私の顔を見返した時、私は黙って首を振った。

これ以上、彼女に優しくするのは酷だ。

自由にしてあげなさい、と目線で伝えた。

黙ってうなづいた秀頼は、瞳にしっかり彼女を焼き付けるように見つめ、口を開いた。
「千、行きなさい」

生きなさい、と聞こえた。

千姫は一瞬雷にでも打たれたように、ビクッ、と大きく身体を震わせた。

真っ青な顔色で何も言わず、その場で居住まいを正し、深くお辞儀をした。

そして幽霊のようにふらふらと立ち上がった。
やがて両脇を乳母や侍女たちにつかまれ、家来に守られ去って行った。

秀頼はもう何も言わなかった。
彼の瞳は涙に濡れ、千姫の姿が見えなくなるまで、その場に立ちすくんだ。

 

「秀頼」
私は息子の名を呼んだ。

そしてだらりと伸びた腕を持ち上げ、そっと手を握った。
その手は、さっきまで千姫の手を握り、彼女を抱き寄せていた手だ。
私の手など弾かれると思っていた。

だが秀頼は、私の手を強く握りしめた。
そして声を殺し涙を流した。
私は秀頼を抱きしめた。

「よくがんばりました。
よく決断して、千姫を逃がしました。
これでよかったのです」

とても穏やかで満ち足りた気持ちだった。
もうすぐそこまで死が近づいているというのに、私はこの上もなく幸せな顔をしているにちがいない。

そして自分の心を開いた。

 

ああ、これで誰も邪魔者はいなくなった。
やっと、やっと、私だけのものになった。

私は力強く秀頼を抱きしめた。

秀頼・・・・・・
私がこの世で愛した、ただ一人の男。
あなたは私のもの。

私だけのもの。
私はあなたと、どこまでも一緒。
来世はあの娘ではなく、私と一緒に生まれ変わるの。
親子ではなく、ただの男と女として。

今ならわかる。
私は秀頼と一緒に死にたかった。

だからこの戦を引き寄せた。
私の無意識の強い思いが、豊臣の滅亡を呼ぶ戦を引き寄せた。

秀頼を生かそうと思えば、豊臣を捨て出家させればよかった。
だが私はそうさせなかった。
豊臣を守る、という名目で、家康と戦わせる流れを呼び、二人でこの世を去るシチュエーションを作った。
なんというひどい女だ、私は・・・・・・。

だけど今、私はこの上もなく幸せだ。
心から愛に満たされている。


この上もなく幸せな気持ちで秀頼を抱きしめ、治長を見た。

彼は目を見開き、秀頼を抱きしめている私を凝視していた。

治長に抱かれた時、私は知らず知らず秀頼の名をつぶやいてしまった。
治長は知った。
自分が私に愛されているのではなく、息子が私に愛されていることを。

身体の悦びは、治長が与えてくれた。
それは、秀頼にはできないことだから。
だが心の悦びは、秀頼にしか感じない。

私に尽くしてくれた治長に感謝はしている。
だから、最後に身体を与えた。
それが私にできる彼への精いっぱいの気持ちだった。

 

初めて秀吉に抱かれた時から、私は男に憎しみの気持ちしか持てなかった。
乳兄妹の治長さえ愛せなかった。
だが自分が産み出した男にだけは、純粋な愛を感じられた。
心から愛おしい、と思えた。

最初は鶴丸の生まれ変わり、と思った秀頼だったが、ちがった。
秀頼は私を救い、愛を教えるため、ちがう星からやってきた王子だった。


私が生き延びてきたのは、秀頼という王子がいたからだ。

千姫を嫁にもらった時、どれだけ激しい嫉妬の嵐に巻き込まれたことだろう。
きりきりと歯を食いしばり、耐えた。
側室に嫉妬などなかった。
秀頼の愛を一心に受けた千姫が憎かった。
だがその千姫もいなくなった。

私と秀頼は二人であの世に旅立てる。

 

もう一度治長を見た。

彼は私と目が合うと、視線を背けた。
私の命を断つ治長の刃に憎しみが宿ることだろう。
仕方がない。

開いた心は、もうごまかせない。
私は最後の最後にようやく、母上の言葉通りに生きられた。

「心だけは、自分に正直に生きること」

そうだ、私は自分の心に正直になり認めた。

私達がこの世に滞在する残り時間は、あとわずかだ。

それは死への旅立ちではなく、ハネムーンへの旅立ちを待つ時間だった。


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