リーディング小説「生む女~茶々ってば~」
第九話 この野望を叶えるためなら、どんな手段でも取る
子どもがほしい!
「ああ、今回も・・・・・」
月のものをトイレで見た私は、ため息をついた。
自分の子宮から流れ出た赤い血。
私に子どもができない証をまざまざと見せたように、忌々しいものだった。
子宮から流れ続ける血は、お腹にさしこむような痛みを私に与える。
背中を丸め、布団の中で身体を震わす。
子が
子どもがほしい!
私の子が欲しい!
それも男子だ!
もしこのまま、秀吉の子を身ごもることができなかったら、と思うと背中に冷たい汗が流れる。
好色の秀吉は、私に飽き、またすぐ新しい女に目を移すだろう。
敵はその女だけではない。
どの女であろうと秀吉の子種を受け取った時点で、それ以外の女達の役目は終わる。
中古品になった私は他の女達と同じように「側室」という肩書だけ与えられ、飼い殺しにされるだけだ。
浅井と織田の血を引く私が農民ごときに屈辱を受けるなど、絶対に許さない、とギリギリ歯を噛みしめる。
白い布団に私の子宮から流れた赤い血がにじむ。
妊娠できない不安と先の見えない恐怖で、私は叫び声をあげ、自分の心をえぐり血を流す。
この日を境に私は体調が悪くなり、寝付く日が多くなった。
が、安らかに眠れる時などほとんどない。
妊娠できないまま他の女の産んだ男子を抱いた秀吉の夢ばかり見て、うなされた。
目を覚ますと、汗でぐっしょり濡れた夜着が重い。
生理が近づくとさらにひどい状態になり、夜も眠れない。
目の下に黒いくまができ、胃がキリキリ痛み食事も喉を通らなくなった。
赤い蒔絵に金の花が描かれた私のお気に入りの膳。
そこには秀吉が食の細くなった私を心配した秀吉が送った甘い果物や柔らかい魚が並んでいた。
だがまったく食欲がわかない。
ため息だけが膳を彩る。
妊娠した未来のビジョンを見たからすぐに子供はできるもの、と思いこんでいた。
だができない。
現実との落差に胸をかきむしり、白い胸元に赤いミミズが何本も這った。
自分が不妊症ではないか、という怖れを感じ
「こんなはずではなかった」
言葉をもらした。
その瞬間、すぐ横で心配そうに見つめていた乳母の大蔵卿局(おおくらきょうのつぼね)は、手をさしのべそっと私を抱き寄せた。
彼女は私が生まれた時から母の代わりに乳を含ませ、私を慈しみ育ててくれた。
母のお市が「女」を見せてくれた存在なら、私に「母」という存在を見せてくれたのは、この乳母だった。
誰よりも私を愛しみ、見守り、叱咤激励し、どんな時もそばにいて尽くしてくれる。
北ノ庄城を出た時、母は乳母の大蔵卿局に私を託した。
母は彼女が誰よりも私を慈しみ守ってくれる存在だ、と知っていたからだ。
私の背中に手を回した大蔵卿局は私の耳に顔を寄せた。
そして驚くべき言葉を告げた。
「茶々様、女は子種がどの男のものかわかります。
けれど男は生まれた子が自分の子種かどうか、わかるすべはありませぬ」
私にだけ聞こえるひそか声で告げられた言葉は、眠っていた子の頬を打つように私の心を叩いた。
その手があった、と気づき、一瞬、背筋が伸びた。
どうやってでも子どもがほしい。
この野望を叶えるためなら、どんな手段でも取る。
どんなことでもする。
そんな私の心を彼女の言葉は射抜いた。
目の前に一本の光輝く道が広がるのが見える。
その道はうっとりするくらい美しい金色の光に包まれていた。
一歩踏み出そうとした時、秀吉の黒い影が立ちはだかった。
女好きのくせに、嫉妬深い男。
彼は私のところに通わないも他の男の出入りを恐れ、自分の家来を配し、くまなくチェックしている。
そのことも大蔵卿局も知っている。
秀吉の包囲網をかいくぐったとしても、都合のいい子種を持つ男との出逢いなどない。
ため息をついた私の手を強く握り、大蔵卿局は策士のごとく目を光らせ、小さな声でささやいた。
「いいえ、茶々様。
茶々様に子種を与える男は、外にいるのではございません」
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