リーディング小説「生む女~茶々ってば~」
第四話 私はコンフェイト
秀吉は、私が初めて身体を開いた男だった。
生まれて初めてのその行為は、苦痛でしかなかった。
私の両足は開かれ、すべてさらけ出された。
屈辱感と逃げたいほどの恥ずかしさで、固く目を閉じ、唇を噛みしめ耐えた。
むき出しにされた花芯に、女にはない男の一部が押し込まれた。
下半身が引き裂かれるような強い痛みに、私は何度も「やめて!」と泣き叫んだ。
すると彼は腰を動かすのを止め、私の手を取り
「大丈夫じゃ、茶々・・・」
と耳元でささやき、髪を撫でた。
そしてすぐまた激しく腰を動かし始める。
彼が腰を動かし私を責めるたび、串刺しに貫かれる痛みで、何度も腰を引いた。
私は彼の身体の下で、早くこの行為が終わり痛みから解放され、身体から彼が出ていく事を祈った。
固く閉じたまぶたの裏側に、小さな小さな白い粒が浮かんだ。
それが何だったか、必死に考える。
考えることで、今の現実から逃げたかった。
はぁっ、はぁっ、と秀吉の口から息が出るたび、子宮に鋭い痛みが走る。
その時、その小さな甘い菓子を思い出した。
たしかそれは、コンフェイト・・・
「ほれ」
目の前に差し出された、伯父信長のがっちりした茶色の手のひら。
そのくぼみに白い小花のような粒がいくつかあった。
伯父は誇らしげに、そして少しはにかんだ表情で、それを母や私達姉妹の前に差し出した。
「海の向こうのポルトガルから来たコンフェイト、という菓子じゃ」
「まぁ、珍しい!」
一番に手をのばし、親指と中指で一粒コンフェイトをつまんで口に入れたのは、母だった。
私と妹達は目を見開き、母の様子をじっと見つめた。
「あっま~~い!」
肩をすくめ、とろけるように幸せな顔をした母が叫んだ。
母の声を聞き、すぐ末の妹の江(ごう)が手を伸ばし、コンフェイトを口に含む。
初も江に負けじと急いでコンフェイトを口に入れた。
私だけが、伯父の手の中ひらに残った一粒のコンフェイトをじっと見つめた。
伯父は慎みのない者が嫌いだ。
伯父の不興をかい、罵倒され城を追い出された者たちを何度か見ていた。
生まれて初めて見たこの菓子に私まで手をのばしていいのか、迷っていた。
それが母に、大人の顔色を見て子どもらしくない、と言われる態度だとわかっていた。
その時
「茶々、口を開けてみろ」
と伯父が有無を言わせない声で、私に命じた。
唇をかみ、うつむいた顔を上げ伯父を見た。
だがその目はやさしかった。
半開きにした私の口に、伯父は指でつまんだコンフェイトを投げ込んだ。
とたんに、これまで感じたことのない甘さが口の中に広がった。
驚いて、固い小さな粒をがりっ、噛み砕こうとした時だった。
「ダメ!」
母が叫んだ。
「ゆっくりお食べなさい。
じっくり味わうの。
口の中でとろけ、身体中に広がる甘さと幸せをしっかり感じて」
「お姉さま、ずるい!
お母様、私達にも教えてくれたらよかったのに!」
とっとと食べ終えた初と江が、うらめしそうに私を見る。
私は目を閉じ、生まれて初めて食べるコンフェイトの甘さに身も心もゆだねる。
ゆっくり時間をかけ、ほんのわずかな欠片になっても丁寧になめ尽くした。
食べ終わると
「ああ、美味しかった!伯父様、ありがとうございました」
と素直に言葉に出せた。
母も伯父もあたたかいまなざしで私を見つめていた。
浅井の父を私達から奪った伯父は、何かと母や私達を気遣ってくれた。
この国でコンフェイトを一番に食べたのは、伯父の織田信長だった。
砂糖を輸入に頼っていた日本で、コンフェイトはとてつもなく高価なものだった。
伯父は見えない翼で私達を包み、守り愛おしんだ。
幸せな少女時代だった。
今思えば。
秀吉の動きは止まらない。
そうだ、私はコンフェイトだ。
彼にとって主君の血筋を引く姪の私は、ポルトガルから来たとてつもない高級なコンフェイトと同じ。
甘い蜜でできたコンフェイトは、じっくり味わって食べるものだ。
だが秀吉は私をゆっくり味わない。
とけるまで待たない。
濡れるまで待てない。
がむしゃらに押し込むだけ。
彼は自分の欲望を叶えるため、せわしく噛み砕く。
喉の渇きをいやす水を求めるように、必死に腰を動かす。
あまりの滑稽さに、笑いそうになった私は顔をゆがめた。
ガリガリガリガリ ガリガリガリガリ
コンフェイトの幸せな思い出ごと、私は秀吉に食べられる。
屈辱も羞恥心もすべて、砕かれていく。
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コンフェイトは、金平糖。
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