中国海軍の造船母体ピンチ汚職で空母造船社長が拘束

中国海軍の造船母体ピンチ
汚職で空母造船社長が拘束

中国初の国産空母など海軍艦艇の建造を主導している大手国有企業「中国船舶重工集団（中船重工）」の孫波社長が「重大な規律違反と違法行為」の疑いで拘束され、汚職スキャンダルの可能性が出ている。中国にとって国威発揚の悲願とも言える空母建設を巡る不正事案は空母の不具合への責任問題との見方や空母の機密情報を米国に売り渡したスパイ容疑疑惑まで浮上し、国家機密漏洩が取り沙汰されている。（香港・深川耕治）

機密漏洩、欠陥など憶測も
米国に対抗、強国路線に影

中船重工は１９９９年に設立した中国海軍の要となる造船や舶用機器の製造を担う造船の最大手国有企業で傘下に約８０社の企業、団体がある。

中国海軍の造船供給母体とも言える同社は、中国の潜水艦輸出戦略を下支えしており、同社製の潜水艦はパキスタンとタイが購入。中東や中南米諸国も購入に関心を示しており、傘下の７１９研究所の黄旭華名誉所長は「中国原潜の父」と呼ばれ、習近平国家主席とも懇意だ。

中国共産党の汚職摘発機関・中央規律検査委員会と国家監察委員会は１６日、中船重工の実務を取り仕切る孫波氏の摘発を発表し、波紋が広がっている。

違法行為の内容は公表されないままで、海軍の最新鋭技術に直接関わる国家機密が含まれるため、習主席が進める国産空母建造による海洋進出路線に大きな足かせとなりかねない。

香港紙「蘋果（りんご）日報」や香港に拠点を置くニュースサイト「アジア・タイムズ」は孫波氏がウクライナから購入した旧ソ連時代の「ワリヤーク」を改造して２０１２年に就役した中国初の空母「遼寧」の設計情報を米中央情報局（CIA）に売り渡したと報じている。

CIAに機密情報を横流ししたことが事実とすれば、１９８６年に中国国家安全部北米外事局長だった兪強声氏が米国に亡命して以来、中国第二の重大な国家叛逆スキャンダルということになる。

汚職の火種は一年半前からあった。

中船重工の党組織幹部メンバーだった劉長虹氏が２０１６年１１月、汚職で摘発された。今回、拘束された孫波社長（党組副書記）とは２０１１年５月から約５年間にわたって中船重工の党組織幹部メンバー（紀律検査組組長）として共に働いてきた。香港紙「蘋果日報」の報道によると、劉氏は企業経営の便宜を図って収賄を重ねた容疑で拘束され、公職追放と党籍はく奪処分となり、昨年３月から孫波氏も調査対象者となり、調査終了後、拘束された。

中船重工傘下の武船集団が香港と珠海、マカオ間の海上橋計画である港珠澳大橋建設プロジェクト（全長３５キロメートル）の７．１５キロメートル部分を請け負ったことで孫氏は１６年末に珠海を視察し、「安心プロジェクトだ」と絶賛したというが、同プロジェクトも手抜き工事として香港各メディアで報じられている。マカオ国際軍事学会の黄東会長は空母「遼寧」や建造中の新空母が強度不足問題を抱えいることを指摘しており、手抜き工事の責任問題も浮上している。

軍事上の国家機密漏洩に関してはシンガポール紙「聯合早報」が中国空母専門家の李傑氏の話として「空母は国家戦略用の武器装備であり、厳正な審査と管理で行っているので個人的な収賄は起こりえず、孫波氏の拘束は個人の規律違反であり、中国空母とは直接関係はない」との見方を紹介し、中国政府も火消しに神経を使っている。