若者離れ、民主派が惨敗 香港立法会補選
議員立法の否決権失う危機
低投票率で親中派躍進
中国に批判的な民主派議員の失職に伴う香港立法会(議会=定数70)補欠選挙(改選数4)は11日に投票が行われ、4議席回復を目指す民主派は2議席に留まり、組織力で勝る親中派は2議席獲得した。中国からの独立志向の強い候補が出馬を取り消されて若年層の投票率が下がり、民主派は重要法案の拒否権すら得られない大惨敗。中国政府は香港統制に自信を深める一方、香港の民主化運動は戦略見直しを迫られている。(香港・深川耕治)
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見直し迫られる民主化運動
香港統制の自信深める中国
習国家主席の権力集中も
今回の補欠選挙では、直接選挙区3議席のうち、民主派陣営は香港島区(区諾軒氏)と新界東区(范国威氏)の2議席、親中派陣営は九龍西区(鄭泳舜氏=右写真中央)の1議席を獲得。親中派の牙城である職能別選挙区1議席(建築・測量業界)も順当に親中派(謝偉銓氏)が当選した。
今回の補欠選挙では、直接選挙区3議席のうち、民主派陣営は2議席、親中派陣営は1議席を獲得。職能別選挙区は親中派が1議席を得た。
議員を失職して再出馬した民主派の姚松炎氏(九龍西区)が民主派内の分裂から2419票の僅差で鄭泳舜氏に競り負け、落選した衝撃は大きい。香港島区でも親中派が約9000票差まで追いつめた。全体の勢力は親中派42、民主派25、中間派1(欠員2)となった。
投票率は43%で16年9月の立法会選(58%)を15ポイントも大きく下回った。補選では6割が民主派支持という「黄金律」(香港各紙)が今回は若年層の選挙離れで崩れ、得票率は民主派47%、親中派派43%。
返還後、直接選挙区の補選で負け知らずの民主派が初めて敗北。議員立法の拒否権すら得られない危機に直面している。
立法会は直接選挙区(35議席)と職能別選挙区(35議席)の二つがある。立法会の直接選挙区35議席(欠員2)のうち、親中派17議席、民主派16議席となり、親中派が過半数となる議会運営の主導権を得た。職能別区も親中派25議席、民主派10議席となり、過半数を維持。
議員立法の法案は、直接選挙区と職能別区の双方で過半数の賛成によって成立するため、民主派は法案に対する拒否権を回復すらできず、致命的な大惨敗となった。民主派支持の香港紙「りんご日報」ですら香港島区で辛勝した民主派の議席に対して親中派が約9000票差に迫る「惨勝」と表現し、敗北を認めている。
雨傘運動が14年末に終了後、若年層の政治意識が高まり、16年の立法会選挙では、親中派が40議席、民主派が30議席を確保して民主派が躍進。直接選挙区(定数35)で19議席を獲得し、引き続き、議員立法の否決権を得て民主派は勢いづいていた。
しかし、中央政府の強かな民主派分断工作が始まり、本土派や独立派の新議員の就任宣誓で中国を侮辱する発言をするなどして6人が香港政府から議員資格を剥奪され、直接選挙区で民主派は過半数を割り込んで初めて法案拒否権を失った。
親中派は返還後初めて直接選挙区、職能別選挙区の双方で過半数を確保。中央政府の肝いりで香港政府が独立志向の強い本土派への議会政治排除を行うことで、親中派は選挙区別で過半数を握り、議会運営の主導権を着実に得始めた。
一方、民主派は25議席に減り、重要法案を否決できる定数の「3分の1」を割り込む水際まで勢力が弱体化した。昨年12月、親中派主導の議会では議長の裁量権拡大など議事運営を有利にする議事規則改正案を可決。中央政府の意向に沿う議事運営を有利に進め、民主派の議会での抵抗力を着実に削いできた。
補選(香港島区)で辛勝した区諾軒氏(左写真中央)が2016年11月に香港基本法の文書をデモ活動時に焼いた行為が立法会議員就任にふさわしくないとして裁判で議員資格失効を提訴しようとする動きも始まっている。
たとえ民主派が立候補資格を得て当選しても議員資格失効が続けば議席数が目減りするため、「合法的な選挙結果を水泡に帰そうとする親中派の動きは社会の和諧を乱すだけだ」(民主党の涂謹申立法会議員)と強く憂慮。さらなる“本土派狩り”が拡大し、中国政府の強権に反対する動きが封じ込まれて統制が強化されていく司法判断に若年層を中心に無力感と政治離れが広がっている。
民主派が補選で否決権を回復できなかった大敗は、親中派が今後、自らに有利な議員立法をさらに工作、成立させる動きを加速させ、香港の政治的自由、言論の自由はさらに狭まり、親中色が強まることで失望感と台湾の警戒感をさらに高めることになる。
習近平国家主席が「終身国家主席」になる道を拓く全国人民代表大会(全人代=国会)の改憲可決による中央権力の強化に対し、香港市民の間で近未来への政治の失望感、無力感が急速に広がっている。
民主派の姚松炎氏(写真左)は支持者に何度も謝罪。
民主派内での協力を優先することを肝に銘じ、次回の2020年に行われる立法会選挙に出馬意向を示し、臥薪嘗胆して再起を目指している。
雨傘運動後の急進的な民主派は、香港独立派、本土派、自決派など路線の違いがあり、路線対立も先鋭化。いずれも中央政府の目の敵となり、司法の裁きを受け、支持する若者たちの政治意識が急速にしぼんだ。
民主派が親中派よりも堅い団結が不可欠であり、若年層の政治意識の高揚が投票による政治参加に結びつく新たな政治手法が醸成できるかどうかが、民主派存亡の鍵となりそうだ。
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