『源氏物語』第4帖【夕顔】~第2章~(60~77)
【空蝉とのその後】
さて、かの空蝉のあさましくつれなきを、この世の人には違ひて思すに、おいらかならましかば、心苦しき過ちにてもやみぬべきを、いとねたく、負けてやみなむを、心にかからぬ折なし。かやうの並々までは思ほしかからざりつるを、ありし「雨夜の品定め」の後、いぶかしく思ほしなる品々あるに、いとど隈なくなりぬる御心なめりかし。
うらもなく待ちきこえ顔なる片つ方人を、あはれと思さぬにしもあらねど、つれなくて聞きゐたらむことの恥づかしければ、「まづ、こなたの心見果てて」と思すほどに、伊予介上りぬ。
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【夕顔60-1】さて、かの
【夕顔60-2】
【夕顔60-3】
【夕顔61-1】いとねたく
【夕顔61-2】
【夕顔61-3】
【夕顔62-1】かやうの
【夕顔62-2】
【夕顔62-3】
【夕顔63-1】うらもなく
【夕顔63-2】
【夕顔63-3】
【夕顔64-1】まづ、こなたの
【夕顔64-2】
【夕顔64-3】
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まづ急ぎ参れり。舟路のしわざとて、すこし黒みやつれたる旅姿、いとふつつかに心づきなし。されど、人もいやしからぬ筋に、容貌などねびたれど、きよげにて、ただならず、気色よしづきてなどぞありける。
国の物語など申すに、「湯桁はいくつ」と、問はまほしく思せど、あいなくまばゆくて、御心のうちに思し出づることもさまざまなり。
「ものまめやかなる大人を、かく思ふも、げにをこがましく、うしろめたきわざなりや。げに、これぞ、なのめならぬ片はなべかりける」と、馬頭の諌め思し出でて、いとほしきに、「つれなき心はねたけれど、人のためは、あはれ」と思しなさる。
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【夕顔65-1】まづ急ぎ
【夕顔65-2】
【夕顔65-3】
【夕顔66-1】されど
【夕顔66-2】
【夕顔66-3】
【夕顔67-1】国の物語
【夕顔67-2】
【夕顔67-3】
【夕顔68-1】ものまめやかなる
【夕顔68-2】
【夕顔68-3】
【夕顔69-1】げに、これぞ
【夕顔69-2】
【夕顔69-3】
【夕顔70-1】いとほしきに
【夕顔70-2】
【夕顔70-3】
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「娘をばさるべき人に預けて、北の方をば率て下りぬべし」と、聞きたまふに、ひとかたならず心あわたたしくて、「今一度はえあるまじきことにや」と、小君を語らひたまへど、人の心を合せたらむことにてだに、軽らかにえしも紛れたまふまじきを、まして、似げなきことに思ひて、今さらに見苦しかるべし、と思ひ離れたり。
さすがに、絶えて思ほし忘れなむことも、いと言ふかひなく、憂かるべきことに思ひて、さるべき折々の御答へなど、なつかしく聞こえつつ、なげの筆づかひにつけたる言の葉、あやしくらうたげに、目とまるべきふし加へなどして、あはれと思しぬべき人のけはひなれば、つれなくねたきものの、忘れがたきに思す。
いま一方は、主強くなるとも、変らずうちとけぬべく見えしさまなるを頼みて、とかく聞きたまへど、御心も動かずぞありける。
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【夕顔71-1】娘をば
【夕顔71-2】
【夕顔71-3】
【夕顔72-1】今一度
【夕顔72-2】
【夕顔72-3】
【夕顔73-1】まして
【夕顔73-2】
【夕顔73-3】
【夕顔74-1】さすがに
【夕顔74-2】
【夕顔74-3】
【夕顔75-1】さるべき
【夕顔75-2】
【夕顔75-3】
【夕顔76-1】目とまるべき
【夕顔76-2】
【夕顔76-3】
【夕顔77-1】いま一方は
【夕顔77-2】
【夕顔77-3】
◇登場人物一覧◇