短編小説のような味わいの贅沢映画

1981年 監督/ ジョン・グレン

007シリーズ第12作。これまで、シリーズの第2班監督や編集を務めて来たジョン・グレンの初監督作品。
宇宙で大暴れした前作『ムーンレイカー』からの反動か、スペクタクル要素や秘密兵器を取っ払い、シリアスなスパイ劇にシフトしています!本作のプロットは、ミサイル誘導装置ATACの争奪戦。世界危機を阻止するような秒読みのスリルもなければ、クライマックスで敵陣地に乗り込み大暴れな展開もないんです!
小話にたっぷり時間をかけ丁寧に描写し、時にストーリーに直接絡みのないシーンをも紡いでいく事によって、作品世界に奥行きを持たせてます
丁寧な描写、見えない敵、サスペンスフルな展開こそが本作の魅力だと思います!原作者イアン・フレミングの世界観そのままを楽しめる贅沢な作品です!!

音楽は『ロッキー』で有名なビル・コンティ。どの場面に音楽をつけるか?いや、もっと言えばどの場面に音楽をつけないのか?そのセンスが凄いんですよね。あえて音楽を外し(或いは抑え)シーンを引き立たせるセンスが素晴らしいです!
もちろん音楽も独特のセンスでかなり印象的!
しかし、シーンを邪魔しないという素晴らしい仕事ぶり!

本作も、異色テイスト満載!且つシリーズで唯一無二の存在感を放っている"観るべき作品"です!


【この映画の好きなとこ】

◾︎ガンバレルタイトル
大胆なアレンジ!ギターが超絶カコイイ!


◾︎カーチェイス
おそらく秘密兵器が搭載されていたであろうロータスエスプリが早々に爆破退場した事から、メリナが所有するシトロエンで展開されるカーチェイス。もうコレ、漫画そのもの!コミカルでマジすんごいチェイスが繰り広げられています!!
このカット好き!
ボンドお気に入りの煙幕装置が無くても、現場で即席煙幕作っちゃう!

◾︎シーンの間
ストーリー上、無くても支障無いシーンをたくさん描写しているところに、人物の性格づけや、現場の空気感が漂っています!こういうのたまんないです!
ホットワインを楽しんだり
ビビとボンドがスキーに興じたり
メリナとコルフ島の市場を散策したり
通りでおじさん達が踊っていたり

いいですよね、こういうの!

◾︎狙撃手エリック
林間から飛んでくる銃弾に翻弄されるボンド。
敵がどこにいるのかわからない恐怖感がスゴい!
遠くからだと豆粒のようなボンドの銃、髪の毛のように細いスキーストックを、一発で撃ち抜く高度な狙撃テクニックにビビる!
けど、ボンドの大きな体に当てるのは苦手

◾︎ミロス・コロンボ (トポル)
『ロシアより愛をこめて』のケリム・ベイを彷彿させる、おおらかで豪快なボンドの協力者。この人抜きの本作は考えられない!
"明日は親友になっている" この人生観いいなあ
最後には若(すぎる?)く、超かわいいビビまでゲット!

◾︎朝の海岸
ひらひらドレスの女性と、ノータイ、ノージャケットのタキシード姿って、これ『女王陛下の007』へのオマージュですかね?『女王陛下の007』で、ボンドファミリー入りしたジョン・グレン監督だし。
リスル伯爵夫人を演じるのは、後の5代目ボンド俳優ピアース・ブロスナンの亡き前妻カサンドラ・ハリス。

◾︎ロッククライミング
クライマックス直前、敵陣地潜入の為に断崖絶壁を登るボンド。ちょっと怖すぎな高さと地形。音楽をつけずに、高所で唸る風の音しか付けてない所がまたリアルな恐怖を醸し出してます。

◾︎決着  ※ネタバレ
最後はコロンボとクリスタトス、因縁の対決。正直、ボンドの活躍でない上に、高齢者同士の取っ組み合い?しかし、コロンボが積年の恨みを晴らすかのような咆哮、鉄拳制裁はかなりスッキリするし、コロンボの思いが伝わるとてもいいシーンです!
異色テイストの本作ですが、プロデューサー、観客からの評判も良く、本作で監督デビューしたジョン・グレンは、1989年の『消されたライセンス』まで5作品連続で監督を任される事になります!これはシリーズ最多本数!
ジョン・グレンはロジャー・ボンドに怒りを持たせた人でもあります。本作以降のロジャー・ボンド好きですよ!

なんか、ボクの007シリーズレビューは、アクションシークエンスに触れる事が少なく、シリーズを知らない映画ファンに、魅力を伝えられていない気がするので、最後に本作のアクションシーン満載の予告編を貼りますので、どうか観てくださいね!


007シリーズこちらも
ノー・タイム・トゥ・ダイ