奇妙すぎ。

1967年 監督/ ルイス・ギルバート

007シリーズの第5作。日本が舞台となり、東京、神戸、愛媛、熊本、鹿児島を大横断し撮影された作品です。
私事ですが、僕の一番好きな007シリーズ作品は、第6作の『女王陛下の007』です。秘密兵器やSF要素を徹底的に排除した作風で、この『007は二度死ぬ』の対極にある作品です。そんな僕ですから長きに渡り、この作品はホント苦手だったんですよね。あまりにも漫画的な作風と、全体を覆う(時代故の)チープ感。編集やら撮影やら風景まで
とにかく何もかもが苦手だったんです。生意気にも、"007とはこうあるべき"という自分なりのベンチマークが確立していたんでしょうね。

しかし、人の趣味は変わるものですね

近年、B級映画に反応を示すようになってきてから、この作品が気になって気になって仕方なかったんですよ。"もしかしたら大好きな作品になるかもしれない"。そんな予感を抱きつつ鑑賞してみたら…最高じゃないですか!あっさり大好きな作品になりましたよ!コレむちゃくちゃおもしろい!

しかし、変わらぬこのチープさ、奇妙さはなんだろう??間違えた(というか、敢えて意図したとしか思えない)時代考証や風俗から、撮影に全面協力した日本からでさえ"国辱映画"と呼ばれたこの作品。
撮影は名匠デヴィッド・リーン。編集は安定のピーター・ハント。それなのに、異様なテイストの仕上がり。日本人?日本の風土?風景が原因??

いや…もしかして脚本?
いや…脚本家??

この作品の脚本家は、ロアルド・ダール。ティム・バートン監督、ジョニー・デップ主演作品『チャーリーとチョコレート工場』の原作者として知られるイギリス人作家です。奇妙でシニカルな世界観を持つ彼の仕業ですねコレは。
日本だから奇妙なのではなく、ロアルド・ダールの脚本だから奇妙なんですよ、おそらく。この作品の舞台が他国であったとしても、ロアルド・ダールの奇妙な世界観に支配されてたはず。そう考えると、とてつもなく贅沢でファンタスティックな作品じゃありませんか!?そんな贅沢な舞台に日本を選んでくれてありがとうって感じですよ!


【この映画の好きなとこ】

◾︎ジョン・バリーのスコア
シリーズの顔でもある作曲家ジョン・バリーが本作に提供した楽曲は、初期に見られる007節が最高潮に達してます!もうこれ以上はありませんね!シリーズになくてはならない人だけど、この作品にも絶対なくてはならない人!

◾︎ケン・アダムの美術
こちらの方もまたシリーズの顔。大里のオフィス、スペクターの秘密基地も最高だけど、このブロフェルドの書斎、どうですか!?ピラニアのプール付きですよ!
もうここに住みたい

◾︎日本上陸シーン
海中から上陸したボンドの目前に拡がる夕景。日本的な風景とボンドのコラボに超ワクワク!このあとのケバケバしいネオンへの繋がりも!
鈴虫の鳴き声がまた堪らないっすね

◾︎アキ(若林映子)
作品を好きになるついでにアキも大好きになっちゃいました!こんなに魅力的だったっけ!?
トヨタ2000GTを所有!カコイイ!
神戸港で見せるトレーナー姿!(もしかしたらトレーナーじゃないのかもだけど)普段着庶民派のボンドガールって珍しい!なんかリアルにドキドキする。
ウルウル過ぎる反則な瞳とか
着物もメッチャ似合う!!アップにした髪も!
もういろいろヤバいっす!つい貼りすぎた!

東宝の看板女優として、特に欧米での人気が高かったそうです。こんなにかわいすぎていいの?

◾︎ブロフェルド登場
いつものように、まずペルシャ猫を撫でるシーンのアップから始まるんだけど、コレ珍しく横から撮ってるんですよね。
正面から撮るのが通例なんだけど、この横からのカット最高にカッコいい!
で、幹部らに指示を出すとカメラがスーッと引いて…
去りゆくブロフェルドの足元が映される

このシーンメッチャ好き!音楽も!

◾︎ボンドの結婚式
任務の為に偽装結婚をするボンド。日本人に変装し妻を娶るシーン。ジョン・バリーの音楽 "The Wedding"が出色です!浜美枝の清楚な美しさも相まり、シーンを昇華させています。

◾︎月明かりに照らされた海
救援の為、海を泳ぎ渡るキッシー。月明かりに青く照らされた波の美しさと、迫るヘリコプターのスリルがたまんない。『ロシアより愛をこめて』ヘリ襲撃のシーンから派生し、『女王陛下の007』のピズ・グロリア脱出スキーチェイスに影響与えた?

◾︎エンディング
邪魔者がいない海で過ごすボンドとキッシーの救命ボートが、イギリス軍潜水艦に拿捕されるビックリ爆笑エンディング!最高ですよ。
いやあ、ホントにおもしろかったです!奇妙すぎるんだけど、現代の若い人が観たら、"私の知らない昔の日本"として、意外とすんなり受け入れられるかも。時間って色々解決してくれますね。あんなに苦手だった本作を、まさに掌返しで好きになる日が来るとは!

好きになる所が地味なとこばかりで、伝わりにくいかもですが、他の007作品では決して観られない、派手でメチャクチャなシーンの連続です!スペクタクル度ではシリーズいちじゃないですかね。クライマックスの阿蘇山内に作られたスペクター基地の奇襲攻撃なんか忍者部隊ですからね。刀と鉄砲で盛大にぶっ壊しますよ!最後には阿蘇山も噴火します!

これは奇妙な佳作ではなく、前衛的な野心作です。ロアルド・ダールの脚本を、正しく料理したルイス・ギルバート監督にも拍手を送りたいです!いやあ、つくづく日本人で良かったと思いますよ。

◾︎おまけ動画
爆発に驚き逃げようとする猫と、それを必死に抑えつけるドナルド・プレザンスに萌えてください

※動画お借りしました

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ノー・タイム・トゥ・ダイ