ブロッコリの選択
マーヴィン・ハムリッシュとクロード・ノアール
1977年 監督/ ルイス・ギルバート
007シリーズ第10作。監督は『007は二度死ぬ』『ムーンレイカー』含めシリーズの三作品を手がけたルイス・ギルバート。荒唐無稽でダイナミックな作風を好むギルバート作品でありながら、本作の印象はまるで違うんですよ。画面上ではギルバートカラーの大スペクタクルが展開されているのに、この漂う気品は一体なんだろう?

ひとつの理由は音楽(だと思う)
本作の音楽担当は『スティング』『コーラスライン』などを代表作に持つマーヴィン・ハムリッシュ。格調高く印象的なスコアでこれまでとの差別化に成功。更にバッハ管弦楽組曲第3番や、モーツァルトピアノ協奏曲第21番までをも使用し、これまで誰も見た事がない新しい007世界を切り拓いています!

もうひとつの理由は撮影(だと思う)
本作の撮影監督は、フランス印象派の巨匠ルノワールの甥であるクロード・ルノワール。本作では背景を取り込んだ引きの画が多く採用されています。その気品ある映像にクラシック調の音楽がつくのですから、さながら絵画か舞台劇を観ているような錯覚すら引き起こします!

その二大要素に面白い絡みを見せてくれたのが、美術監督の御大ケン・アダム。それまでの作風から劇的進化を遂げたデザインは、カール・ストロンバーグの要塞を筆頭に、メタリックで無機質な鮮烈空間を創造しています。そんな異空間に立つボンド、アニヤ、ストロンバーグ、ジョーズらは言うまでもなく映えてます!

この作品では、それまでの007ファンの度肝を抜く視覚的興奮に満ちた、まさに新しい世界が繰り広げられています!


【この映画の好きなとこ】

◾︎BOND 77
"ジェームズ・ボンドのテーマ"を、当時流行りのディスコ調に編曲したバージョンで、本作のアクションシーンのほとんどに採用されています。他にも傑作スコア多数ありますが、まずは是非こちらを聴いてください!


◾︎クロード・ルノワールの神ショット 
全編絵画のような素晴らしい画の連続!挙げたらキリが無いので厳選します!

◾︎精巧なミニチュア撮影
特殊効果・視覚効果監督のデレク・メディングスによるミニチュア撮影は、難易度の高い海洋撮影においても見事にやってのけてます!巨大タンカー、潜水艦、要塞などその精密さとリアリティに心躍ります!
そのクオリティは東宝特撮を脅かす!?

◾︎アバンタイトル
眩しい白銀世界で繰り広げられる美しくも壮絶なスキーチェイス!伝説の大ジャンプ、傑作スコア"BOND 77"と共に永遠に観続けられる傑作シークエンス!
繰り返し観てね

◾︎急行列車内のアニヤ
ボンドからのお酒の誘いを断るも「やっぱり行こうかな…やっぱりやめようかな」と、ドア前で乙女になるアニヤに萌えます!
ドアの向こうにはボンド…アニヤどうしよう

◾︎カーチェイス
陸から海へステージを変え繰り広げられる壮絶チェイスは勿論なんですけど、青い空と海に映えるロータス・エスプリのホワイトボディが美しく鮮烈なんです。更に言えばボンドのストライプシャツ、ブルーのネクタイまでもがベストバランス!
乾いた土の色もいい!
『ムーンレイカー』でもそうだけど、高速車に乗ったジョーズが銃撃して来るって最高!

◾︎ギルバート流ユーモア①
軽いユーモアを組み込む手腕はさすがギルバート監督!
敵側の女殺し屋がヘリからボンドにウインク
デレッ
…。

◾︎ギルバート流ユーモア②
大胆でしょうもないセクハラジョークを盛り込むあたりもさすが!
コレ潜水艦です。何が面白いのかは聞かないでね!

◾︎ストロンバーグの要塞
先述した美術監督ケン・アダムの作品がこちらです!進化止まないですね!
このセット撮影にアドバイスを求められたスタンリー・キューブリックがノンクレジットで助言しています!
このセットにジョーズ!戦慄!

とにかく贅沢!"伝統"と"新風"の化学反応が画面の隅々まで反映されています!
そして、自身のスタイルを模索していた三代目ボンド俳優ロジャー・ムーアが、ルイス・ギルバート監督との出会いにより、新ボンド像を確立させた作品でもあります。その新しいボンドが観客に受け入れられた事により、ムーアはシリーズ歴代最多の主演作数を誇るボンド俳優として名を残す事になります。
このシリーズ第10作記念作品は、集大成としての要素が多く革新的作品とは言えないものの、どの場面も新味に溢れた圧倒的パワーと躍動感で彩られています!結果本作は世界中で大ヒットを記録し、シリーズを第2黄金期へ導いたのです!
この大きな仕事にひとりで挑んだのは製作者のアルバート・R・ブロッコリ。現在まで続くシリーズの生みの親です。シリーズの存続を賭けた大きな舞台で、守りに入らず攻めの姿勢を貫いたブロッコリの男気と才覚に感動、脱帽です!
それを考えると、オープニングタイトル曲であるNobody Does It Better(=誰も彼ほど上手くは出来ない)は、ジェームズ・ボンドだけを讃えた歌ではないだろうと思えるのです。

007シリーズこちらも
ノー・タイム・トゥ・ダイ