スラップスティックアクションに、シリーズの新たなゾーンを垣間見る

1985年 監督/ ジョン・グレン

007シリーズ第14作。三代目ボンド俳優ロジャー・ムーアの引退作となる本作は、シリーズ最高傑作のひとつに数えられる第3作『ゴールドフィンガー』のプロットを現代風に焼き直して製作されましたが、単なる二番煎じに終わらない圧倒的な特色があります。全編がスラップスティックアクションで彩られており、これまでのシリーズ作品とは毛色が違うのです。古くはハロルド・ロイドやバスター・キートン、現代ではジャッキー・チェンに継承されたこのジャンルが007で観られるなんて贅沢じゃないですか!しかし、シリーズの烙印は全編そこかしこに押されており、紛うことなき007作品として成立しているのでご安心ください!

ユニークで壮大なアクションの数々を生み出したのは、シリーズ最多演出監督であるジョン・グレン。元々シリーズの第二班アクション監督を務めていただけあり、アクションのアイディアは尽きません。且つ現実離れした光景の数々に説得力を持たせている事も、グレン監督を評価すべき大きなポイントです。

グレン監督が描くボンドは、己の知力体力でピンチを切り抜けます。本作でも秘密兵器を徹底排除し、生身の人間の超人的活躍を際立たせています。ここにアクション映画作家魂を感じるから、グレン監督の007は好きなんですよね!



【この映画の好きなとこ】

◾︎ステイシー・サットン(タニア・ロバーツ)
ブロンドヘアとブルーアイズで抜群の美しさを誇るも、ボンドガールとしては珍しい市役所勤めの一般人しかし、ボク個人のランキングではトップ3に君臨する絶対女王です!その魅力は是非動画でご覧ください!

作業着ヘルメット姿に萌えまくりました!

◾︎メイデイ(グレース・ジョーンズ)
ゾリンの愛人であり腹心の部下。強く美しい圧倒的インパクトで、作品に華と毒をもたらすシリーズ唯一無二の存在!ジョーンズのファッションショーとしても楽しめる。
本作のアイコン的存在でもあるメイデイは、宣伝ポスターをボンドと共に飾った

◾︎マックス・ゾリン(クリストファー・ウォーケン)
元ナチスのステロイド実験により生まれた異常発達児という、シリーズきっての怪設定を演じ切ったのはクリストファー・ウォーケン。シリーズ最高のヤバい感が突出!
危険人物を子供っぽく演じたウォーケンは分かっている役者だと思う

◾︎アバンタイトル
スキーに始まり、スノーモービル、スノボへ三段変化を遂げながら披露する曲芸のオンパレード!これだけの事をサラッと冒頭で見せるのは007シリーズならでは。
スノーアクションの集大成

◾︎オープニングタイトルシークエンス
旬の人気歌手を採用するフットワークの良さに毎回驚かされる。本作で起用されたデュラン・デュランは、シリーズ音楽の顔であるジョン・バリーと主題歌を共同制作した。今聴いて尚鮮烈!

ちょっと奇妙なモーリス・ビンダー作の映像も雰囲気


◾︎エッフェル塔
実際に登って撮影しているようなんだけど、高所恐怖症のボクには考えられないシチュエーション。ムーアは高所恐怖症を公言していたのに、よくここまでやったなあ。
偉いぞロジャー!

◾︎潜入捜査
名前と身分を偽り、敵地に乗り込むシチュエーションは、シリーズ過去作品でも何度か見られたが、コントのような軽快さとアトラクション的興奮は別格。
運転手役ティベット卿とのかけ合いが傑作!

◾︎コースアウト
乗馬障害物競走のコースを外れたボンドが逃走するシーン。林の中を馬で駆け抜けるボンドと、追うゾリン一味のカットが迫力満点!
メインの障害物競走より良かった

◾︎水中呼吸
湖に車ごと沈められたボンドが、水中で敵をやり過ごすシーン。秘密兵器を使用しない本作では、ボンドにタイヤの空気を吸わせる程のこだわりよう!
こういうの真似したくなる

◾︎ボンドvsディック・トレーシー
消防車を奪ったボンドが、梯子に振り回されるスラップスティックアクションの決定版!ステイシーの運転で更に大混乱!
サイレント映画を彷彿!
せり上がるアスファルトに虫の如く張り付くパトカーもユニーク!

◾︎親子
計画成功を目前に、"生みの親"モルトナー博士を抱き寄せ満面の笑みを見せるゾリン。他の人には決して見せないこの笑顔!やっぱ親子なんだなあ。
かわいいねゾリン

◾︎危険高所ギャグ再び
ゴールデンゲートブリッジに絡まったゾリンの飛行船。「橋上のボンドを追い払ってこい!」と言うゾリンの無茶振りに固まる部下のスカルピン。前作『オクトパシー』でも見せてくれたギャグの第二弾。
囚われのステイシーも「え!?」

◾︎ラストカット
本作で引退となるロジャー・ボンドのラストカット。ボンドガールとお楽しみの所を捉える監視カメラに、バスタオルを投げかける様がいかにもロジャーらしく記憶に残る。
ありがとうロジャー

本作を最後にボンド役を引退したロジャー・ムーアにはホント感謝感動です!これまで3人の監督、ガイ・ハミルトンルイス・ギルバートジョン・グレンが要求する、三者三様のボンドを演じ分けてきたんですから。歴代ボンド俳優で最多出演を誇るムーア。おそらく自分なりのボンド像があっただろうと思うけれど、それぞれの監督を信頼し身を委ねている所に懐の広さと人柄を感じますね!

そして、ステイシー・サットンを演じたタニア・ロバーツも、女性エージェントではない一般市民役でありながら、多くのアクションをこなしました。ロバーツのプロ根性、見届けましたよ!

製作陣と俳優陣のチャレンジ精神が息づいた本作。その想いは全て映像に反映されています。シリーズ最高傑作とは言い切れない作品でありながらも、ファンに愛される理由がそこにあるのです。

※2019年6月30日の投稿記事をリライトしました

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