ガイ・ハミルトン監督の最高傑作!製作50周年、50回目のクリスマス!

1971年 監督/ ガイ・ハミルトン

007シリーズ第7作。前作『女王陛下の007』で主演を果たした二代目ボンド、ジョージ・レーゼンビーの降板により、一作限りで復帰したショーン・コネリーの主演作品です。

ダイヤモンドは永遠に』が、ボクの007シリーズランキングトップ5にランクインする作品だと言ったら、大抵の007ファンは「きっとこの人は007シリーズを5作品しか観ていないんだろう」と思うでしょう(正しい反応です)
しかし、それがもし007シリーズ全作品を鑑賞済みの、007ファンのランキングだとしたら?
しかも、『ロシアより愛をこめて』『ゴールドフィンガー』『私を愛したスパイ』『ゴールデンアイ』『カジノ・ロワイヤル』『スカイフォール』など、ファンから絶大な支持を集める超人気作品をすべて抑えてのトップ5入りだとしたら?

アクションがユルい事を認めます。音楽がユルい事も認めます。悪役がほぼコントである事も認めます。
しかし、本作にはそれら全てのネガティブ要素をねじり伏せるキャラクターの妙と脚本の妙があるのです。

本作の監督は、シリーズ最高傑作と誉れ高い『ゴールドフィンガー』のガイ・ハミルトン。ハミルトン監督が創造する悪役はいつも魅力的です。『ゴールドフィンガー』のゴールドフィンガー、オッドジョブ、『死ぬのは奴らだ』のティー・ヒー、サメディ男爵、『黄金銃を持つ男』のスカラマンガ、ニック・ナックなど、これまでユーモア溢れる魅力的な悪役を創造し輩出して来ました。
そのキャラクター創造の冴えは、本作が最高峰であると断言します。

本作の導入部分は、世界がテロの危機に見舞われたり、世界征服を企てる悪の組織が出てくる訳でもありません。今回ボンドが追うのはダイヤモンドの密輸事件という、これまでの作品と較べると非常に地味な犯罪捜査です。しかし、その地味な事件が馬鹿馬鹿しい程にスケールアップして行き、突如悪の組織スペクターが牙を剥くというトンデモ構成なのです。
それでも終盤に至るまでを犯罪映画として観れば最高に面白く、いい意味で007シリーズらしからぬ妙な味わいを与えてくれます。それは観るものを翻弄する力でもあり、その力は主人公のボンドまでをも脅かします(なにせダイヤの運び屋をやらされるのですから!)

アクションがユルい、音楽がユルい、悪役がユルい事は全て本作のカラーです。作風が肌に合わないファンもたくさんいる事は承知していますが、決してキレのあるアクション映画にならなかった失敗作ではないのです。
正体の見えない事件を除く傍観者になってください。登場する映画を間違えたボンドをのんびり眺めてください。
断言します。『ダイヤモンドは永遠に』は、繰り返し観るほどに面白くなります。



【この映画の好きなとこ】

◾︎ウィント&キッド
 (ブルース・グローヴァー、パター・スミス)
ブロフェルド配下の殺し屋であり、ゲイのカップル。ウィットに富んだ台詞の応酬と、ユーモアセンスで強い印象を残す。個人的にはシリーズ悪役の最高峰に位置付けている。
2人が出るシーンはどれも最高!

◾︎ブロフェルド  (チャールズ・グレイ)
スペクターの首領だがシリーズ他作品と違い、威圧感よりもいやらしさと胡散臭さが魅力。これは元々ゴールドフィンガーの弟を登場させる予定だった設定の名残なのか?演じるグレイのルックスが見事にハマった。
中身はほぼゴールドフィンガー

◾︎スランバー葬儀社の三人
葬儀屋を隠れ蓑にブロフェルド配下で暗躍する三人組。犯罪ドラマと007作品の架け橋となる、本作に無くてはならない存在。ユーモア度満載でボンドに絡む。
タランティーノ世界の住人?

◾︎ティファニー・ケイス (ジル・セント・ジョン)
お金儲けと保身が何よりも大事なボンドガールのニュータイプ。身体を武器として使うも心まではボンドに靡かなかった。生存本能に長けており、立ち位置を器用に変える能力がずば抜けている。
この方もスピンオフ作品で主役張れるでしょ絶対

◾︎ケン・アダムの美術
後半、突如現れるアダムの美術は壮観そのもの。本作ではダイヤモンドをイメージしてかシルバー色が多く(このオフィスを筆頭に、ブロフェルドの脱出用ポッド、ボンドが油断基地に乗り込む時の球体、そしてダイヤの衛星など)、統一された貴金属感も本編を好きな理由のひとつ。
ホント毎回素晴らしいなあ。住みたいよもう

◾︎ジョン・バリーの音楽
自身の才能をアピールする為にひとりよがりな楽曲をシーンに当て嵌める音楽作家は二流。シーンを情緒的なものにする為に必要な音楽を付ける、或いはシーンを際立たせる為に音楽を付けない判断をするのが一流の音楽監督。本作のスコアを聴くと、やはりバリーは一流の音楽作家である事がわかる。

作品BGMとしてではなく、あえて音楽だけを聴いてみるとそのクオリティに驚かされるよね

◾︎アストンマーティンDBS
前作『女王陛下の007』に登場したDBSは、秘密兵器を搭載していなかったが、Qの後ろでDBSにミサイルを搭載している様子が見られる。トレーシーの弔い合戦を準備している様に感激。
これでブロフェルドのベンツを仕留めてくれ!

◾︎バス・オー・サブ
ブロフェルド専用の脱出用小型ポッド。その特徴的なフォルムは美術監督アダムならでは。搭乗者を包み込むようなコックピットは、きっと最高の乗り心地。乗ってみたい!
スペクターのエンブレムもカッコいいね!

◾︎脱出チャレンジ
ボンドを付け狙うウィント&キッド。奇抜で遠回りな方法で仕掛ける様は、脱出ゲームを楽しんでいるようにしか見えないのがツッコミどころ。
気配を消しボンドの背後に忍び寄るとはかなりのプロ
棺桶チャレンジ!脱出できるかな?
次行くよ!
今度は水道管チャレンジ!脱出できるかな?

◾︎見せない演出
ラスベガスのショー芸人を始末に来たウィント&キッド。アタッシュケースに手を伸ばした所でジャンプカットとなる見せない演出に戦慄。ユーモラスな2人が見せた凄み!
本来はこの後に寒いジョークがあったがカットして正解

◾︎スラップスティックアクション
後のロジャー・ムーア主演作で名物になるパトカーとのチェイスは本作から。車を壊す為に考案されたスタントの数々がいい息抜きでもあり、ユルいコメディ色に調和する。
どんだけ壊れやすいんだよ
ジョン・ランディスも本作を観て学んだのかな?
肩輪走行も本作が初。以降『オクトパシー』『消されたライセンス』に継承される

◾︎暗示する演出
ベッドで煙草を燻らせるティファニーと、灰皿を胸に乗せたボンド。2人の距離感が親密になった事を物語るハミルトン監督の演出術が秀逸。『ゴールドフィンガー』で、ひとつのパジャマを分けて着用するシーンを彷彿。
小さな場面に手を抜かないのがプロ!

◾︎潜入
ロッククライミングの技術を駆使し、ペントハウスに潜入するまでが鮮やかに描かれた。地味ながらもスパイ活動らしさに溢れたシーンでひときわ印象に残る。
エレベーター屋根から華麗に上昇
目も眩むし脚もすくむよ…やめなよ危ないから
怖い…けどやってみたい!

◾︎ブロフェルド登場
大企業を隠れ蓑に、スペクターが暗躍していたという驚愕の事実で空気を一変させる。影武者を含む2人のブロフェルドが登場するシーンが鮮烈。そして圧巻の美術。
ブロフェルド祭り!わっしょーい
愛猫にはダイヤのネックレス!

◾︎牙を剥くスペクター
衛星を乗っ取り、核保有国の武装解除を実力行使していくブロフェルド。突如人類の脅威となるスペクターの恐ろしさが際立つ。ジョン・バリーの"終わりの始まり"を思わせるスコアも秀逸。
後の『ダイ・アナザー・デイ』でも踏襲された
核弾頭も
原子力潜水艦も
核ミサイルも世界平和の為にぜーんぶ解除しますね!

◾︎クライマックス
ワシントン攻撃のカウントダウンが始まる中、スペクターの油田基地を舞台に繰り広げられる最後の戦い。本作の戦闘シーンBGMには、"ジェームズ・ボンドのテーマ"ではなく"007"がよく似合う。
このビジュアルが好き
大勢の部下が野垂れ死んでゆく中、悠々と脱出をキメるブロフェルドは100点だ!

◾︎エピローグ
ついにボンドと真っ向対決するウィント&キッド。豪華客船を舞台に正装で披露するギャグまみれの対決こそが最大の見せ場。作品の真髄がここに集約されている!
ウィント&キッド最後の咆哮
火の玉串刺し地獄責め!
このあととんでもない事に!

『ダイヤモンドは永遠に』は、観終わったあとのボクに笑顔をもたらし、必ず幸せな気持ちにさせてくれる作品です。乱立したエピソードは、ゴチャゴチャした印象を与えるかもしれませんが、ボクにとってはお楽しみのギュウギュウ詰めです。それが繰り返し観たくなる要因のひとつでもあります。

またボンドに本作限りで返り咲いたコネリーは、嫌々ながら出演していた『007は二度死ぬ』に比べれば、伸び伸びと楽しみながら演じているように見えるのも本作のポジティブイメージを決定づける大きなポイントです。
運び屋を演じるボンド、大富豪を演じるブロフェルド。偽物が蔓延る奇妙な世界観はシリーズ屈指の奇抜さと面白さに満ちており、本作だけが持つ大きな魅力です。

『ダイヤモンドは永遠に』は1971年12月25日に日本で公開されました。つまり今日2021年12月25日は、日本公開から数えて丁度50周年の記念日です。
50周年を迎えた本作に、ボクが出来るお祝いと言えば作品を観て楽しむ事。今回のレビュー執筆にあたり作品を観直したのですが、やっぱり癖になる面白さ!結果、3夜連続、計3回鑑賞しました!50周年おめでとう!(いいお祝いになったかな?)

『ダイヤモンドは永遠に』は、まだ傑作・人気作と認知されていない007シリーズのダークホース。いつか化ける…?

※2019年1月6日の投稿記事をリライトしました



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