2度目のカムバックを果たしたショーン・コネリーのカリスマ性に身震い007シリーズの非公式番外編で、シリーズ第4作『
サンダーボール作戦』のリメイク作品。
非公式であろうが番外編であろうが、1971年のシリーズ第7作『ダイヤモンドは永遠に』から12年振りにショーン・コネリーがボンド役に返り咲いたのだから、それはもう大騒ぎの大パニック!大事件でしたよ!
その当時は、ロジャー・ムーアが3代目ボンドを演じていた時代。ムーアよりコネリー派だったボクにとっては、まさに夢の企画だったのです!
しかも、カムバックを果たしたコネリーは文句なしにカッコよく、精彩に欠けた『007は二度死ぬ』、中年太りしてしまった『ダイヤモンドは永遠に』の頃と比較しても、いきいきと楽しみながら演じているのも嬉しいプラス要素でした。
本作の製作はケヴィン・マクローリー。イアン・フレミングと共に最初に007シリーズの映画化を試みた人です。映画化の企画自体は頓挫するも、共同で書き進めていた原案が後の小説『サンダーボール作戦』となった事から、映画シリーズ第4作『サンダーボール作戦』の製作権利、及び同作品のリメイク権をも所有していたのです。
しかし、このリメイク作品『ネバーセイ・ネバーアゲイン』製作の実権を握っていたのはコネリーです。つまり本作は007シリーズを知り尽くした男が、ひとつの理想として描いたボンド映画なのです。それがボクの好みに完全一致したことは、コネリーと趣味が合ったようで嬉しい限り。
監督には『スターウォーズ/帝国の逆襲』を成功させたばかりののアーヴィン・カーシュナーが抜擢され、音楽を『華麗なる賭け』『愛と哀しみのボレロ』のミシェル・ルグランが手掛けました。
作品を観て頂ければ分かりますが、活劇あれどもアクション映画として作らなかった作品です。激しいカット割りや派手な音楽を控え、美しいロケ地の数々とルグランのジャズ、そして何よりコネリーのボンドを楽しむ作品なのです。
【この映画の好きなとこ】
◾︎ジェームズ・ボンド (ショーン・コネリー)
◾︎ファティマ・ブラッシュ (バーバラ・カレラ)
エキゾチックな容姿と殺人偏執狂的性格で強烈なインパクトを残す。ボンド暗殺最後のチャンスを与えられ意気揚々と階段を下りるシーンと、高笑いで迎える最期は忘れ難い。
『ロシアより愛をこめて』のグラントとはお似合いかと
◾︎ドミノ・ペタチ (キム・ベイシンガー)
後に『ナインハーフ』で大ブレイクを果たすベイシンガーが妖艶でゴージャスな魅力を放つ。しかしその容姿とは裏腹に、繊細で脆い少女のようなギャップこそが最大の魅力。
いまやオスカー女優
◾︎M (エドワード・フォックス)
威厳あるキャラクターが大々的に変更され、癇癪持ちで時にユーモラス、そして嫌味たっぷりなMは番外編ならでは。ショーン・ボンドとの相性も抜群で記憶に残る。
フォックスをMにキャスティングするとは凄いセンス!
◾︎アルジェノン (アレック・マッコーエン)
秘密兵器開発課のQを演じるマッコーエンは、偏屈な天才科学者という役柄にピッタリ。個人的には本家シリーズ全てのQ史において最も好き。
ヒッチコック監督作品『フレンジー』の警部役!
◾︎美術
Mのオフィス、療養所、カジノ、ニコルが宿泊する別荘、クライマックスの洞窟など、どれもが気品に溢れた美術センスで異国情緒を醸し出している。
こんなオフィスだと外に出るの嫌になっちゃうね
療養所かよコレ
ドレスとタキシードが映えまくり
ミニマリズムモダンな別荘
◾︎Never Say Never Again オープニング
音楽担当のミシェル・ルグランは、本作に素晴らしい楽曲の数々を提供しているが、とりわけこの主題歌が群を抜いて素晴らしい。復活したコネリーの姿にも只々感動!
◾︎Qラボ
シリーズ恒例Qの研究室。通例としては最新設備が整った研究室で最新兵器を披露するのだが、本作ではエアコンすら設置されていないアナログな工場風景。この現実感がなんともユニークで印象深い。コネリーに向けた「君はセックスとバイオレンスを甦らせてくれる」は最高の台詞。
錆びれた工場だよね??
短いシーンながら印象深いQとのかけ合い
◾︎サメ
ファティマの罠で海中に取り残されたボンドをサメが襲う。どう躾けたのか制作者の思い通りに動くサメは、(本物の)サメ映画史上最高のシークエンスかもしれない。
ボンド!うしろうしろー!
コネリーが多くの海中スタントをこなした
◾︎突破
ラルゴ主催の会員制パーティーを正面突破するボンド。ハッタリとジョーク、そして静かな狂気で見せるボンド像がコネリーならでは。
コネリーのタキシード姿再び!
◾︎ドミネーションゲーム
3Dホラグラムのコンピューターゲームで対決するボンドとラルゴ。やがて訪れる激突を目前に、仮想世界で対峙する前哨戦。ゲームに負けたボンドが全世界を賭けてもうひと勝負を挑むシーンに身震い!
「ポーカーでもやれや」と肩を落としたファンは多い
しかし核ミサイル二発を巡る攻防は本筋を暗示する
「全世界を賭けてもう一度」コネリーの意地に痺れる
安月給のスパイが調子に乗るなよテメェ…
◾︎タンゴ
ボンドとドミノがタンゴを踊るシーンは、本作の大きな見所のひとつ。ラルゴが嫉妬の眼差しを送るステージで、曲が終わるまでにドミノを寝返らそうとするスリルも心地よい。
んー、ゴージャスな絵面
嫉妬に震えるラルゴ
◾︎ニコルの部屋
ファティマの手にかかり絶命したニコルは、『ゴールドフィンガー』で金粉に塗れて絶命したジルを彷彿させる程のインパクト。水の歪みでデフォルメされた映像がファティマの異常性を演出。
写真にするとちょっと怖いね
◾︎バイクチェイス
階段駆け降り、トレーラー潜り抜け、運河大ジャンプといった超絶スタントを披露。本家シリーズ含め本作で初めてボンドがバイクに乗る。街並みを存分に捉えた画とルグランのジャズが美しい。
ファティマのルノー5ミニがかわいい
ひとり息巻くファティマの姿は『女王陛下の007』のブントを彷彿させる。
YAMAHAが飛ぶ!
◾︎ファティマの咆哮
ボンドを捕らえたファティマが、女性回顧録のトップに自分の名前を書かせようとする様は永遠に忘れられない。エキセントリックなファティマの咆哮には流石のボンドも狼狽える。本作で最も強いインパクトを放つ名シーン。
そんなことより早く撃ちなよ
たじろぐボンドの右手にはQペンが!
◾︎牢獄
ラルゴに捕えられたボンドの脱出劇。地味ながらも現実感に溢れたサスペンス描写と、骸骨だらけのが牢獄セットが素晴らしい。脱出トリックも巧妙。
ボディチェックが甘いなラルゴ
秘密兵器の少ない本作だが、こんな所からレーザーが!
◾︎ドミノ奪還
人身売買商人に引き渡されたドミノを奪還するボンド。馬を操り追っ手を蹴散らす乗馬アクションも007史上初。高所からのダイブも含め斬新なビジュアルが続く。
売られてしまうドミノ…かわいそう
金を払わずにドミノを強奪するボンド!
突然の砲撃で一掃される
◾︎Mの誘い
盗まれた核弾頭のひとつを見つけたボンドをランチに招待するM。「身にあまる光栄ですが私にも別のプランがありますので」と無線で断るボンド(そしてコネリー自身)には、『消されたライセンス』同様に自分の道を歩もうと決めた男のロマンを感じずにいられない。
シャワーを浴びた2人のプライベート感が最高
◾︎洞窟
大英帝国遺跡像を落とすまでのサスペンスと、一斉に始まる銃撃戦の対比も素晴らしいが、やはり見るべきは美術。海底に通じる泉は砂漠のオアシスを思わせる程の眩い魅力を放つ。
美しい!飛び込みたい!
遺跡をヨジヨジ…
最後は爆発だよね
◾︎Never Say Never Again エンディング
オープニング同様にラニ・ホールの主題歌が採用されているが、メインスコアに続くボサノヴァバージョンがまた傑作!
番外編である本作には、007シリーズのトレードマークとなるガンバレルシークエンスやジェームズ・ボンドのテーマ、ケン・アダムの美術、そしてジョン・バリーの音楽がありません。しかし、もし本作を007シリーズ作品と認めるとすれば、トップ5にランクインするほど大好きな作品です。
繰り返しますが、本作にアクション映画としての爽快感はありません。美しい美術と美しいロケーションの数々、そして美しい音楽を楽しむ"オトナの007"だと思います。
公開当時、劇場で観た時の印象は鮮烈で、コネリーの晴れ姿をスクリーンで見られた感動と、最後であろうショーン・ボンドを見送る寂しさは、もはやコネリーのボンド卒業式でした。そう、『ネバーセイ・ネバーアゲイン』は単なるボンド映画の鑑賞ではなかったのです。
※2018年12月31日の投稿記事をリライトしました
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