神のリセットはいつだ?
1998年 監督/ ブライアン・デ・パルマ
この作品でブライアン・デ・パルマ監督が思い描いたコンセプトは、"世界が腐敗しきったら、神が降臨してすべてを吹き飛ばすしかない" でした。
初めて『スネーク・アイズ』を観た人は、人間の嫌な部分すべてを平気で曝け出す汚職刑事リック・サントーロに嫌悪感を抱くと思います。少なくともボクはこの主人公のおかげで、なかなかこの作品を好きになれませんでした。
なにもこんなキャラクターを主人公にしなくてもいいのに…。
しかし、『スネーク・アイズ』には綿密に練られたシナリオがあります。なぜこんなキャラクターが主人公になり得たのか?
誰もが欲にまみれ、プライドのかけらも無く暴利を貪る現代社会。『スネーク・アイズ』はそんな世の中を映す鏡として、汚職刑事のリックを当たり前の人間のように描き、世に問うた作品なのではないかと思うのです。
そして最後にデ・パルマは本作のリックに懺悔の機会を与え救済の手を差し伸べます。『スネーク・アイズ』は腐敗した現代社会にささやかな希望の光を照らす映画なのです。
これまで独自の映像表現で映画ファンを楽しませてきたデ・パルマですが、本作では初の試みがあります。1950年公開の黒澤明監督作品『羅生門』で世界を驚かせた映像表現 "羅生門効果(複数の人物がそれぞれ違う証言をし、真実を歪ませるフラッシュバック手法。有名作品としてブライアン・シンガー監督作品『ユージュアル・サスペクツ』、是枝裕和監督作品『怪物』など)" を採用し、ミステリーとしての面白さを作品に盛り込んだことです。
繰り返されるフラッシュバック、そして羅生門効果を独自のテイストで作品に盛り込む手腕は、デ・パルマが稀代の映像派であることを再認識させてくれます。この時デ・パルマ58歳。『ミッション : インポッシブル』の大成功直後でも、まだまだ進化止まない映画作家であることを世に知らしめたのです。
『スネーク・アイズ』は90年代のデ・パルマ史を締めくくる傑作ミステリーです!
Movie highlights
◾️アンシア (タマラ・チュニー)
オープニングとエンディングに登場するニュースキャスター。嵐の中ニュースカメラの前に立たされる不遇をコミカルに演じた。作品のマスコットガール。
◾️セレナ (ジェイン・ハイトマイヤー)
ドレス、指輪、鞄、靴、そして髪までを赤で統一したビジュアルがいかにもデ・パルマ的。少ない出番ながらミステリアスな雰囲気で作品のアイコン的存在になった。
◾️リンカーン・タイラー (スタン・ショウ)
カジノで多額の借金を背負い八百長試合を引き受け、悪事を指揮する国務官の用心棒になる堕ちたボクシングチャンピオン。演じるスタン・ショウは本作最高の演技派俳優。
◾️オープニング
13分の長回し。ミステリアスな2人の女性。大観衆の中で決行された暗殺。そのテンションはデ・パルマ作品のオープニング史上トップレベル。リング上の試合を見せず、フラッシュバックを引き立たせた演出も効果的。
まずは汚職のクズっぷりを披露!ヨロシク
脚の組み替えまで見せるサービス精神
白スーツが血で染まるのも『殺しのドレス』だよな
◾️マニアのツボ①
ジュリアはブロンドヘアーに白スーツで登場。これは『殺しのドレス』のケイト・ミラーのオマージュ。ウィッグの使用も同作のエリオットを思い起こさずにはいられない。
初見時テンション爆上がりした
ウィッグの登場で「この先どうなるの!?」ってなった
◾️真実
警護業務を怠ったとして自身を責めるケヴィンに対し、「嘘をつく訳じゃない!余計な情報を省くだけだ!俺なんか日常茶飯事だ」と必死の説得がウケる。また、ジュリアを保護し衝撃の事実を受け入れられずに狼狽する様など、腐敗世界に首まで浸かった汚職刑事の日常がリアルに描写された。
オレなんか毎日やぞ!
オレの世界はうまく回ってたのに!!
◾️羅生門効果
真実を探るリックに嘘の説明をするケヴィン。フラッシュバックで描き、観客をも欺く手法がミステリー作品としての格を上げた。
もちろんスプリットスクリーンも!
国防官お手柄の図
◾️マニアのツボ②
パウエルとケヴィンの密会劇。パウエルの声が『ファントム・オブ・パラダイス』のスワンを彷彿とさせる。上空の雷雨が同作の屋上のシーンを思い起こさせ決定的なものに!
まあ偶然ですがファンとはそういうものですよ
◾️100万ドル
裏切りの報酬100万ドルを提示され、正義感が揺らぎ震える手でタバコに火をつけるリック。デ・パルマが単なる映像派に留まらず、稀代の演出家である証拠がここにある!
100万ドルが眩しくてケヴィンを直視出来なくなる図
◾️解けない謎
モニタールームの床に落ちた血まみれの紙幣。これはリックが賭博師サイラスから巻き上げたもので、最終的にアナウンサーのルーに返した紙幣。これが意味するものとは?
ケヴィンとリックの指輪も思わせぶりなんだけど
誰かこの意味わかる人教えてください!!
◾️マニアのツボ③
顔面崩壊したリックが瀕死の体を引き摺り彷徨う様も『ファントム・オブ・パラダイス』のウィンスローを連想させる。主観で撮影されたカットを挟むのも同じ演出スタイル。
リックの右手が右側にあるよ
正義の代償は大変なもんよ
◾️テレビ画面への帰結 ※ネタバレ
テレビ中継画面に始まり、テレビ中継画面に終わる絶妙な構成。カメラの裏側は小説よりも奇なり。一躍時の人となったリックだが、汚職が暴かれカメラに追われる皮肉な展開。
◾️暫しの別れ
服役するリックと帰りを待つジュリアの未来に一縷の光が差し込むエンディング。リックの晴々とした笑顔が、デ・パルマ作品としては珍しく爽やかな余韻を残してくれる。
更生して真人間になる機会をもらったね
◾️エンディングテーマ " Sin City "
デ・パルマ作品のエンディングテーマにボーカルナンバーを採用するのは極めて稀。メレディス・ブルックスのオルタナティブロックナンバーの採用には違和感を覚えた。流行曲とのコラボレーションという印象を拭えなかったのだ。しかし、Sin Cityは本作のエンディングテーマ曲として書き下ろされた楽曲である。歌詞に注目してもらいたい。
YouTubeからお借りしました
◾️ラストシーン考察 ※重要なネタバレ
コンクリート柱に光る赤いルビーはセレナのダイイングメッセージと思い込み、何度も考察を重ねたが全くの見当違いだった。今回4度の鑑賞を経て、ようやくデ・パルマが仕掛けた罠に気づいた。
ケヴィンがセレナを尋問するシーンで、デ・パルマはルビーをCGで光らせ強調していたのだ。そこまで誇張された演出に何故気付けなかったのか?それは大写しにされたセレナの胸元に目線を奪われていたから。
つまりこれは男性心理を弄んだデ・パルマのジョークなのだ。「胸元にばかり目が行ってラストの指輪が誰のものか分からなかっただろ?」と言っている訳だ。やられた!
問題のシーン。男なら光るルビーに気づかないはずだ!
フラッシュバックを多用した羅生門効果の面白さが病みつきになる作品です。そしてやっぱりデ・パルマの映像は妖しく危険な魅力を纏っており、とんでもなくカッコいいのです。
そして本作でなんとデ・パルマ組に加わった日本人がいます。それが本作で音楽を担当した坂本龍一です。これまでデ・パルマの世界を音楽で紡いできたバーナード・ハーマン、ピノ・ドナッジオ、ジョン・ウィリアムズ、エンニオ・モリコーネら世界の映画音楽界の巨匠と日本人音楽家が肩を並べたのです。坂本龍一はこの後にもデ・パルマ監督作品『ファム・ファタール』で再び音楽を担当したことで、デ・パルマからその実力を高く評価されていたことが伺えます。
今回、ラストシーンのルビーの指輪の謎をどうしても解き明かしたく合計4回鑑賞しましたが、観るたびに作品のディープな面白さにハマり、気づいたら『スネーク・アイズ』が大好きになっていました。こんなに魅力が詰まっていた作品だとは知りませんでした。
デ・パルマの映像を存分に楽しみ、ラストシーンの謎も解明出来て最高に楽しんだ!
謎を解いて敗北を知る。
『スネーク・アイズ』のラストシーンには、デ・パルマからのこんなメッセージが含まれていたのですね!
Snake eyes. The house wins.
※劇中のケヴィンの台詞「スネーク・アイズ(サイコロのピンゾロ=大負けを意味する)、胴元(私)の勝ちだ」
ブライアン・デ・パルマについて

























