007シリーズの作品は、敵の銃口に捉えられたボンドが、振り向きざまの早撃ちで返り討ちをキメる映像で始まります。これが"ガンバレル(Gunbarrel = 銃身)シークエンス"です。
007シリーズのタイトルデザイナーとして活躍したモーリス・ビンダーが、第1作『ドクター・ノオ』で発表して以来、最新作『ノー・タイム・トゥ・ダイ』まで受け継がれて来た伝統のシークエンスです。ボンド俳優が変わる度に撮り直しをしており、その俳優の個性を見較べるのも、ファンとしては大きな楽しみのひとつとなっています。

これまで1人のボンド俳優につき、一度撮影をした映像が最終作品まで使用されて来ました。例外として、ビスタサイズからシネスコサイズへの変更に伴い撮り直しをしているケースもあります。しかし、近年のダニエル・クレイグ主演作では、毎回撮り直しをしています。これは贅沢ですね!

そして、このシークエンスに欠かせないもうひとつの重要なエレメントが楽曲です。毎回演奏される"ジェームズ・ボンドのテーマ"も、作品毎に変わる音楽担当者独自のアレンジで聴かせてくれます。オリジナルの"ジェームズ・ボンドのテーマ"を制作・演奏出来ることは、選ばれし音楽作家だけに与えられた特権であり最高の名誉。まさに音楽家冥利に尽きる仕事ですよね!

そんな007シリーズの伝統芸であるガンバレルシークエンスの傑作選を、個人的嗜好で厳選しました!わずか20秒に込められたシンボリックアートをご堪能ください!



好きなガンバレル TOP15

15位 死ぬのは奴らだ 第8作
俳優 / ロジャー・ムーア
音楽 / ジョージ・マーティン
演出 / モーリス・ビンダー

本作でボンドはそれまで被り続けたハットを脱ぐ。これまで同様に片手撃ちだが、右腕に左手を添えるポーズに変わる。音楽はビートルズのプロデューサーであるマーティンが務め、新風を吹き込んだ。



14位 私を愛したスパイ 第10作
俳優 / ロジャー・ムーア
音楽 / マーヴィン・ハムリッシュ
演出 / モーリス・ビンダー

シネスコサイズへの変更による撮り直しがされ、ボンドは片手撃ちからシリーズただ一人の両手撃ちへ。また蝶ネクタイ(これまではネクタイ・スーツ)のタキシード姿も本作から。ハムリッシュのテーマ曲は少し急ぎ過ぎな感じがするも、妙なB級感があり味わい深い。



13位 慰めの報酬 第22作
俳優 / ダニエル・クレイグ
音楽 / デヴィッド・アーノルド
演出 / MK2

猫背の早歩き!そんなボンドらしからぬ姿さえクレイグの荒削りな魅力として光る。初めてガンバレルがエンディングに移動し、タイトルが現れる等異例づくし。銃撃後に退場するボンドがかわいい。



12位 カジノ・ロワイヤル 第21作
俳優 / ダニエル・クレイグ
音楽 / デヴィッド・アーノルド
演出 / ダニエル・クラインマン

本編映像がガンバレルになる斬新さ!タキシード無し、ジェームズ・ボンドのテーマも無いが、モノクロの映像と、銃撃後にテーマソングがかかる構成は、もしかして『ドクター・ノオ』リスペクト!?アバンタイトルをモノクロにした理由はもしかしてこの為!?



11位  サンダーボール作戦 第4作
俳優 / ショーン・コネリー
音楽 / ジョン・バリー
演出 / モーリス・ビンダー

前作『ゴールドフィンガー』までボンド役を務めたシモンズに代わりコネリーが登場し、新たなポーズを見せた。本家バリーが奏でるテーマ曲は無類の美しさ。本作で初めてボンドの映像がカラーになる。



10位   007は二度死ぬ 第5作
俳優 / ショーン・コネリー
音楽 / ジョン・バリー 
演出 / モーリス・ビンダー

カラーになったボンドの映像が何故かモノクロ処理されるが、低音が響く弦楽器(何の楽器なんでしょうねコレ)が持つハードボイルド感にピッタリ!本編の音楽同様にバリー最高傑作スコアのひとつとして覚えておきたい。



9位 ノー・タイム・トゥ・ダイ 第25作
俳優 / ダニエル・クレイグ
音楽 / ハンス・ジマー
演出 / ダニエル・クラインマン

劇場でクレイグの歩く姿を観た時と、ジマー作"ジェームズ・ボンドのテーマ"を聴いた時は涙が出そうな程感動した。お馴染みの血が流れないものの、白銀世界に染まり行く様が美しく異論なし。
※劇場でご覧ください!


8位   トゥモロー・ネバー・ダイ 第18作
俳優 / ピアース・ブロスナン
音楽 / デヴィッド・アーノルド
演出 / ダニエル・クラインマン

本作以降、シリーズ音楽の顔となるデヴィッド・アーノルドの初仕事。『サンダーボール作戦』を彷彿させる、クラシカルで伸びやかな旋律が抜群の雰囲気を醸し出している。



7位 リビング・デイライツ 第15作
俳優 / ティモシー・ダルトン
音楽 / ジョン・バリー
演出 / モーリス・ビンダー

バリー最後の作品。重厚な風格と気品を感じるスコアは、まさにダルトン演じるボンドにぴったり。これまでに幾度となく演奏・アレンジを重ねたバリーの決定版と呼びたい。



6位 ロシアより愛をこめて 第2作
俳優 / ボブ・シモンズ
音楽 / ジョン・バリー
演出 / モーリス・ビンダー

『ゴールドフィンガー』のガンバレルとほぼ同じサウンドに聴こえるが、こちらの方がバタついたテンポでせわしない。しかし軽快なそのリズムには心を踊らされる。流れる血はこれ以降濃くなるが、この薄い半透明が一番お洒落。ボンドを演じるボブ・シモンズについては『ドクター・ノオ』の項で。



5位 ワールド・イズ・ノット・イナフ 第19作
俳優 / ピアース・ブロスナン
音楽 / デヴィッド・アーノルド
演出 / ダニエル・クラインマン

バリーの後継者として、シリーズメイン音楽作家を務めるアーノルドの最高傑作。シリーズで最も洗練された印象があり、ブロスナンのイメージにもぴったり。



4位   ユア・アイズ・オンリー 第12作
俳優 / ロジャー・ムーア
音楽 / ビル・コンティ
演出 / モーリス・ビンダー

大胆なアレンジを施したコンティの鮮烈なスコア。テーマ曲のエレキギターが痺れる程にカッコよく、ドラマティックですらある。ポップ感と重厚感が同居する振り幅が名人級。



3位   女王陛下の007 第6作
俳優 / ジョージ・レーゼンビー
音楽 / ジョン・バリー
演出 / モーリス・ビンダー

ブラス楽器、シンセサイザーで新風を吹き込んだテーマ曲。シリーズ唯一の片膝撃ちは絶大なインパクトをもたらした。レーゼンビーの生意気そうな歩き方が頼もしくて最高。



2位   消されたライセンス 第16作
俳優 / ティモシー・ダルトン
音楽 / マイケル・ケイメン
演出 / モーリス・ビンダー

テーマ曲前のイントロに戦慄!ボンド役ダルトンの殺気すら漂ってくる大胆なアレンジを施したのはマイケル・ケイメン。テーマ曲をシンプルなギターで抑えたバランスのセンスも素晴らしい。



1位   ドクター・ノオ 第1作
俳優 / ボブ・シモンズ
音楽 / モンティ・ノーマン、ジョン・バリー
演出 / モーリス・ビンダー

銃撃の後に"ジェームズ・ボンドのテーマ"が流れるのは本作だけ。銃声が響く中に鳴り響くテーマ曲は身震いする程にカッコいい!ボンドを演じているのは本作のスタントマン、ボブ・シモンズ。その歩き方、ポーズの美しさは歴代俳優の追随を許さない。立ち位置をセンターから少し左にずらしたタイトルデザイナー、モーリス・ビンダーのセンスにも脱帽!まさに才能の結集!完璧!


時代によって多少の変化はあれども、60年近く殆どその姿かたちを変えずに継承されて来たガンバレルシークエンス。それはシリーズ第1作『ドクター・ノオ』で披露された映像と音楽の融合が完璧だった事を意味すると思います。
時代に取り残される事なく、古びる事なく生き延びて来たガンバレルシークエンスは、もはや映画界の無形文化遺産に認定されるべきでないかとすら心から思うこの頃です。

今回のランキングでは嬉しい事に、全てのボンド俳優が演じるガンバレルを紹介する事が出来ましたが、全ての作曲家とその楽曲を紹介する事は出来ませんでした。
今回のランキングでは紹介出来ませんでしたが、作曲家は他にも、『ゴールデンアイ』のエリック・セラ、『スカイフォール』『スペクター』のトーマス・ニューマンなど豪華な顔ぶれが揃っています。またランキング圏内作曲家の作品もまだ多数ありますので、気になる方はYouTubeなんかで覗いて観てくださいね!

※2019年4月11日の投稿記事をリライトしました



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