極上。
2012年 監督/ サム・メンデス
製作開始から50周年を迎えた007シリーズの第23作。
近年、シリーズは『ワールド・イズ・ノット・イナフ』マイケル・アプテッドや、『慰めの報酬』マーク・フォースターを監督に起用するなど、アクション演出家よりもストーリーテラーの人選が目立ちます。そしてなんと本作では『アメリカン・ビューティー』でアカデミー賞作品賞、監督賞を受賞したオスカー監督、サム・メンデスを起用。マジですか…。アカデミー賞狙うんですか?007シリーズは、いつまでも生粋の娯楽アクション映画でいて欲しかったのに…。そんなネガティブシンキングから鑑賞に入った『スカイフォール』ですが…素晴らしい!これアカデミー作品賞あげていいと思います!

本作は英国諜報部、そしてボンド、M、シルヴァ其々のアイデンティティとプライドを賭けた戦い。今回ばかりは登場人物の心情を深掘りしなければ、"ショボいアクション映画"で終わってしまう恐れすらあるストーリー。
だから頼むぞメンデス!コレをやれるのはお前しかいない!
決して金に物言わせた"メンデスの無駄遣い"ではなかったのです。シリーズ過去最高と言えるキャラクターの掘り下げぶりを見せながら、熱き思いを淡々と詩的に描いたメンデス監督の手腕に脱帽。
音楽を手掛けたのは、サム・メンデス監督作品のほとんどを手掛けて来たトーマス・ニューマン(メンデス監督作品以外に『ショーシャンクの空に』『グリーンマイル』など)。ミニマルな音楽がブルーを基調とした映像をより映えさせ、登場人物の心情を音で奏でています。まさに、これまでのアクション映画007シリーズとは一線を画す会心の出来映え!

新しい風、吹きました。


【この映画の好きなとこ】

◾︎アバンタイトル
家屋を縦横無尽に駆け巡るバイクチェイス、列車上の格闘、スリリングな狙撃シーンなどは勿論ですが、行間の画作りがまた素晴らしいんです!例えば…

瀕死のロンソンがボンドを見つめるシーン
お互いの立場を呪うボンドとロンソン。非情な世界に生きる者の運命

殺戮現場から日常の雑踏へ。ドア一枚隔てたカオスな描写にクラクラ。絶妙なコントラスト表現に脱帽!
日常に潜む死の影

◾︎タイトルシークエンス ※ネタバレ
ボンドが黄泉の国を彷徨う劇的シークエンス。これまでにも何度かボンドの絶体絶命的ピンチや死は描かれているけれど、衝撃度では本作が最高峰。

アデルが歌う主題歌はアカデミー主題歌賞を受賞!


◾︎ヒゲ面
ヒゲ面のボンドは『ダイ・アナザー・デイ』以来シリーズ二度目。こんなレアな機会を得たブロスナンとクレイグはラッキーですね。
『ゴールドフィンガー』の無精髭、『オクトパシー』の変装髭もありますけどね

◾︎新MI6
『ワールド・イズ・ノット・イナフ』に続いて二度目の爆破被害に遭ったMI6本部の仮庁舎。チャーチルの地下壕という設定だけあって、クラシカルで品格ある佇まい。素晴らしい美術!
レトロな空間に最先端技術。アシンメトリーな魅力
『私を愛したスパイ』ゴーゴル将軍のオフィスを彷彿させるミニマリズムモダン

◾︎セヴリン
離れたビルから互いに見つめ合うボンドとセヴリンの劇的ファーストコンタクト。ファムファタールものを思わせます!
ザ・魔性

◾︎シリーズ過去作品のオマージュ
①ワルサーを握ったバスタオル姿のボンドが不審女性と対峙するその様は、第2作『ロシアより愛をこめて』のオマージュと思われ…

②コモドドラゴンの背中を踏み台にして脱出するシーンは、第8作『死ぬのは奴らだ』のオマージュかもしれない??

◾︎マカオでの接見
セヴリンのバックグラウンドを見抜いたボンドが、監視ある中で取引を持ちかけるシーン。凄みを増したクレイグ=ボンドと怯えるセヴリンのコントラストが素晴らしく、本作で最も好きなシーンです!

黄金銃を持つ男』アンドレアのシチュエーション再び

◾︎ラウル・シルヴァ(ハビエル・バルデム)
『ノーカントリー』を観た人なら誰でもテンション上がるハビエル・バルデムの悪役登板!あのキモ怖い殺し屋が007と対決!…と夢想した結果、肩透かしを食らったファンが殆どだと思うんですけど、『ノーカントリー』を忘れフェアに見れば最高に不気味で威圧的なキャラクターを堪能出来ます!
なぜかオネエぽく演じたバルデム

◾︎シルヴァ捜索
警察に変装し地下鉄に逃げ込んだシルヴァを追うボンド。Qの協力を得て展開される追跡劇はまるで刑事映画。007シリーズとしては斬新です!
Qとの連携プレーって新鮮

◾︎誇り高きスピーチ
査問会に招集されたMが、MI6の存続と尊厳を賭け思いの丈を述べるスピーチに感動。組織、そしてボンドへの愛に溢れています。作品の真髄がこのシーンに集約!
走るボンドのインサートカットも劇的効果に!

◾︎"嵐が来ます"
故郷の匂いと風を体で味わうこのシーンが大好きです。ボンドの里帰りシーンは、恐らく本作が最初で最後ですよね。ボンドがMにかけたこの一言が、間もなく迎える運命を予感させます。
運命に抗う孤高の戦士たち

◾︎老いた戦士たち
年代モノのアストンマーティンDB5、旧式の猟銃とナイフを武器に戦う腕の鈍ったボンド。援護するのは年老いた二人の男女。時代を生き抜いた賢者たちの戦いに燃えます。
DB5も旧装備ながら本家の意地を見せます

◾︎M、Q、マネーペニー
クレイグシリーズになってお馴染みのメンツが初めて揃う作品ですが、コレは単なるファンサービスでも流行りのビギンズでもありません。MI6の存在意義を賭け、戦いに勝利した戦士たち、そして復活を遂げたMI6(そして製作陣)の勝利宣言なのです。
そう、お楽しみはコレからだって事です!

本作で描かれたのは、Mに捨てられた英国諜報部員の成れの果て。MI6に里帰りし忠誠心を新たにするボンド。一方は恨みを晴らすべくMI6にテロを仕掛け、Mをつけ狙うシルヴァ。2人を描く事で浮き彫りになるMの重責。その呵責から「すべて私のせいね」との言葉すらMの口から引き出す事になる。そこには死をも覚悟したMがいた。

本作でボンドはあらゆるものを失う。諜報員としての生命、職、屋敷、愛車、そして、あろうことか救おうとした2人の女性までも失ってしまう。本編オープニングでロンソンの死を目の当たりにし、自身の未来の姿を投影させたに違いないボンドもまた、死を覚悟していたように見えてくる。すべての登場人物に死の影がつきまとうダークな物語。
そんな不吉な影を纏った新体制にマネーペニーの存在は不可欠。クレイグシリーズでレギュラーメンバーのマネーペニーやQの登場がここまで遅れたのは、もしかしたら然るべき導きを待っていたからなのかもしれない。

『スカイフォール』はシリーズ最大の異色作でありながら、シリーズを語る上で決して無視できない重要作品です。サム・メンデス監督投入で更なる進化を遂げた007シリーズ。流行り廃りが著しい映画界でトップに君臨し続け、半世紀も生き抜いた007シリーズ。代を継ぎながら作り続けて来た製作者たちに最大の敬意を表しながら、次の50年も楽しませてもらいましょう!


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