感無量のダニエル・ボンドサーガ完結編!
2021年 監督/ キャリー・ジョージ・フクナガ
まず一つ目の満足は、心から楽しめる作品であったこと。
クレイグ主演になってからの007シリーズは、毎回もの凄い変化球を投げてくるので、新作を観る度に「うーん…」という感想しか残らなかったんです。つまり『カジノ・ロワイヤル』『慰めの報酬』『スカイフォール』を受け入れられるまでには相当の時間と、それなりの鑑賞回数を重ねる必要があったんです。特にクレイグ主演の最高傑作と誉れ高い2012年の『スカイフォール』なんか、受け入れられたの去年ですよ。
しかし『ノー・タイム・トゥ・ダイ』はストンと落ちたんですよ(いや実は2度目の鑑賞で落ちたんですけどね) 。難しいクレイグ初期三作品とも、往年の娯楽作に寄せた前作『スペクター』とも異なる作風でありながら、すべてのクレイグ主演作品を線で繋げるサーガ完結編。人気絶頂のクレイグだからこそ実現出来た特別な作品です!
そして…まさか007を観て涙を流す日が来るとは!!
二つ目の満足は、ボクがシリーズで最も好きな第6作『女王陛下の007』の恨みを晴らしてくれたこと。
1969年に公開された『女王陛下の007』は、少なくとも1980年代頃までは失敗作と呼ばれ、最も人気の無い作品でした。第13作『オクトパシー』が公開された時に発売された007ムックでは、"『女王陛下の007』はシリーズ作品とみなさないので割愛する"などの暴言暴挙によってスルーされていたんですよ!信じられます?その記事を書いたライターと編集者を今日の今日まで許していませんでした(名前まで覚えてるからね)が、本作でキャリー・ジョージ・フクナガ監督が、バーバラ・ブロッコリとマイケル・G・ウィルソンの両プロデューサーが、そして何よりもダニエル・クレイグが『女王陛下の007』をリスペクトし、本作『ノー・タイム・トゥ・ダイ』を作り上げたんですよ!だからもういいや!!
極上の刻となった163分(異例の長尺ながら、2回とも長いとは感じませんでした)は、本当に特別な時間でした。そして、"ある驚きのアイディアがある"と公言していたクレイグでしたが、その驚きのアイディアはひとつやふたつではありませんでした!!
【この映画の好きなとこ】
◾︎『女王陛下の007』リスペクト ※ネタバレ
①『女王陛下の007』でボンドが新妻に囁いた台詞"We Have All The Time In The World"のセリフが、アバンタイトルと本編ラストに聞ける。
②アバンタイトルで上記台詞あとに、『女王陛下の007』の主題歌『愛はすべてを越えて We Have All The Time In The World』のメロディが流れる。
③『女王陛下の007』のタイトルシークエンスでモチーフとされた針時計と砂時計が、本作タイトルシークエンスにも採用された。
④Mがボンドに復職任命するシーンのバックで流れるスコアが、『女王陛下の007』で使用された『すべては終わり Over & Out』。
⑤最後に大きな仕掛けがありますが、これは是非とも自身でそのサプライズを味わってください。
◾︎アストンマーティンV8
アストンマーティンDB5の次にボンドが選んだ車が、第15作『リビング・デイライツ』に登場したアストンマーティンV8。アストンマーティン史上2番目に好きな車の復活に感激!
◾︎パロマ (アナ・デ・アルマス)
お酒は基本一気飲みもツボ。男女共に好かれるキャラ!
◾︎マドレーヌ (レア・セドゥ)
◾︎ガンバレル ※ネタバレ
シリーズ初の演出が2つ。1つ目はボンドが銃を撃った後に血が流れない。2つ目は銃を撃ったボンドの姿がフェイドアウトする。画面を血で染めず、白銀の世界にいざなう本作ならではの名演出。
◾︎アバンタイトル ※ネタバレ
ヴェスパーの墓前にスペクターカード!そして爆発!往年のB級テイストが味わい深い。疑心暗鬼に陥ったボンドを重厚に演出。列車に乗り込んだマドレーヌには涙!
◾︎タイトルシークエンス
アバンタイトルのドラマと主題歌が完全にシンクロしボロボロに泣かされる。もはやタイトルシークエンスもドラマの一部。ビリー・アイリッシュの主題歌も、ダニエル・クラインマンが描くビジュアルも完璧。
◾︎スペクターの集会
ブロフェルドの誕生パーティーに潜入したボンドとパロマ。前作『スペクター』同様に鳥籠の中にいるボンドはもはやお約束?パロマの天然ぶりと高い戦闘能力にメロメロ。
◾︎Mとの確執
ビジターカードをゴミ箱に投げる描写もボンドらしい
◾︎ブロフェルドとの面会 ※ネタバレ
挑発に乗ったボンドがブロフェルドの首を絞める。ボンドが敵を絞殺するショッキングな描写は、イアン・フレミングの原作小説(『ゴールドフィンガー』『007は二度死ぬ』)でしか描かれて来なかっただけに、このシーンはクレイグからの大きな置き土産となった。
◾︎沈む船 ※ネタバレ
閉じ込められた船内で、死を予感したフィリックスがボンドに言う台詞「お互い、いい人生を選んだよな」は、お互いの人生と友情を讃えるものであると同時に、忍び寄る死神への強がりとも取れて味わい深い。
◾︎怒れるボンド
敵の名前と決めゼリフはネタバレになるから書きません
◾︎静寂
お辞儀で迎える作業員、畳の部屋、日本庭園など厳かな風景を覗かせるサフィンの基地。毒草園のアイディアは、イアン・フレミング原作小説『007は二度死ぬ』から。
◾︎最後の咆哮
リアルガンバレルをキメたり、ワンカットで異様な緊張感を演出したり、往年の要塞破壊シークエンスをスケールアップで楽しめた!
◾︎細菌の行方 ※ネタバレ
触れるものすべてを死なせる細菌の行方を知ったボンド。絶望と虚無感が入り混じった表情が切なすぎる。項垂れたままサフィンに銃弾を放つシーンも含めクレイグ渾身の演技!
◾︎ラストシーン〜エピローグ
絶対に書けない!!
実は初めて鑑賞した時のストレートな感想は"失望"でした。本作のラストが受け入れられず、心から失望したのです。もちろんこんな気持ちで劇場を出るのはこれが初めてのこと。
しかし、そのラストに至るまではホントに最高でした!開巻のガンバレルシークエンスで"ジェームズ・ボンドのテーマ"と共に現れるクレイグの姿には、何故か涙が込み上げるほど感動したし、アバンタイトル〜タイトルシークエンスも同様に感涙モノの爆上がり!この時点で、クレイグシリーズの最高傑作と確信したほどでした。気分は上々!どんどん盛り上がる本作の波にしっかりと乗れたボクがいました!
…それであのラストは無い。実はあのラストを予測していたんです。しかし、"それをホントにやっちゃうのってどうなのよ?"という気持ちがどうにもこうにも拭えず…。もうBlu-ray出るまでは観なくていいや…。そう心に決めて寂しく劇場を去ったのです。
しかし、ラストを除く全ての素晴らしい感動が忘れられずに翌週またしても劇場へ。…それがなんという事でしょう!ラストシーンを迎える頃には007シリーズ鑑賞において初の涙を流し、完全に本作の虜になっていたのです!何故だ!?まあいいや!!
その日以来、仕事中も帰り道も頭の中は『ノー・タイム・トゥ・ダイ』一色でした。本作の公開に合わせて発売されたパンフレット、007特集雑誌やムックも読み漁りました。その勢いは止まることなく、普段買うことの無いポスター(ボンド、マドレーヌ、パロマの3パターン)までAmazonで購入しちゃいましたよ(だいぶ値上がりしてた(;´д`))。
ここまで新作に夢中になったのは、1989年の第16作『消されたライセンス』以来です。それ以降、新作が公開される度に発売されて来た書籍は全て購入して来ましたが、実はほとんど読んでいないのです(特にクレイグに代替わりしてから)。しかし本作のおかげでこれから読み漁る日々が続きそうです。あ、それとまた今週末行ってきます!
クレイグは007ファンに最高の贈り物をしてくれました。ホントに心から感謝!この日以来、本作のエピローグを真似て、ロックグラスでウィスキーのストレートを飲む日が続いてます。マジでボンドに乾杯。
007シリーズこちらも
007特集 タイトルシークエンス