007シリーズほどスタイルにこだわった映画もないと思います。その独特のスタイルは60年にも渡り受け継がれ、厳格なる伝統芸として007シリーズに根付いています。
本編開始前の前座として披露されるのは3つのシークエンス。冒頭でボンドが振り向きざまに銃を撃つガンバレルシークエンス。クライマックス級のアクションを披露するアバンタイトル。そして、世界的に有名なアーティストが歌い、珠玉の映像体験が出来るタイトルシークエンス。
007シリーズのファンにとっては、本編以外にも毎回これだけの楽しみがあるんです!なんて贅沢なんでしょう!
今回は、その中から最も芸術性高く、シリーズのイメージを決定づけていると言っても過言ではない、タイトルシークエンスを紹介したいと思います!
ことの始まりは、第1作『ドクター・ノオ』で、天才グラフィックデザイナーのモーリス・ビンダーが、映画史に残る斬新なタイトルを作ってしまったことです。
こんな斬新なタイトルを作ってしまった為に、これ以降自身と後輩の首を絞めることになります。さぞ毎回頭を悩ませて作り上げてるんでしようね。
作品世界にいざなう見事な映像を作り上げたタイトルデザイナーは、創始者モーリス・ビンダーを筆頭に、その弟子であるロバート・ブラウンジョン、そして1995年の『ゴールデンアイ』から最新作『ノー・タイム・トゥ・ダイ』までのほとんどを、ダニエル・クラインマンが手がけております。
そして、タイトルシークエンスのもう一つの要が主題歌です。最新作『ノー・タイム・トゥ・ダイ』まで主題歌を歌ったアーティストは、シャーリー・バッシー、トム・ジョーンズ、ナンシー・シナトラ、ポール・マッカートニー、シーナ・イーストン、デュラン・デュラン、a-ha、ティナ・ターナー、シェリル・クロウ、マドンナ、アデル、ビリー・アイリッシュなどなど!
大御所や時代のトップアーティストを、次々に起用するフットワークの良さには毎回驚かされます。
007シリーズのタイトルシークエンスは、女性のシルエットが舞う映像構成が基礎フォーマットとされていますが、シリーズでは幾度も変革を試みています。
『死ぬのは奴らだ』では、ブードゥー教のオカルト要素を取り入れたり…
『私を愛したスパイ』では、タイトルにボンドを登場させたり…
『ユア・アイズ・オンリー』では、主題歌を歌うシーナ・イーストンを登場させたり…
『ダイ・アナザー・デイ』では、監禁されたボンドが、拷問を受ける様を描いたり…
実に趣向を凝らしてますね!ダニエル・クレイグ主演の近作では、それまで主役だった女性シルエットを、クレイグメインの映像構成へとシフトしているのも特徴です。
60周年を迎えようとしている007シリーズには、いつも素晴らしいタイトルシークエンスが寄り添って来ました。ここでは、そんな愛すべき芸術作品だけに焦点を絞り、シリーズに華を添えて来た25本のタイトルシークエンスから、超個人的主観による傑作15選をご紹介します!!
タイトルシークエンスTOP15
◾︎15位 ドクター・ノオ
作曲 / モンティ・ノーマン 編曲 / ジョン・バリー
デザイナー / モーリス・ビンダー
この作品を15位にしたら怒られそうだが、これに触発されたクリエイター達(ビンダー本人含め)が、一作毎に劇的進化を遂げているのだから仕方ない。弾けるドット柄が印象的。シルエットの男女も、原色の色使いも、すべてはこの作品から。
◾︎14位 慰めの報酬
主題歌 / ジャック・ホワイト、アリシア・キーズ
デザイナー / MK12
砂漠をひとり彷徨う姿は、まさにボンドのカラカラに乾いた心に他ならない。本作のみデザインを担当したデザインスタジオMK12は、縦横無尽のカメラワークと斬新なカット割で存在感を示した。『ドクター・ノオ』リスペクトのドット柄に胸騒ぎ。主題歌はシリーズ初のデュエット。
◾︎13位 美しき獲物たち
主題歌 / デュラン・デュラン
デザイナー / モーリス・ビンダー
ボンドの映像は『私を愛したスパイ』からの使い回し。撮り下ろし映像は"一体何があった?"というほどシュールでサイケデリック。しかし、これが偶然の産物かそれとも計算なのか、デュラン・デュランの主題歌と見事にマッチ。主題歌は全米No.1の大ヒット(日本でも6週連続1位)を記録した。
◾︎12位 スカイフォール
主題歌 / アデル
デザイナー / ダニエル・クラインマン
ボンドが黄泉の国を彷徨う不吉なタイトル。全編死をイメージさせるビジュアルで構成し、ファンの心を掻き乱す。アデルが歌う主題歌は、シリーズに初のアカデミー賞最優秀歌曲賞をもたらした。
◾︎11位 消されたライセンス
主題歌 / グラディス・ナイト
デザイナー / モーリス・ビンダー
威風堂々たる美しさで描かれたビンダーの最終作。カジノのイメージをメインに作り込まれた映像は見応え十分。本来はエリック・クラプトン演奏による"ジェームズ・ボンドのテーマ"が使用される筈だったが、残念ながらお蔵入りとなり、代打のグラディス・ナイトがパワフルなボーカルを轟かせた。
◾︎10位 死ぬのは奴らだ
主題歌 / ポール・マッカートニー&ウィングス
デザイナー / モーリス・ビンダー
ブードゥー教をイメージした世界観は、それまでの華麗なタイトルシークエンスのイメージを一新。マッカートニー夫妻が作詞作曲した主題歌も同様で、シリーズカラーのマンネリ化を防ぎ新風を吹き込んだ。
◾︎9位 私を愛したスパイ
主題歌 / カーリー・サイモン
デザイナー / モーリス・ビンダー
初めてボンドがタイトルシークエンスに登場(被写体に本編のシーンを投影した『ゴールドフィンガー』、シルエットのみ登場した『女王陛下の007』は、この特集では除外とします)し、鮮烈な印象を残す。ビンダーの格調高い演出と、サイモンの歌声が相まって、さながら絵画のように美しいタイトルシークエンスとなった。
◾︎8位 ノー・タイム・トゥ・ダイ
主題歌 / ビリー・アイリッシュ
デザイナー / ダニエル・クラインマン
『女王陛下の007』リスペクトの映像と、アバンタイトルから物語が続くかの如き構成が見事。『ドクター・ノオ』リスペクトのドット柄も鮮烈。『カジノ・ロワイヤル』『スペクター』に続いて三度目のタイトルシークエンス登場となったヴェスパーが、"運命の女"の印象を決定づける。アイリッシュの歌声が最高すぎて涙が止まらない。
◾︎7位 女王陛下の007
作曲 / ジョン・バリー
デザイナー / モーリス・ビンダー
ボンドのシルエットがタイトルシークエンスに駆け込んで行くアイディアが鮮烈。針時計と砂時計の過ぎゆく刻をモチーフにした作品。時計の針にぶら下がったボンドは、時を戻そうとしている?ジョン・バリー作曲のマーチで爆盛り上がり!
◾︎6位 ゴールデンアイ
主題歌 / ティナ・ターナー
デザイナー / ダニエル・クラインマン
冷戦の終結、ソ連の崩壊をモチーフに描く。それまでお色気要員だった女性を逞しく描いており、もうカッコいいという褒め言葉しか見つからない。主題歌をU2のボノとジ・エッジが作り、ティナ・ターナーが歌う超豪華版!勿論文句なしの仕上がりなんだけど…ボノが歌うGOLDENEYEも聴きたいよね!
◾︎5位 カジノ・ロワイヤル
主題歌 / クリス・コーネル
デザイナー / ダニエル・クラインマン
まさかのアニメ!それでこのカッコよさ!マンネリを打破したなどという生優しい言葉では済まされない歴史に残る偉業!戦う男達だけ(瞬きすると見逃すヴェスパーのワンカット登場あり)の構成もシリーズ初。最後に登場するボンドの実写映像には、どの作品よりも大きな拍手を送りたい。
◾︎4位 リビング・デイライツ
主題歌 / a-ha
デザイナー / モーリス・ビンダー
ハードボイルド小説のカバーに登場しそうな、チープ感溢れる映像が満載。しかし、そんなB級テイストこそが007シリーズ、そしてビンダーの持ち味。撮り上げたすべてのビジュアルが、a-haの主題歌にハマり奇跡の傑作となった。
◾︎3位 ゴールドフィンガー
主題歌 / シャーリー・バッシー
デザイナー / ロバート・ブラウンジョン
これは歌の好み、ビジュアルの好みをも超越した世界。誰が観ても傑作!誰が観ても好きにならずにいられない!本作で圧巻の歌唱力を発揮したバッシーは、本作含め三作品の主題歌を担当。ビジュアル面では、本作の主題である金(きん)を引き立たせる為、全編黒を背景にし神々しいまでの世界観を創り上げた。
金粉女性にオッドジョブの映像を重ねる悪趣味感!
◾︎2位 ロシアより愛をこめて
作曲 / ジョン・バリー
デザイナー / ロバート・ブラウンジョン
ベリーダンサーのシルエットに投影されたクレジットの妖しさ、艶かしさ。抜群の照明効果が妖艶さを更に引き立てた。James Bond Is Backから始まるオープニングスコアもシリーズのベストスコアと呼ぶべき傑作!
◾︎1位 サンダーボール作戦
主題歌 / トム・ジョーンズ
デザイナー / モーリス・ビンダー
『ロシアより愛をこめて』『ゴールドフィンガー』という二大傑作を放ったブラウンジョンに完全敗北かと思いきや、流石の貫禄、流石の腕前でビンダーがカムバック。トム・ジョーンズのコテコテセクシー主題歌と共に味わう陶酔至福の3分間。時折り現れる邪悪なスペクターと圧巻の色使い。さすがはモーリス・ビンダー!
この記事を書きながら、そしてタイトルシークエンスを振り返りながら、改めて007シリーズは総合芸術であり、最強のエンターテインメントであると確信しました。
不思議なもので、以前は好きでなかったタイトルシークエンスも、新たな魅力に絆され好きになってしまうこと、今回の選出でもありました。
ランキングから漏れてしまった作品も、いつかその魅力に気づき、好きになる日が来るのかもしれません。そう考えるとタイトルシークエンスを味わう楽しみは尽きませんね。
好きな歌、好きな映像、好きなタイトルシークエンスが増える事は、この上ない喜び。
この記事をお読み頂いた皆様にも、好きな歌が増えること、心ときめく映像を観れること、そしてお気に入りのタイトルシークエンスが見つかれば、ボクとしてもこれ以上の喜びはありません。
※2019年3月27日の投稿記事をリライトしました
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