シリーズにおいて唯一無二の異色オーラ

1973年 監督/ ガイ・ハミルトン

3代目ジェームズ・ボンド役、ロジャー・ムーア初主演で製作された007シリーズの第8作。
1973年の本作から1985年の『美しき獲物たち』まで、実に12年もの間に7回もジェームズ・ボンドを演じる事になるんですから、ファンや製作陣から大きな支持を得ていた事の証しですよね。

ただ、この作品には特色がありすぎて…

まず、ロジャー・ムーア演じるボンド。それまでのボンドとの差別化を試み、細やかな抵抗をいくつもしています。誰の提案かはわかりませんが、それまでの定番を不採用却下としています。例えば、タキシード、ワルサーPPK、マティーニ、たばこ。これらをやめて、太い葉巻をくわえバーボンを飲み、クライマックスでは黒のボディスーツをまとい、44マグナムで敵地に乗り込む…。
えー!?こんな007やだー!

そして音楽担当には、ビートルズのほとんどの曲を手がけた名プロデューサー、ジョージ・マーティンが登板し、それまでに確立された007サウンドを意識せず、独自のサウンドを披露しています
ジョン・バリー節が恋しくなります。

そして、作品ストーリーの要となるプロットは、Mからの指令を受けた公的任務だけど、ボンドとカナンガが女を奪い合う物語って感じなんですよね。世界の危機感が感じられないんです。
それもそのはず、前作『ダイヤモンドは永遠に』まで、『ゴールドフィンガー』を除くすべての作品に登場していた犯罪組織スペクターが登場しないから余計にそう感じるんでしょうけどね。市場を独占しようとする麻薬組織が敵ですから仕方ないか。ハーレム街のギャングがウジャウジャ出てくるのも異色。

そして、シリーズの最大の売りであるアクションシークエンスが…どれもユルいんです。そんなこんなで、シリーズファンとしては結構な違和感を覚えます。
では、なぜそんな本作がこのブログに登場したかと言うと…

それでも観るべき所が多く面白からなのです!


【この映画の好きなとこ】

◾︎悪役陣
メインの悪役、そして大勢の手下たち含め、みんなオシャレ黒人でカッコよすぎ!ハーレム街に紛れ込んだボンドを、掌で転がすかのよう常に出し抜いています!タロットカードが示した様に、まさにボンドが愚か者に見えるほど!
カナンガ
ビッグ
ティー・ヒー
サメディ
がんばれボンド!

◾︎アバンタイトル
本編前、007が華麗なアクションを披露するやつですが…なんとボンドが登場しないんですよ!
国連会議、ハーレム街での葬式、邪教集団の儀式で、3人のイギリス諜報部員が殺されるだけ!しかし観客の恐怖心を煽り、新ボンドの登場を待ちわびさせる斬新な手法じゃないですか!
刺客黒人の手のアップ!このカット好き!
ひとり
ふたり
ちょい!マジやめろって!! …さんにんめ

◾︎恋に敗れたカナンガ
占い師で予言者のソリテアが、ボンドに体を許した事から『なぜだ?いずれオレが愛してやるはずだった!知っていたろ!』と叱咤しソリテアを張り倒すシーン。女に手を挙げるのは大嫌いだけど、これは気持ち伝わるなあ…カナンガ役の名優ヤフェット・コットーならでは!

◾︎オカルト趣味
悪役陣でもっとも鮮烈な印象を残すサメディ男爵
この方がインチキ邪教集団の神的存在なんだけど、銃で撃たれたり、毒ヘビに噛まれたりで何度も死ぬけど何度も生き返る!オカルトを絵空事ではなく、現実のものとして受け取った稀有な例。

◾︎エンディング  ※ネタバレ
刺客を追い払い、ボンドとソリテアを乗せた列車が走るハッピーエンドと思いきや、その列車の先頭を陣取り高笑いをするサメディ!もちろんこんなとこに普通乗れるはずも無く、やはりスーパーナチュラルな存在なのかと慄く衝撃の幕!
先に述べたように、007作品としてはネガティヴ要素がたくさんあります。しかし、恋のバトルと現実社会に潜むブードゥー教の脅威を絡め、非常におもしろいストーリーが展開されている事こそが重要事実!
悪魔の城からお姫様を救う冒険モノのような面白さがあるんですよ!ソリテアがボンドに恋する過程や心情も結構丁寧に描かれています!

そして、なにより悪役のキャラクターがよく描かれていて魅力的です。本作の監督は、シリーズ初期常連のガイ・ハミルトン。やっぱキャラクター造詣においてはこの方がベストですね!
音楽も異色ですけど、作品世界観にはピッタリです!なによりジョージ・マーティンとポール・マッカートニーが作った主題歌" LIVE AND LET DIE"は、シリーズきっての人気ナンバーになったし!
結果好きなんですよ。

007シリーズこちらも
ノー・タイム・トゥ・ダイ