喪失と復活。

2002年 監督/ リー・タマホリ

007シリーズ第20作。世界中を魅了して来た人気アクションシリーズも、第1作『ドクター・ノオ』が製作された1962年から数えて40周年、そして20作目というダブルアニバーサリーを迎えました。その記念超大作として放たれたのが『ダイ・アナザー・デイ』。

その派手で壮大なビジュアルは『007は二度死ぬ』の再来と呼べるほど。しかし、ただのお祭り映画ではなく、ボンドが敵国に拉致監禁される衝撃のオープニングや、諜報員の資格を剥奪され孤軍奮闘するボンドを描くなど、物語は意外性の連続で展開されます。
ビジュアル重視の派手な作品でありながら、謎に包まれた新たな敵や見えない敵との攻防。そして、ボンドのアイデンティティをかけた戦いが重厚感を醸し出し、他作品にはない独特のオーラを放っています。
その一方で、ライブアクションに拘って来たシリーズが、遂に大々的なCG導入を行い物議を醸しました。しかし、今となってはこれも本作の愛すべきチャームポイントとして受け止められているはず。

本作が最後の出演となった5代目ボンドのピアース・ブロスナンは、前作『ワールド・イズ・ノット・イナフ』で築いた新たなボンド像を更に掘り下げ、ブロスナン史上最も魅力的なボンドを創造しました。それは同時に、ボンド史上でもトップレベルに位置付けられる事を意味します。

20作目に懸けた製作陣の迸る情熱が、怒涛の映像となり観るものを飲み込みます!



【この映画の好きなとこ】

◾︎ジェームズ・ボンド (ピアース・ブロスナン)
とにかくカッコいい!前作より貫禄が付いただけでなく、愛嬌ある仕草ひとつまでをブロスナンオリジナルのボンドに仕上げて来た!
ブロスナンはこの役柄を愛してるとみた

◾︎ミランダ・フロスト (ロザムンド・パイク)
シリーズきっての悪女で裏切りの天才。その美貌と高飛車な雰囲気が最高!メインのグレーブスやザオよりも存在感があった。
もう騙されたい!

◾︎Q (ジョン・クリーズ)
前作では、モンティ・パイソンそのままのギャグ人間だったが、本作で銃を撃つその姿は兵器開発担当としての説得力があり、凛々しくさえある。歴代で最も好きなQ。
次回作楽しみにしてたのにな

◾︎アストンマーティン V12
アストンマーティンが公用車として復活。やはりボンドにはアストンマーティンが似合う。V12の突出した美しさはシリーズのキング・オブ・ベスト(と個人的に思っている)。
しかも"消える車"なんて!欲しい!

◾︎アバンタイトル
巨大な波に乗る3人の男たち。誰かを追っているのか?それとも追われているのか?驚異の波乗りテクと音楽で見せる圧巻映像。
続くホバークラフトチェイスより興奮度高い!

◾︎Die Another Day
007とて全く寄せる事のない主題歌を提供したのはマドンナ(これでもマドンナ曰く"好きなようにはやらせてもらえなかった")。ボンドの拷問が描かれる陰鬱なタイトルを、結果的に死のイメージから救ったのはマドンナかもしれない。

もちろんマドンナ大好きですけ

◾︎ひげを剃るボンド
国と諜報部に見捨てられた男のわびしさと燃える復讐心、そして同時に鏡裏に潜む中国諜報員を見据えた、なんとも複雑で繊細な表情をブロスナンが見事に表現!これは名演!
「鏡に映るお前は一体誰なんだ…」アイデンティティを取り戻せ!

◾︎ジンクスの射撃
ボンドのパートナーとなるNSAのエージェント。花柄ピンクのひらひらドレスで銃を撃つなんて、誰が考えたのか素晴らしいセンス!
彼女を主人公にしたスピンオフ企画まで持ち上がった

◾︎フェンシング対決
闘争本能剥き出しの戦いに発展するにはある秘密が。しかし、その理由を知る由もないボンドまでヒートアップしたのは、やはり並ならぬ第六感か。そう思うと益々ピアース・ボンドが好きになる。
施設を壊しまくる戦いは、さすが壊し屋上級者

◾︎見捨てられた諜報員
廃駅構内に作られたMI6の地下支局。ボンドの言う"捨てられた駅と捨てられた諜報員"の取り合わせがハマる絵面。意外な場所に作られた地下支局は、かつてのシリーズ名物だっただけに嬉しい復活。
スパイ感増すよ

◾︎ミランダの正体 ※ネタバレ
祖国を裏切ったミランダが正体を晒し、ボンドを窮地に追い込むグレーブス陣。絶体絶命の中で、Qの道具による脱出劇とグレーブス陣の追撃も迫力満点。
この美術は『ダイヤモンドは永遠に』じゃないか!

◾︎氷上のカーチェイス
ボンドとザオが互角の戦闘能力で戦う様は、さながら『ゴールデンアイ』のボンド対アレック。アストンマーティンのシルバーボディと爆発が氷上に映える。
溶け始めた氷上で危険な撮影をしてくれてありがとう!

◾︎ジンクス救出
本作で最も好きなシークエンス。氷の宮殿に監禁されたジンクスを救出に向かうボンド。門番を跳ね飛ばし、片手間にザオを倒し、ドアに突っ込み、躊躇なくフロントガラスを割るボンドにしびれた!
もう何もかも最高だ!!

◾︎狙撃
狙撃シーンはいつもボンドがスーパーヒーローではなく、政府の殺し屋である事を思い出させてくれる。人や車の往来ある中で、一瞬の隙を狙う緊迫感が堪らない。
グレーブスの軍用機に潜り込むシーンも往年の味わい

◾︎Oh, James…
本編の最後は、やっぱりボンドガールのこのセリフ。しかし…マネーペニーにこのセリフを言わせるなんて絶対ダメでしょー!!と思いきやきちんと回収が。まあ、特別企画という事で、貴重なOh,James…となりました。
ホントはマネーペニーも言いたかったのかな

初めてこの作品を鑑賞した時、前作『ワールド・イズ・ノット・イナフ』の大ファンだったボクとしては、"これはないなあ"と思ったものでした。前作の構成を焼き直した歯切れの悪いアバンタイトルとタチの悪いVRジョーク。そして悪夢のフルCGアクション。
しかし、観直すたびにそれらを上回る傑出したカットやシーン、そしてボンドを始めとするキャラクターの妙に惹かれ、あっという間にその魔力に取り込まれてしまったのです。
中でも特筆すべきは、やはりブロスナン演じるボンド。見所と魅力に溢れるあまり、今回はその魅力の全てを書き出す事を断念。これは別に機会を設けて紹介したいと思います。

重厚な設定でありながら、軽妙な語り口で楽しませてくれる本作は、シリーズ40周年の集大成であり、シリーズが提示した新しいエンタメの在り方。批評家やシリーズファンからの賛否が割れる問題作でありながら、大ヒットを記録した事実を踏まえると、製作陣は時代の波に飲まれたのではなく、時代の波に上手く乗っていた事がわかります。

※2019年3月13日の投稿記事をリライトしました


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