物理ネコ教室020滑車のあるときの運動方程式・改訂版 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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マンガ・イラスト&科学の世界へようこそ。

 

 上のイラストは『いきいき物理マンガで実験/冒険』の帯に使ったニュートンのイラスト。わりとお気に入りです。

 今回は、滑車が関わる複数の物体の運動方程式(アトウッドの装置など)です。

 前回と今回で、運動方程式の基本的なものを一通り、学ぶことになります。

 

 なお、アトウッドの装置は、もともと等加速度運動をする実験装置として開発されました。その原理は図にしめした通りですが、実際に作るのは非常に難しいのです。

 アトウッド本人が職人に作らせた装置は、非常に精密なもので、ちょっと見では、図と同じ装置には見えません。

 理科教材として手に入るプラスチック製の滑車は、「軽くてなめらかにまわる」理想的な滑車にはほど遠く、この滑車と2種の重りで装置を作っても、理論通りの運動をしてくれませんので、自分たちで加速運動の実験をするときには、アトウッドの装置を使わないのが賢明です。

 

 

1がアトウッドの装置です。

 (問)の答えを予想してみてください。AとBが滑車にぶらさがっているので、2つの重さを足した分が滑車にかかっているような気がします。本当に、そうなるでしょうか?

2はアトウッドの装置の応用です。

 

 

3(1)(2)は1と2の復習です。

 1と2は運動方程式の定番ですので、きちんと理解し、自力で解けるようにしておきたいですね。

4は、サインコサインを用いる練習です。

 今までもある程度はサインコサインを使ってきましたが、運動方程式や力のつりあいの式では、サインコサインは必須。のちに登場する摩擦角の理論計算では、サインコサインを知らないと、現象の本質が見えにくいのです。そろそろ、サインコサインを使うのに慣れておかないといけません。

 1年から物理を学ぶ場合、スケジュール的に数学でサインコサインを習うのが、ちょうどこの時期の前後になります。

 

 では、描きこみを見ていきましょう。

 

 

1では、念のため、滑車と糸の性質について、おさらいをしています。

 理想的な滑車(滑らかで質量が無視できる)と理想的な糸(質量が無視できる)の場合、

 同じ糸の聴力はどこでも同じ

 になります。

 では、運動方程式を手順通り、立てていきましょう。

 

【手順1】まず、物体AとBが受ける力だけを図に描きこみます。(赤い矢印と青い矢印)

 図には滑車が受ける力(緑の矢印)が描いてありますが、これは別の問を解くために、後で描き足したものです。

【手順2】M>mなので、物体Aは上へ、物体Bは下へ動き出すことは明白です。Aの加速度aは上向き、Bの加速度aは下向きになりますから、x軸も、Aは上向き、Bは下向きに取ります。

 イメージ的には、Aのx軸が滑車のところでUターンして、Bのx軸につながっている、という感覚で考えてください。

【手順3】A、B、それぞれのx軸の向きに合わせて、運動方程式を立てます。x軸をそれぞれの加速度の向きに取っているので、間違いは少なくなります。

 A:T-mg=ma・・・<1>

 B:Mg-T=Ma・・・<2>

と書けましたか?

 

Bのx軸を上向き正とした場合の運動方程式

 

 前回説明した通り、本来、軸の取り方は自由ですので、AもBも上向き正として軸を取ることができます。それを推奨しない理由も前回説明しました。初心者は加速度もベクトルであることを忘れてしまうので、Bの運動方程式を

 TーMg=Ma

 と書いてしまうのです。これは間違い。このままAの運動方程式と連立して解くと、正しい答えがでません。

 Bについて上向き正で式を立てる場合は、加速度aは下向きでx軸が上向きなので、

 TーMg=M(ーa)

 としなければなりません。

 この式は<2>と同等ですから、連立して解いた場合、正しい運動方程式を解いた答と一致します。

 

滑車を支える力は二つの物体の重さに等しくない

 

 感覚的には、滑車には二つの物体AとBがぶら下がっているのですから、滑車を天井が支える力Pは二つの物体の重さの合計mg+Mgになりそうな気がします。

 ところが、理論に従って計算してみると、そうならないことがわかります。

 

【手順1】滑車が受ける力(緑の矢印)を図に描きこみます。

【手順2】滑車はその場で回転しますが、滑車自体は上にも下にも動かないので、力はつりあっています。したがって、x軸はどちら向きにとっても構いません。ここでは、上向きを正としました。

【手順3】つりあいの式を立てます。

滑車:P-T-T=0・・・<3>

 となりますね。

 これより P=2Tとなり、Tの値を代入すると描きこみの通り、複雑な値となります。

 決してP=mg+Mgとはなりません

 これは、滑車にぶら下がった二つの物体が静止していず、加速運動をしているためです。

 A、Bは加速運動をしていると、AとBの重心もまた、加速運動をしています。こういうときは、重さがそのまま、AとBを支えている滑車にはかかりません。

 これは、体重計の上にのって、勢いよくしゃがみ込んでみると、よくわかります。

 人間の重心はこのとき、下向きに加速しているので、体重計が人間を支える力は人間にかかる重力より小さくなります。

 

2アトウッドの装置の応用例

【手順1】図に力を描きこみます。(赤い矢印と青い矢印)

【手順2】Aは右向きに、Bは下向きに動き出すので、加速度aはAは右向き、Bは下向きになります。したがって、x軸はAは右向きに、Bは下向きに取ります。また、Aについてはy軸を取ります。

 何度もいいますが、図には力の矢印だけでなく、加速度a、x軸y軸も描きこむようにしましょう。

【手順3】図を見ながら、正負を判断して、x方向について運動方程式、y方向についてつりあいの式を立てます。

x方向

A:T=Ma・・・・<1>

B:mg-T=ma・・<2>

y方向

A:N-Mg=0・・<3>

 と、立てられましたか?

 

 初心者はよく、Aの運動方程式を

A:T+N-Mg=Ma・・・<誤>

 と書きますので、気をつけてください。NとMgはy方向に働く力なので、x方向の運動方程式に入れてはいけません。

 

 

3(1)(2)は、それぞれ描きこみを見てください。

 

4は斜面の運動方程式として代表的なケースです。

 三角比を使うケースです。

 結果の加速度の値

 a=gsinθ

 は、摩擦のない斜面上の運動を考える時、よく使われるので、記憶に留めておきましょう。

 

 

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