上のイラストは『いきいき物理マンガで実験/冒険』の帯に使ったニュートンのイラスト。わりとお気に入りです。
今回は、滑車が関わる複数の物体の運動方程式(アトウッドの装置など)です。
前回と今回で、運動方程式の基本的なものを一通り、学ぶことになります。
なお、アトウッドの装置は、もともと等加速度運動をする実験装置として開発されました。その原理は図にしめした通りですが、実際に作るのは非常に難しいのです。
アトウッド本人が職人に作らせた装置は、非常に精密なもので、ちょっと見では、図と同じ装置には見えません。
理科教材として手に入るプラスチック製の滑車は、「軽くてなめらかにまわる」理想的な滑車にはほど遠く、この滑車と2種の重りで装置を作っても、理論通りの運動をしてくれませんので、自分たちで加速運動の実験をするときには、アトウッドの装置を使わないのが賢明です。
1がアトウッドの装置です。
(問)の答えを予想してみてください。AとBが滑車にぶらさがっているので、2つの重さを足した分が滑車にかかっているような気がします。本当に、そうなるでしょうか?
2はアトウッドの装置の応用です。
3(1)(2)は1と2の復習です。
1と2は運動方程式の定番ですので、きちんと理解し、自力で解けるようにしておきたいですね。
4は、サインコサインを用いる練習です。
今までもある程度はサインコサインを使ってきましたが、運動方程式や力のつりあいの式では、サインコサインは必須。のちに登場する摩擦角の理論計算では、サインコサインを知らないと、現象の本質が見えにくいのです。そろそろ、サインコサインを使うのに慣れておかないといけません。
1年から物理を学ぶ場合、スケジュール的に数学でサインコサインを習うのが、ちょうどこの時期の前後になります。
では、描きこみを見ていきましょう。
1では、念のため、滑車と糸の性質について、おさらいをしています。
理想的な滑車(滑らかで質量が無視できる)と理想的な糸(質量が無視できる)の場合、
同じ糸の聴力はどこでも同じ
になります。
では、運動方程式を手順通り、立てていきましょう。
【手順1】まず、物体AとBが受ける力だけを図に描きこみます。(赤い矢印と青い矢印)
図には滑車が受ける力(緑の矢印)が描いてありますが、これは別の問を解くために、後で描き足したものです。
【手順2】M>mなので、物体Aは上へ、物体Bは下へ動き出すことは明白です。Aの加速度aは上向き、Bの加速度aは下向きになりますから、x軸も、Aは上向き、Bは下向きに取ります。
イメージ的には、Aのx軸が滑車のところでUターンして、Bのx軸につながっている、という感覚で考えてください。
【手順3】A、B、それぞれのx軸の向きに合わせて、運動方程式を立てます。x軸をそれぞれの加速度の向きに取っているので、間違いは少なくなります。
A:T-mg=ma・・・<1>
B:Mg-T=Ma・・・<2>
と書けましたか?
Bのx軸を上向き正とした場合の運動方程式
前回説明した通り、本来、軸の取り方は自由ですので、AもBも上向き正として軸を取ることができます。それを推奨しない理由も前回説明しました。初心者は加速度もベクトルであることを忘れてしまうので、Bの運動方程式を
TーMg=Ma
と書いてしまうのです。これは間違い。このままAの運動方程式と連立して解くと、正しい答えがでません。
Bについて上向き正で式を立てる場合は、加速度aは下向きでx軸が上向きなので、
TーMg=M(ーa)
としなければなりません。
この式は<2>と同等ですから、連立して解いた場合、正しい運動方程式を解いた答と一致します。
滑車を支える力は二つの物体の重さに等しくない
感覚的には、滑車には二つの物体AとBがぶら下がっているのですから、滑車を天井が支える力Pは二つの物体の重さの合計mg+Mgになりそうな気がします。
ところが、理論に従って計算してみると、そうならないことがわかります。
【手順1】滑車が受ける力(緑の矢印)を図に描きこみます。
【手順2】滑車はその場で回転しますが、滑車自体は上にも下にも動かないので、力はつりあっています。したがって、x軸はどちら向きにとっても構いません。ここでは、上向きを正としました。
【手順3】つりあいの式を立てます。
滑車:P-T-T=0・・・<3>
となりますね。
これより P=2Tとなり、Tの値を代入すると描きこみの通り、複雑な値となります。
決してP=mg+Mgとはなりません。
これは、滑車にぶら下がった二つの物体が静止していず、加速運動をしているためです。
A、Bは加速運動をしていると、AとBの重心もまた、加速運動をしています。こういうときは、重さがそのまま、AとBを支えている滑車にはかかりません。
これは、体重計の上にのって、勢いよくしゃがみ込んでみると、よくわかります。
人間の重心はこのとき、下向きに加速しているので、体重計が人間を支える力は人間にかかる重力より小さくなります。
2アトウッドの装置の応用例
【手順1】図に力を描きこみます。(赤い矢印と青い矢印)
【手順2】Aは右向きに、Bは下向きに動き出すので、加速度aはAは右向き、Bは下向きになります。したがって、x軸はAは右向きに、Bは下向きに取ります。また、Aについてはy軸を取ります。
何度もいいますが、図には力の矢印だけでなく、加速度a、x軸y軸も描きこむようにしましょう。
【手順3】図を見ながら、正負を判断して、x方向について運動方程式、y方向についてつりあいの式を立てます。
x方向
A:T=Ma・・・・<1>
B:mg-T=ma・・<2>
y方向
A:N-Mg=0・・<3>
と、立てられましたか?
初心者はよく、Aの運動方程式を
A:T+N-Mg=Ma・・・<誤>
と書きますので、気をつけてください。NとMgはy方向に働く力なので、x方向の運動方程式に入れてはいけません。
3(1)(2)は、それぞれ描きこみを見てください。
4は斜面の運動方程式として代表的なケースです。
三角比を使うケースです。
結果の加速度の値
a=gsinθ
は、摩擦のない斜面上の運動を考える時、よく使われるので、記憶に留めておきましょう。
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