物理ネコ教室014力と慣性1 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 物理ネコ教室、いよいよ、本格的に「物理」的な内容、【力の定義】に入っていきます。

 

 もちろん、ガリレオ・ガリレイの等加速度運動も、物理なのですが、高校物理で扱うと、その物理的な意味はなかなかわかりにくいのですね。

 

 今回は物理の歴史においても、物理理論としても、重要な回なので、2回にわけてお送りします。

 

 ガリレオの研究を受け継いだニュートンの【運動の法則】は、物理的な意味がわからないと、理解しがたい世界。もっとも、物理的な世界であります。けっして、算数的な計算では理解できない世界です。

 

 

 

 

 ニュートンの運動の法則の世界に入る前に、やっておかなくてはならないことがあります。

 

 それは、ガリレオの【慣性】の発見です。

 

 このテーマは、今までにも何度も書いてきましたし、マンガでも描いてきましたので、詳細はそちらをごらんください。(関連記事に、いくつかの記事へのリンクがありますので、そちらをご覧ください)

 

 プリントの内容に入る前に、欄外に描いてあるイラストの話題に触れます。

 

 なぜブレーキをかけたバスの中で乗客の体が前方に投げ出されるのか。

 なぜ、進んでいる船のマストから落とした物が、マストの下に落ちるのか。

 

 これが、中世までの【古い自然認識】から、ガリレオに始まる【新しい自然認識】に変革される、キーワードになります。

 

 ガリレオは、地動説を支持するため、当時の知識人の【常識】に異論を唱えました。

 

 もし、地面が動いているなら、落とした石は自分の足下より後方に落ちるはずだ、という【常識】です。

 

 ガリレオは、それに対し、物体には慣性があり、地面と共に動いていることを【覚えている】から、地面が動いていても足下に落ちる、ということを、りくつではなく、船乗りの体験談を下に構築したのです。

 

 それまでの、自然哲学の常識は【物体が動くのには力がいる】という発想でした。

 

 それを、【物体が動くのは物体の勝手(慣性のため)】という発想で説明したのが、ガレイレオ・ガリレイなのです。

 

 では、書きこみプリントを見ながら、解説していきましょう。

 

 

 

 ガリレオが主張した【慣性】は、じつは中世の【科学暗黒時代】に、アラブ世界で進んだギリシャ自然哲学の発展をもとにしたものです。(*1)

 

 ガリレオの【慣性】を基本においた物理事象のとらえ方は、現在では【ガリレオの相対性】として有名です。(もっとも、物理関係者だけの有名ですが)

 

 1.の慣性のまとめは、書きこみを読んでいただく方がはやいでしょう。

 

 ガリレオの慣性の理解は、現在の理解とは少し異なります。円運動をしている物体は【慣性により】円運動をつづける、という発想も持っていました。これを【円慣性】をいいますが、もちろん、現代の物理学の理解から見ると、間違った発想です。

 

 2.は、ガリレオの次の世代、ニュートンの発見です。

 

 【慣性】、つまり、【物体の運動に関するがんこさ】には、大小がある、というのです。

 

 これは、ガリレオが思いつかなかった発想です。

 

 ニュートンは、持った感触で重い物は大きな慣性を持ち、軽い物は小さな慣性を持つと考えました。

 

 2.の実験は、教室までカナトコを運ぶのが大変なのでやめたいのですが、すごく意味があるので、毎年、必ずやっています。

 

 カナトコを手の上に置いてハンマーで叩いても、手はまったく痛みを感じません。(じっさいの実験では、乗せたカナトコのフチで手が痛まないようにする、こまかいテクニックが必要です)

 

 いよいよ、ニュートンの運動の3法則です。

 

 これについては、【第2法則の中に第Ⅰ法則が含まれているので、第Ⅰ法則は必要ないのではないか】というような、まるで見当ちがいの議論がなされることもあります。

 

 この3つの法則は、物理現象の法則としては、理論的には完全に独立していていますので、そういう議論は無意味ですね。

 

 では、運動の法則を、ひとつずつ見て行きましょう。

 

 第Ⅰ法則【慣性の法則】です。

 

 これは、歴史的な意味でも、原理的な意味でも、重要な法則です。

 

 まず、歴史的な意味を考えると、この【慣性】の法則以前には、【物体が運動し続けるのには運動の向きに働く力が必要である】という【誤解】があります。

 

 ガリレオとニュートンは、何千年も【常識】とされていたこの考え方に、異論を唱えたのですね。

 

 物体が運動を続けるのは、力のせいではなく、物体自身の【性質】による、との発想です。

 

 これを、ガリレオは【慣性】と名づけました。

 

 現在の物理学から見ると、2人の【慣性】の理解はあいまいなものでした。それは、2人とも、【円運動をする物体はそのまま円運動を続ける】という【円慣性】を考えていたからです。

 

 一般には、【ガリレオは慣性を発見したが、円運動も慣性運動のひとつだと考えていたことが間違っていた。ニュートンはそれを正して、慣性運動は等速直線運動だけだとした】のように伝わっています。

 しかし、実際にニュートンの『プリンキピア』を読むと、ガリレオと同じように、円運動の慣性も認めているんですね。

 

 一般の教科書に載っているニュートンの慣性の法則は、そのへんを改良して、【外から力を受けない限り、物体は等速度運動を続ける】という表現に変わっています。

 

 でも、教科書などにまとめられている【慣性の法則】の表現は、ニュートンがいいたかったこととは違うのでは、と思います。

 

 ニュートンが第Ⅰ法則を【慣性の法則】としたのは、次のようなことを主張したかったからでしょう。

 

 【第Ⅰ法則=慣性の法則】物体が運動をつづけるのは、力のためではなく、物体自身のもっている慣性による。

 

 ということです。

 

 それを、具体的に細かく書くと、教科書に載っている表現【物体は外力を受けない限り、等速直線運動をつづける(止まっていた物体は止まり続け、動いていた物体は等速直線運動をする)】になるのでしょう。

 

 つまり、第Ⅰ法則は、力についての誤解を解くためのルールなのです。

 

 歴史的には、これまで述べた通り、運動を続けるのには力がいらない、ということを示すこと。

 

 そして、自然科学理論では、物理量【専門用語ではオブザーバブル(観測できる量)】の定義をする上で、必須なもの、といえるでしょうか。

 

 それは、第2法則で、力と質量(つまり慣性の大きさ)と加速度の関係のルールを示していることと、密接な関係があります。

 

 この時代には、力そのものの定義もきちんとなされていませんでしたから、第2法則【運動の法則】F=maでは、第Ⅰ法則がないと、力Fも質量mも定義されない状況での法則になってしまうのです。

 

 第Ⅰ法則で、質量mを、慣性の大きさとして定義しているので(こまかいことはいっていませんが、物体の運動が慣性によって持続されるということをいうことで、慣性というものの存在を定義しています)、力についての新しい定義(力をかけたとき、物体の質量つまり慣性の大きさに、生じた加速度をかけた量が力である)が意味を持ちます。

 

 第Ⅰ法則で慣性を定義しなければ、第2法則は、定義しなければならない物理量が【力】【慣性質量】の2つがあって、ルールとして成立しないのです。

 

 おわかりいただけたでしょうか?

 

 さらに、第3法則で、ニュートンは【力とは相互作用である】と主張しています。

 

 第3法則は【押せば押し返される】というイメージで説明されることが多いのですが、それはあくまでも見かけの話。第3法則の本当の意味は【力とは2つの物体の間でやりとりされる相互作用である】ということです。

 

 これこそが、ニュートンの【万有引力】の発見につながる、基本法則でもあるのですね。

 

 これも、具体的な話を見ないとイメージがわからないと思いますので、また、次の機会にしたいと思います。

 

 

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