物理ネコ教室016作用反作用とつりあいの力1 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 作用反作用の力とつりあいの力は、初学者がよく間違う概念です。

 そもそも「作用反作用の力」という名称が、誤解を生みます。

 といっても、ニュートン自身が使っていた言葉なので、しかたありませんね。

 

 ニュートン以前には「力は相互作用である」という発想は明確になっていませんでした。例えば「力をこめる」「力をためる」などの誤った表現は、ニュートン以前の、力の概念があいまいだったころの表現です。

 

 まず、作用があって、その後、反作用がある、と、誤解している人も多いのではないでしょうか。

 作用反作用の力は、どっちが作用でどっちが反作用かという区別はありません。本来、力は2つの物体の間に働くペアの「相互作用」であって、一方から他方へ単独で働くものではありません。

 ペアの力なんですから、どっちが先か、みたいなことを考えるのがナンセンス。

 

 では、「作用反作用の力」と「つりあいの力」の違いをはっきりさせていきましょう。

 

 

 1.の(問)に正しく答えられるでしょうか?

 これは、作用反作用の力とつりあいの力の違いがわかっているかどうかを試す問題です。

 

 2.は、今では教科書に普通に載っている内容ですが、じつは愛知物理サークルの先輩方の考案による、力をうまく扱う方法です。

 

 「受ける力で考えよう」というのは、どの教科書でも、力の教え方の基本です。

 今では信じられないことですが、以前の教科書は、「及ぼす力」と「受ける力」が混在した状態で教えられていたので、学生は非常に混乱していました。

 

 どちらかに統一すれば混乱が防げますが、ニュートンの運動方程式F=maの力Fは、もともとその物体が他から「受ける力」なので、「及ぼす力」より「受ける力」で考える方が良いのです。

 

 一つ一つの力の矢印について「何が何から受ける力か?」を考えるのは、初めて力を本格的に学ぶ学生にとっては、省略できない内容です。

 ノーヒントで解いてもらうと、おどろくほど間違えます。

 みなさんも、ちょっとやってみてください。

 

 2の(3)「物体が受ける重力の反作用は何?」という問題は、物理学的に重要なものです。

 じつは、この問こそが、ニュートンの万有引力の法則発見につながっているのです。

 

 3.は、2.の応用例です。

 2.が理解できた人なら、容易に答えることができます。

 

 では、描きこみプリントを見ていきましょう。

 

 

 1.は、初心者が混同しやすい「つりあいの力」と「作用反作用の力」の判別法をまとめてあります。

 

 「作用反作用の力」は2つの物体の間の相互作用の力の組ですから、それぞれの力は異なる物体に働きます。同じ物体に働くことはありません。

 「つりあいの力」は1つの物体に働く複数の力です。

 2力のつりあいばかりを見ていると、「作用反作用の力」とうっかり混同してしまいます。本来「つりあいの力」はある物体が受ける合力がゼロになる場合の、複数の力の組を示しますから、2力でも3力でも4力でもいいのです。

 同じ一つの物体に働く力なので、別の物体に働くことはありません。

 

 しかし、初心者は「作用反作用の力」と「つりあいの力」の区別がつかないので、混乱します。早い段階で、きちんと理解しておきたいところですね。

 

 (問)は、初心者がいちばん間違えやすい問題です。

 感覚的にいうと、大人と子どもが押しあって大人が勝つのは、大人が子どもを押す力の方が強いから、と思うでしょう。

 しかし、大人が子どもを押す力と子どもが大人を押す力は、大人と子どもが押しあう相互作用の力で、作用反作用の力ですから、大きさはまったく同じです。

 これは力のつりあいとはまったく無関係ですので、いいかえれば、物体の運動の様子とも無関係です。物体が止まっていようと、加速していようと、作用反作用の2つの力は必ず大きさが等しくなります。

 

 この押し合いに大人が勝つ理由は、まったく別のところにあります。

 

 子どもと大人が受ける力は、(問)の図に書いてある力だけではありません。

 

 地面から受ける前向きの摩擦力も働いています。

 

 摩擦力の大きさは、後に学びますが、垂直抗力の大きさに関係しているので、体重の重い大人の方が受ける垂直抗力も大きく、子供より大きな摩擦力を地面から受けます。仮に大人と子どもが及ぼし合う力を10として、子どもが前向きに受ける摩擦力を5、大人が前向きに受ける摩擦力を20としてみましょう。(この数字はいいかげんですが、話の流れをそこなうものではないので、このままにしておきます)

 

 ここで、「摩擦力が前向き」というのが理解しにくい人もいるでしょう。摩擦力はブレーキとして「後方に向かって働くもの」という「常識」にとらわれている人は、以外に多いのですね。

 しかし、人間が地面を歩けるのは、足で地面を後方へ蹴り、その反作用を前方へ受けるからです。このとき、人間と地面が前方・後方に及ぼし合っている力は、摩擦力です。

 人間が前に向かって歩けるのは、地面から前向きに摩擦力を受けているからなのです。

 

 さきほどの例に話を戻しましょう。

 子どもは後ろ向きに10−5=5の合力を受け、後ろ向きに動き出します。大人は前向きに20−10=10の合力を受け、前向きに動き出します。

 

 大人と子どもが押しあうときに大人が勝つのは、腕力の差ではなく、地面から受ける摩擦力の差が原因だったのです。それは体重の差ということもできるでしょう。

 

 これは、綱引きなど、摩擦力が関わる場面で効いてきます。

 綱引きも、いろいろと技術的な問題がありますが、基本、体重の重い方が強い摩擦力を受けるので、勝つことができます。

 

 2.の「(  )が(  )から受ける力」の(  )を埋める作業は、初心者だと半分くらいの人が間違えます。だからこそ、やる意味のある例題といえますね。

 

 2.(3)の、物体が受ける「重力の反作用の力」を見抜けた人は、いいセンスしていますね。

 2.で、2つの(  )を入れ替えた組が「作用反作用」になるということを、そのまま素直に理解している人だけが正解できます。

 

 もう少しいうと、物体も地球のように重力を及ぼす、という感覚的な常識に反する考え方を受け入れることのできる「柔軟な思考」を持っている人だけが、気がつくのですね。

 

 ここで、「物体が地球から受ける重力」の反作用の力は、2つの物体を入れ替えた「地球が物体から受ける重力」ということになります。

 

 ニュートンは、この「作用反作用の法則」をよく理解していたからこそ、リンゴが地球からうける重力の反作用は地球がリンゴからうける重力、地球が太陽から受ける重力の反作用は太陽が地球から受ける重力、という発想にたどりつきました。質量のあるすべての物体が、お互いに引き合うという「万有引力の法則」は、作用反作用の法則がもたらしたものです。

 

 ニュートンは、「重力を及ぼすことができるのは地球や太陽だけでなく、リンゴなどのすべての物体のはずだ」という常識外れな見解を「作用反作用の法則」から導き出したのですね。

 

 3.は単純な応用例。2.で間違えた人も、今度はうまく行ったのではないでしょうか。描きこみを見て、答え合わせをしてみましょう。

 

 では、今回はこのへんで。

 後半に続きます。

 

 

【追記】現在、力のプログラム全体を改訂しています。修正の少ないものは、古いものを上書きする形で改定作業をしています。プリントを新しいものに差し替え、解説文も手を加えています。講座で扱う順が大きく変わるものや、プリントの中身を大きく変えるものもありますので、そういう大きな改訂のある記事については、(改訂版)という但し書きをつけて、当面は新記事としてアップしていきます。しばらくの間は、旧記事と新記事が両立する形になりますが、ご了承ください。それらの改訂作業は、随時更新の別記事「物理ネコ教室力学改訂状況」をつくることで、対応していく予定です。

 

 

 

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