イラストはロバート・フック。顔に<?>があるのは、肖像画が残されていないため。つまり、だれもフックの顔を知らないからです。現在、ネットで検索できるフックの肖像画は、すべて想像画。
フックはニュートンより年上。弾性力に関するフックの法則を発見し、植物の細胞を初めて記録して「cell」と命名しました。なかなかやっかいな性格の人で、ニュートンの万有引力の発見に対し「自分のほうが先に発見していた」と主張するなど、さまざまな因縁があって、二人の仲は険悪。
ニュートンが有名な本『プリンキピア』を出版するにあたっても、フックのご機嫌をとらなければ出版が難しかったため、友人ハリーの勧めでフックへの謝辞を入れています。この謝辞はフックが亡くなった後の版では削除されました。
ニュートンは王立協会で権力を持つようになると、亡くなったフックの研究成果などの痕跡を消すべく、暗躍しました。王立協会に唯一保管されていたフックの肖像画も、ニュートンが処分したといわれています。フックもかなりやっかいな性格でしたが、ニュートンもまた、なかなかにねちっこい、恨みを忘れない性格だったんですね。
さて、物理ネコ教室017力のつりあいの式の続き018弾性力です。旧版ではこの内容は、運動方程式が終わった後に弾性力と摩擦力をまとめて扱うようにしてありました。これは、かつて、過密なスケジュール進行が組まれていた時代の名残りです。今回、じつに十数年ぶりに、本来の講座プログラムにもどすことにしました。
では、さっそく、新版を見ていきましょう。
フックの法則はわりと単純ですが、ばねの力については、重要なポイントがあります。教科書でもそれをはっきりさせていないので、ある誤解を生じます。共通テスト(旧称センター試験)には、その誤解をしていないかどうかの問題が何度も出題されています。それが2.の問題。
この誤解は、フックの法則の説明のための図に、ばねが天井に及ぼす力を描いていないことから起きます。力のつりあいを考えてフックの法則を説明する場合、本来、ばねが天井に及ぼす力は図には描きませんから、これで当然といえば当然なのですが、ばねの力の基本的な性質を見る上ではよくありません。
質量の無視できる理想的なばねは両端を同じ大きさの力で引く(または押す)という性質があります。これを強調しておかないと、さまざまな誤解のもとになるのです。
2.の問題が、その誤解をチェックする問題です。あまりにも誤解する人が多いので、共通テスト(センター試験)では、過去、何度も出題されています。
描き込みプリントで答えを見る前に、ぜひ一度、自分でやってみてください。
後半の3と5が、十数年ぶりに復活した内容です。
連結ばねの合成ばね定数は、昔の物理教科書では定番でしたが、最近めっきり見なくなっていました。
ところが、新課程の物理基礎教科書では、どういうわけか復活しています。それに合わせたわけではありませんが、以前のぼくのプログラムには入れてあったので、今回、復活させました。
合成ばねのばね定数の公式(3の右側に書いてあるもの)は、それほど重要なものではありません。あくまでも、こういう考え方を知っていると、ちょっとお得、くらいの内容です。
将来、電気回路の理論で、レジスターの合成抵抗やコンデンサーの合成容量の公式が登場しますが、それとの比較ができるという点では、意味があるでしょうね。
4は、ばねの登場する力のつりあいの、典型的な問題例。今までの力のつりあいの問題にF=kxを追加するだけですが、やったことがないと混乱する人もいるでしょう。
5はまさに合成ばねの問題ですが、合成ばね定数の公式を使わず、力のつりあいと作用反作用の法則を用いて、基本的な知識だけで解いたほうがよいでしょう。
では、描き込みを見ていきましょう。
1の導入は、いつも簡単な演示実験を行っています。
黒板に設置したバネに100gwのおもりを数を吊るし、重りの数が増えるにつれ、ばねののびがどう変化するかを調べます。ぼくがいつも使うばねの実験結果が、表とグラフにありますので、ご覧ください。
フックは、つるまきばねばかりでなく、ありとあらゆる弾性体(自分の髪の毛も含む)で実験をして、共通の性質として「ばねの変形(のび・ちぢみ)とばねの弾性力の大きさは比例する」というフックの法則F=kxを発見しています。
この式はばねの性質について実験した結果をまとめた式ですから、適用できる範囲があります。たとえば、あまり強い力でばねを引くと、ばねが変形して壊れてしまいます。これを塑性変形といいます。こうなってしまうと、F=kxという式は使えませんね。
Fxグラフの傾きがばね定数kにあたることは、実験によりばね定数を求めるときには必須の知識になります。実際の実験では、測定点はぴったり直線状には並びませんし、それらの測定点の近くを通る直線を引くと、原点を通りません。しかし、この直線の傾きをグラフから求めれば、実験としてはもっとも信頼のおけるばね定数の値が求められます。
F=kxについての誤解
さて、最初に話したばねの力に関する大きな「誤解」について、実例を見ながら解説しておきます。
教科書や参考書では、フックの法則を説明する図には、物体が受ける重力とばねの力しか描いてありません。これは、力のつりあいを考える上では当然の描き方ですが、それが、フックの法則F=kxについて、重要なポイントを見過ごす原因になっているので、気をつけてください。
それは、ばねの力は1つではなく、2つあるということです。
その誤解を防ぐため、ぼくのプリントの1の図では、あえて、ばねがおもりと天井をそれぞれ同じ大きさの力Fで引いている様子が描かれています。
ばねは、いつも両端をFの力で引くので、ばねの力は必ず2つあるのです。
作用反作用を考えると、ばねが両端から受ける力も、Fと同じ大きさの力で、必ず2つある、ということです。
それをポイントにした代表的な例題が2です。
まず、書き込み前のプリントで、2の(a)〜(d)の図を見てください。
書き込み前の図では、(a)のばねにはFが1つだけかかっていて、(b)のばねにはFが2つかかっているように見えます。
そのため、(b)は(a)の2倍の力がかかり、ばねののびが2倍になると、うっかり誤解してしまうのです。
描き込みプリントの(a)と(b)を見てください。
(a)のばねは力Fに右向きに引かれ、xAのびた状態で静止しています。
ばねは両端を同じ力Fで引くので、当然ながら、その作用反作用で、両側から同じ力Fで引かれているはずです。実際、壁から左向きに引かれる力Fがない限り、バネに働く力はつりあわず、静止することができません。
描き込みの図のように、(a)のばねは(b)のばねとまったく同じように、ばねの両側を左右1つずつFの力で引かれてつりあい、静止しているのです。力の受け方を比べれば、(a)(b)は何の違いもないことがわかりますね。
したがって、(b)のばねののびは(a)ののびと同じです。
(c)と(d)もよく出る問題ですが、ばねについての力のつりあいと、作用反作用の法則を組み合わせて考えましょう。
描き込みの図の通り、(c)のばねAは、(a)とまったく同じように力を受け、同じのびになっていることがわかります。
(d)のばねAとばねBは、合わせてFの力を、それぞれ右向きと左向きに受けています。ばねAだけ見れば、Fの半分の力1/2・Fを受けているので、のびは(a)の半分になります。
さて、(c)と(d)は、ばねの連結について、新しい考え方をするきっかけになっています。
それを見ていきましょう。
3は、直列と並列のばねの合成ばね定数をまとめたものです。
とくに、同じ強さのばねを2つ用いた場合は、(c)(d)で見たような、単純な結果になります。
2で見たように、(c)のように直列にばねを連結した場合、ばねの一つ一つには同じ力Fが働き、それぞれのばねが(a)と同じだけ伸びますから、2つのばねを一つのばねと見た場合は、ばね全体ののびは(a)の2倍となります。力F=kxより、のびが2倍なのは、ばね定数kが1/2倍になったからだと見ることもできます。
これが、合成ばね定数ですね。
(c)のように並列の場合は、ばねののびは半分になり、F=kxより、ばね定数kはもとの2倍になります。
2つのばねのばね定数が異なる値の場合は、(1)(2)のオマケとして描きこんであります。
オマケの合成ばね定数の「公式」は、じっさいに問題を解くときには、あまり使いません。
理由は単純で、合成ばね定数の公式は、覚えてもすぐに忘れてしまうからです。
5の例題でも、合成ばね定数の公式は使わず、力のつりあいと作用反作用の法則をうまく使って、基本的なやり方で解いていますね。
4と5は、今までの力のつりあいの式の問題にばねの力kxを使った応用問題です。
自分で解いた後、描き込みの図と式を見て、じっくり確認、理解してください。
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