さまざまな力、次は空気や水から受ける、抵抗力や浮力です。
浮力と言えば、アルキメデスの原理。王冠にまつわる有名な逸話もあります。
空気抵抗を最初に研究した科学者といえば、ガリレオ・ガリレイでしょう。
物体の落体運動を研究したガリレオは、空気抵抗のことを意識して調べています。
このプリントは、前半で空気抵抗、後半で浮力のことを扱っていますが、どちらもなかなか深い内容なので、2回にわけて解説することにします。
今回はその1で、空気抵抗力についてです。
1〜3は空気抵抗を受ける物体の運動について論じています。これを数式で理解するには、微分方程式の知識がいります。
ですから、高校レベルでは、定性的な理解で十分でしょう。
では、描きこみを見ながら、詳しく見ていきましょう。
2.空気抵抗力の式R=kvは、高校物理だけで登場する式です。
身の回りのもので、適当な速度で動いている場合の抵抗力を実験により測定すると、だいたいこの式に当てはまる、という程度の式になります。
しかし、この式が使える範囲は少なくて、条件が異なると、速度への依存具合が変わります。vの2乗に比例するとした方がよいケースも。
実験をまとめた物理現象の式の中では、かなりあやしげなものの代表格ですね。
大学で流体中の抵抗力を学ぶとき、たいてい「高校で習ったR=kvなんて嘘っぱちだ」てな感じで罵倒される式です。(ぼくが大学生になったとき受けた講義で、担当の先生が、まさにこういう感じでいわれました)
とはいえ、大学でも教養課程の物理では、理論上、やはりR=kvを使って物体の運動を解析します。この式以外の場合は、扱いが難しくなりますから。
式の限界を知りつつ、高校レベルでは、この式で考えていく、ということでよいでしょう。
なお、この比例定数kは、空気の粘性や、雨滴の形や大きさ(とくに断面積)によって異なります。大学ではkはこれらの要素を表す複数の値で表すので、式がもっと複雑になります。
3.雨滴の落下の運動方程式を本格的に解くためには、(2)の途中状態の運動方程式を微分形式で表し、大学数学で習う(高校でも、先生によっては、教えてもらえることがあるかもしれません)微分方程式を立てなくてはなりません。
そこで、高校では、落ち始め、途中、最終状態の方程式を立て、途中状態については加速度aが重力加速度gより小さいこと、および、雨滴の速度が上がるほど加速度が小さくなることを確認するだけにとどめます。
描きこみを見ながら、説明します。
(1)落ち始め
雨滴の落ち始めは、当然、速度vが0ですから、空気抵抗力Rも0です。雨滴は重力mgだけを受けて落下するので、自由落下の時の結果と同様に、加速度gで落下し始めます。
(2)途中
運動方程式mg-kv=maより、加速度a=g-kv/mとなり、速度vが大きくなるほど加速度aが小さくなることがわかります。また、明らかに、加速度aはgより小さいですね。でも、加速度が小さくなるといっても、加速することには変わりないので、雨滴の速度はさらに増えていきます。
(3)最終状態
雨滴の速度が増えるにつれ、雨滴が受ける合力は0に近づいていきますから、やがて、合力が0になる時が来るでしょう。つまり、合力mg-kv=0となるのです。
すると、運動方程式mg-kv=maは、0=maとなってしまい、加速度が0、つまり、雨滴はその後は加速せずに、一定の速度で落下することになります。
このときの速度が最終速度vf(fはfinalの意味)です。描きこみの式の通り、最終速度vf=mg/kとなります。
ちなみに、もし、空気抵抗がなかったら、雨滴が地上に達するときの速さはどのくらいになるでしょうか。
いわゆる雨雲は高さが2,000m程度だそうです。ここから雨滴が空気抵抗なしで落下した場合(あくまでも仮定の話ですが)、自由落下の式に当てはめて計算すると、ざっと200m/s、時速にすると720km/hになります。
新幹線の3倍の速さですね。
こんな速度で落下してきた雨滴は、大きな運動量を持ちますので、弾丸のように危険です。
雨の日に布傘で出かけることができるのは、空気抵抗のおかげですね。
さて、空気抵抗を受ける物体の運動については、じつは落下運動を最初に定量的に測定し、理論を立てたガリレオ・ガリレイが、詳しく研究しています。
ガリレオはピサの斜塔から落とした木の球と、鉄や鉛の球が、同時に地面につくのを実験したという「伝説」がまことしやかに語られています。
しかし、ガリレオ自身が描いた本にはそのことはいっさい触れられていませんし、それどころか、空気の抵抗のために高いところから落とした場合、木の球と鉄の球では、地面に落下するときわずかに差が出ることも調べています。
ガリレオは空気が球の運動を邪魔するためにこのようなことが起こると考え、より抵抗の強い水中に物体を落下させる実験を繰り返していることを、自分の本になかり詳しく記録しています。
水中では、強い抵抗力のため、物体はすぐに最終速度に達してしまいます。
この場合、同じ大きさなら、より密度の高い金属の方が、密度の低い石などより、早く底に達します。(木は水に浮きますから、この実験には使えません)
ガリレオは、水中での落下実験を重ねることで、空気中を落下する物体にも同様なことが起こるはずだと推論し、鉄の球の方が木の球より速く地面に落下するという実験結果の裏付けとしました。
ちょっと話が外れたので、プリントに戻ることにしましょう。
(4)まとめ
時刻t=0では、(1)で見たように、雨滴は加速度gで落下します。
グラフには自由落下の式v=gtに相当する傾きgの直線が引いてあります。
したがって、時刻t=0では、雨滴の加速度つまり雨滴の運動グラフの傾きが、自由落下のグラフの傾きに一致します。
時刻tが十分大きくなった頃には、(3)で見たように、雨滴は等速度運動をするので、加速度は0となり、雨滴の運動グラフの傾きも0となります。
ですから、このときの雨滴の運動は、一定の速度vfで動く等速直線運動のグラフv=vfに一致します。
途中の時刻では、(2)で見たように加速度aがgより小さくなるので、雨滴の運動グラフの傾きはgより小さい線になります。
これらをなめらかにつなぐと、空気抵抗を受けて落下する雨滴の運動グラフが描けます。
大学ではさきほど述べたように、(2)の運動方程式を微分形式で表し、微分方程式として解きます。そうすると、ちょうど、このグラフに相当する少々複雑な式がその解になることがわかります。こちらは、大学で物理を学ぶ人は必ず学ぶことになりますから、今のうちに微分積分の練習を重ねて置いてください。
最後の(問)は、木の球と鉄の球の最終速度の違いを調べる問題です。ただし、木の球と鉄の球の場合、質量比は2倍どころか、8倍以上あります。ここでは、計算しやすい2倍の比で問題を解いておきましょう。
計算は描きこみの通りです。
質量の大きい方が最終速度が大きくなることがわかりますね。
なお、雨滴に限らず、空気抵抗を受けるものはいっぱいあります。パラシュートをつけて降下する人の場合などにも同様な計算が使えますね。
なお、ネコが高いところから落ちても怪我しにくいのは、落下するさいに4つの足の指を広げて指の間の皮膚で自前のパラシュートを作り、空気抵抗をより大きくして落下するためです。
といっても、あまりに高すぎると、さすがのネコも怪我をします。
絶対に実験しないでくださいね。
電磁方程式で有名なマクスウェルは、若い頃、ネコが空中で宙返りするのを研究したことがあります。それがあまりに熱心であったため、2階にある自分の部屋の窓からネコを投げているとの噂が立ったことがあります。
それが恋人の耳に入り、「それは誤解だ、ぼくはそんなことはしていない」との手紙をわざわざ送っているほどです。
真夜中に宿舎を走り回るのが日課だった変人ですので、ネコの話も尾ひれがついていたんでしょうね。(本当にやったという疑惑も残りますが・・・)
では、前半の内容はこのへんで。
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