「作用反作用とつりあいの力」後半は、非常に重要な「力の見つけ方」講座です。(全面改訂しました)
「力のつりあいの式」や「運動方程式」を立てる上で、もっとも大切なのは、問題としている物体にどのような力が働いているのかを、ただしく把握して、図に書けることです。
学生の8割が、図にこれらの力を正しく描き入れる作業でミスをして、問題が解けなくなるのです。力の矢印を図に描き入れるだけで簡単だろうと思われがちですが、これこそが「解法の要」なのです。
そこで、ここでは、図に力を描き入れる基本と、とくに注意すべき点を学びます。
最初の項目「4.力の見つけ方・かき方」は、力を扱うときの基本です。
これをマスターしないと、力のつりあいの式も運動方程式も、まともに立てることができません。
プリントにはひと目見てわかるように、簡単にまとめてあります。
少し、詳しいところを、解説記事で補いなっていきましょう。
(1)物体ごとに、物体が受ける力だけを描く。
<力の見つけ方>
(1)非接触力/重力・電気力・磁力
(2)接触力/直接さわっている相手からうける力
張力・垂直抗力・摩擦力・弾性力・浮力・空気抵抗力・・・
(物体のフチを指でたどって一周し、相手をチェック)
<1>「物体ごとに、物体が受ける力だけを描く」
これは、力の矢印を描くとき、一番気をつけなければならないことです。
まず、文章の後半について;
[1]物体が受ける力だけを描く
この言葉には、2つの意味があります。
1)糸やばね、床が受ける力は描かない。
2)物体が受ける力だけを描き、物体が出す力は描かない。
1)糸やばね、床が受ける力は描かない。
まず、これについて説明します。
図にはさまざまな物が描かれています。
それらすべてに働いている力を描きこむと、力だらけになって、後で式を立てて解くときに、どれを使えばいいのか困ります。
そもそも「力のつりあいの式」「運動方程式」は物体について立てる式ですので、物体が受ける力だけを描けばいい。それ以外の力は、じゃまになるだけですから、図には描きません。
2)物体が受ける力だけを描き、物体が出す力は描かない。
つぎに、これですね。
「つりあいの式」は、合力F=0、「運動方程式」は合力F=ma、という式です。
この式に登場する合力Fは、問題にしている物体が「受けている力」の合計のことです。なぜなら、物体の運動は、その物体が受けている力によって決定されるからです。
物体が出している力は、他の物体の運動を調べるときに必要ですが、その物体の運動には関係しないので、図には描きません。(その力が、つぎの物体が受ける力だったら、つぎの物体について考えるときに描きこめばよいのです)
[2]物体ごとに
〈1〉の文章の前半です。
わざわざ「物体ごとに」といっているのは、力の矢印を図に描きこむとき、物体が複数あると、ついあっちに描いたりこっちに描いたりを、気分のまま行ってしまい、重要な力の矢印を描き忘れることが多いのです。
物体を一つずつ着目して、その物体に働く力を描きこみ終わるまでは、別の物体には描きこまない、というルールを守ってください。たとえば、A、B2つの物体がある場合、Aの矢印を全部描き終えてから、Bに移ります。
<力の見つけ方>
(1)非接触力/重力・電気力・磁力
(2)接触力/直接さわっている相手からうける力
張力・垂直抗力・摩擦力・弾性力・浮力・空気抵抗力・・・
(物体のフチを指でたどって一周し、相手をチェック)
では、実際に力を「漏らさず」見つけるには、どうしたらいいでしょう?
力には大きく分けて、(1)非接触力と(2)接触力の2種類があります。
(1)非接触力は、重力や磁力など、相手が自分から離れていても働く力です。
これらの力は、相手が見えていないことも多いため、見落としのないようにしましょう。
最初に、まず重力などの非接触力を描きこみます。
(2)接触力を描くときは(物体のフチを指でたどって一周し、相手をチェック)というアドバイスを守ってください。指でフチを一周すると、物体が接している相手の物体が何か、見落としなく確認できます。
さて、接触力の例として「張力・垂直抗力・摩擦力・弾性力・浮力・空気抵抗力・・・」とありますが、それぞれの力の性質を知っていないと、それらの力がどちら向きなのかを判断することができず、矢印を描き間違えてしまいます。
それらの力の性質を、以下に簡単に列挙しておきます。自分の常識と一致しているかどうか、確認しておいてください。
・張力=糸がピンと張ることにより、つながっている物体を引く力。糸の両端で相手を引いている。
・垂直抗力=床や斜面が、乗っている相手を支える力。接触する相手を面に垂直に押す。
・摩擦力=垂直抗力と同じく、床や斜面が、乗っている相手に与える力。乗っている物がどう動こうとしているかで、力の向きが変わる。物体が動こうとする向きと逆向きに働くのが基本だが、そうでない場合もある。(最後の例題を参照のこと)
・弾性力=伸びたり縮んだりするばねが相手を引いたり押したりする力。弾性力の大きさはばねの伸び縮みが大きいほど大きい。伸びているばねは相手を引き、縮んでいるばねは相手を押す。
・浮力=液体中にある物体を浮かせようと働く力。その物体が水に浮いているか沈んでいるかには関係なく、液体中の物体を鉛直上向きに押す。
・空気抵抗力=空気中を進む物体の進行を、空気との衝突や空気の粘性によって妨げる力。物体の進行方向とは逆に働く。
どうでしょうか。
これらの力の性質を知っていれば、力の矢印の向きを間違えないで図に描きこむことができますね。なお、これらの力についてさらに詳しい性質は、後ほどじっくりと学ぶことになります。
<すべての力に作用反作用があることに注意せよ>
このアドバイスは重要です。
複雑な問題になるほど、このアドバイスが生きてきます。
これについては、あとで典型的な問題をやってみましょう。
力を見つけるとき、複数の物体があるなら、物体同士が相互作用として作用反作用の力を及ぼし合っているということを忘れてはいけません。例えば、AがBから力を受けていたら、必ずそれとは逆向きに同じ大きさの力を、BがAから受けているはずです。
こうして作用反作用に注意すれば、力の見落としがぐっと減ります。
・初心者は、物体ごとに力の矢印の形や色を変えるとよい。
これは、本当に初心者向けのアドバイスです。
が、初心者にとっては、わりと重要。
例えばA、B2つの物体があるとき、どちらも同じ形・色の矢印で描きこむと、あとで図を見ながらA、Bそれぞれについてつりあいの式や運動方程式を立てるとき、初心者はおおむね混乱し、式を間違えます。
図に矢印を描きこむ段階で、例えば「Aなら細い矢印、Bなら太い矢印」のように、ひと目見て違いが確認できるようにすれば、式を立てるときの間違いは激減します。
初心者のうちは、ぜひ、このアドバイスを守ってください。
なれてきたら、「この力はAが受けている力で、こっちのはBが受けている力」というようにすぐ区別がつくので、こうした矢印の形の工夫はいらなくなります。
(2)糸・ばね・滑車の性質を知っておく。
<理想的な糸・ばね・滑車>
(1)軽い糸・軽いばねでは、糸・ばねが、
両端の物体や壁に及ぼす張力・弾性力の大きさは等しい。
(2)軽くてなめらなか滑車では、
滑車の両側にかかる糸の張力の大きさは等しい。
これらの性質は、すべて理想的な糸・ばね・滑車についての性質です。
・理想的な糸は、質量が無視できるほど小さくて、伸びたり切れたりしない糸。
・理想的なばねは、質量が無視できるほど小さくて、いくら伸ばしても弾性が失われないばね。
・理想的な滑車は、質量が無視できるほど小さくて、摩擦なくなめらかに回転する滑車。
現実的な糸・ばね・滑車は質量があるため、ここにある性質は持ちません。
(1)軽い糸・軽いばねでは、糸・ばねが、
両端の物体や壁に及ぼす張力・弾性力の大きさは等しい。
これは、力のつりあいや作用反作用の法則とは異なる理由で、理想的な糸・ばねがもつ張力・弾性力の性質になります。(質量のない糸・ばねについて、運動方程式を立てることで、この性質が証明できますが、ここでは扱いません)
この性質を使えば、糸でつながれた複数の物体が受ける力を描きこむとき、間違えずに描くことができます。
糸の両端で物体を引く張力は同じ大きさなので、同じ記号で表すのです。
一言でいうならこの性質は「同じ糸は同じ張力、同じばねは同じ弾性力」といえます。
(2)軽くてなめらなか滑車では、
滑車の両側にかかる糸の張力の大きさは等しい。
これも、力のつりあいや作用反作用とは無関係の性質です。(質量のない滑車について、回転の運動方程式<高校では習わない>を立てることで証明できます)
この性質も、滑車を介してつながれた複数の物体が受ける力を描きこむとき、便利です。
滑車の両側にかかっている糸の張力は同じ大きさなので、同じ記号で表します。
これも「同じ糸は同じ張力」といえますね。
物体が受けている力の矢印を図に描きこむための知識は、これで全部、説明しました。
では、力試ししてみましょう。
今まで説明したポイントが確認できる、少し難しめの問題がよいですね。
「5.(例)力を見つける」の図に、A、Bがそれぞれ受けている力の矢印を、形もしくは色を変えて、正しく描き込んでみてください。矢印には「〇〇力」と、力の名称を描き込んでください。
では、描きこみプリントで、答え合わせをしていきましょう。
4.については、さきほど詳細な説明文を見てください。とくに重要なところは、マーカーで色付けしてあります。
5.の答はどうでしたか?
この問題は、理系のかなりできる3年生でも、けっこう間違います。
そして、間違う人の全員が、BがAから受ける摩擦力を描き忘れてしまうのです。
(あなたも、そうでしたか?)
摩擦については、物体に対し「ブレーキのように働く力」というイメージが強いので、ほとんどの学生が、AとBの接している面に、後ろ向きに摩擦力の矢印を1つだけ描いて、満足してしまうのです。
すべての力は相互作用です。
垂直抗力だけでなく、摩擦力にも、作用反作用のペアの力(逆向きで大きさが等しい力)が、必ず存在します。
AがBの上を右向きに滑ろうとしているケースですから、AがBから受ける摩擦力は左向きになります。これを描き間違える人はいません。
しかし、その反作用の力、BがAから受ける摩擦力が、右向きにあるのです。
これを忘れずに描けないと、この問題は永久に解けません。
さきほど、摩擦力の性質について、「物体が動こうとする向きと逆向きに働くのが基本だが、そうでない場合もある。」と説明しました。
この問題でBがAから受ける摩擦力が、まさに「そうでない場合」に相当します。
この摩擦力は右向きで、Bが動き出そうとする方向と一致しています。
「摩擦力って、後ろ向きに働くのではないか?」と思った人は、教科書だけで物理を学んでいる人です。教科書には、そういう例が圧倒的に多いから、そういう思い込みが生まれるのですね。
しかし、身の回りの自然現象を物理学を使って理解しようという意識のある人なら、「摩擦力が前向きに働くのはとてもよくあること」と知っています。
だって、みなさんが歩いたり走ったりするとき、地面を摩擦により足で後方に蹴り、その反作用の摩擦力を前向きに受けているのですから。
みなさんは前向きの摩擦力によって、前に向かって進んでいるのですから、「前向きの摩擦力」を毎日使っていることになりますね。
この例題の摩擦力が理解できれば、このあと出てくるどんな問題でも、力をうっかり描き忘れることがなくなるでしょう。
それは、また次回以降のお楽しみ、ということで。
【追記】この記事は「物理ネコ教室016作用反作用とつりあいの力2」を全面的に改訂したものです。当面、力学について、改定作業が一通り終了するまでは、旧版(従来版)と新版(改訂版)を共存させますので、今年のプログラムについては、改訂版の方をご覧ください。
旧版と新版、それぞれの目次を、物理ネコ教室力学改訂版・更新情報に掲載しています。
力学の記事を閲覧するとき、ご利用ください。
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