物理ネコ教室019運動方程式・改訂版 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 ニュートンの運動方程式は高校物理の最初の「壁」です。その原因は力の矢印を図に書き込む段階での間違いで、それについては「力のつりあいの式・改」のところで説明しました。

 力のつりあいの式と運動方程式は、合力の計算の仕方はまったく同じ。

 軸の取り方と、加速方向について力のつりあいの式でなく運動方程式を立てること、この2点が異なるだけです。

 したがって、すでに力のつりあいの式についてじゅうぶん理解している人にとっては、運動方程式は「壁」でも何でもありません。余裕でやれるでしょう。

 上の2つの異なる点だけ注意すればよいのです。

 

 

1は運動方程式を立てる手順をまとめたものです。2番目と3番目の手順が、一部、力のつりあいの手順とは異なります。これについては、描き込みを見ながら説明します。

2は具体例。これも、描き込みを見ながら説明します。図に力の矢印を書き込む手順は、力のつりあいの式の場合とまったく同じですので、試しに何問か、力の矢印を描き込んで、描き込みプリントで答え合わせをしてみてください。矢印に間違いがあるようなら、あなたはまだ力のつりあいの式の手順にあいまいなところが残っていますので、力のつりあいの式のプリントから、やり直してみましょう。

 

 

3と4も具体的な例題です。

4の最初の例題は、矢印の描き込みも、式も、初心者はよく間違います。これは描き込みを見ながら説明します。矢印の間違いは、矢印に記号や数値を書き込むときの間違いが多いので、描き込みプリントを見る前に、自分で一度、図に力の矢印と、記号や数値を書き込んでみましょう。

 

 では、描きこみを見ながら、ポイントを説明していきます。

 

 

力のつりあいの式との手順の違い

 

【手順1】まったく同じです。

【手順2】軸の取り方が異なります。

 力のつりあいの式では、x軸、y軸は自由にとりますが、運動方程式では、加速方向とそれに垂直な方向は、特別な方向なので、x軸、y軸を勝手にとりません。(じつは、自由に取ることができるのですが、その場合、式を立てるのが複雑になりますから、初心者にはお勧めできません。これについては、あとで具体例で説明します)

 ぼくの講義プログラムでは、x軸を加速方向にとります。つまり、加速度aとx軸を同じ向きにとります。y軸は加速に垂直な方向にとります。

【手順3】加速方向(x軸方向)について運動方程式F=maを立てます。加速しているのだから、当然ですね。y軸方向については今までと同様に力のつりあいの式を立てます。

 

 では、具体例で、手順のポイントを解説しましょう。

 

2の各問は、力のつりあいの式の手順との違いを明確にするため、手順1の力の矢印を描き込むところを飛ばしています。すでに、図中に力の矢印が描き込んでありますね。

 

2(1)

【手順1】新しいこととして、図に加速度aとx軸、y軸を描きこみます。運動方程式を立てる準備になります。これは初心者にとっては、重要なポイントになりますから、a、x軸、y軸を忘れずに描き込むようにしましょう。ただし、今回は初めて学ぶ人のために、これらはすでに図に描き込んであります。

【手順2】物体は右方へ動き出すので、加速度aとx軸を右向きに取ります。

【手順3】運動方程式は、合力F=maです。左辺の合力Fは今までと同じで、x軸の向きと同じ向きの矢印は正、逆向きの矢印は負として、合計します。右辺のmaは単純に、質量mに加速度aをかけるだけですが、テストなどでは、なぜかmgaと、勝手にgがまざった式を書いてしまう人が一定数います。気をつけてください。

2(2)

【手順1】すでに図に描きこんであります。

【手順2】今までと違うところです。力のつりあいの式では、いつも上向きを正とする軸を取ってきましたが、運動方程式では加速度の向きにx軸を取ります。この問題では、物体が下へ向かって動き出すので、加速度aは下向き。したがって、x軸も下向きに取ります。

【手順3】x軸が下向きなので、力の矢印も下向きを正として合力を求め、運動方程式を立てます。

 5×9.8-20=5a・・・<1>

 これを計算すると加速度a=5.8(m/s^2)と、正の値になります。今は下向きが正なので、これは下向きを意味します。

 答えは「下向きに5.8(m/s^2)」ですね。

 

x軸を上向き正に取った場合の運動方程式

 

 ところで、2(2)の例で、力のつりあいの式と同様に、x軸を上向きに取った場合は、どんな式になるのでしょうか。この場合は、上向きが正、下向きが負となりますから、

 20-5×9.8=5a

 でよいのでしょうか?

 多くの学生がこう書くのですが、これは間違っています。

 どこが間違っているのか、わかりますか?

 正解は・・・

 右辺が間違っているんですね。

 力はもちろんベクトルなので、左辺の合力は当然ベクトル和となりますが、右辺のmaのaもまた、ベクトルです。

 2(2)の例で、x軸を上向きにとった場合、加速度aはx軸と逆向きになります。したがって、運動方程式をつくるとき、右辺のaを-aとしなくてはいけないのです。

 20-5×9.8=5(-a)・・・<2>

 これなら正しい運動方程式になります。

 よく見ると、<1>式と<2>式は、数学的には同等の式になっていますね?

 <2>を解くとやはりa=5.8となりますが、加速度は-aなので、答えは-5.8(m/s^2)となります。

 この場合も、答は「下向きに5.8(m/s^2)」となります。

 

 このやり方は、初心者の人はほとんどといっていいくらい、加速度aを-aとするのを忘れてしまって間違います。初心者の人は、この方法を取らないでください。

 マスターできるまでは、大人しく、加速方向にx軸を取ってください。

 

2(3)

【手順1】すでに図に描きこんであります。

【手順2】物体が上向きに動き出すので、加速度aとx軸をともに上向きに取ります。

【手順3】もうわかりますね? 上向きを正として、F=maの式を立てると、

 60-5×9.8=5a

 となります。

 以下は、書き込みの通りです。

 

 

3は斜面を滑る物体の運動方程式です。

【手順1】力の矢印は、重力と垂直抗力の2本だけです。ちゃんと書けたでしょうか?

【手順2】物体は斜面に沿って動き出すので、加速度aは図の向きになります。x軸も同じ向きに取り、y軸はそれに垂直に取ります。この場合、重力がxy軸に対して斜めになるので、分解して分力を描きます。分力の大きさも図に書きこみましょう。

【手順3】x方向に働く力は重力の分力1/2•mgだけですので、運動方程式は単純に、

 1/2•mg=ma

 となります。

 加速度a=1/2•gとなりますが、答えは「斜面に沿って下向きに1/2•g」と書いてください。ただ「下向き」と書くと、違う方向を示すことになります。

 y方向は加速しないので、今まで通り力のつりあいの式を立てます。

 

4(例)は、初心者がとてもよく間違う問題です。

【手順1】描き込みの力の矢印の図をよく見てください。

 正しい解答の図は、問題文に書かれていることを非常に素直に図に表しています。

 ところが、どういうわけか、勝手な思い込みで、この図を間違えて描く人がけっこういるんですね。

よくやる間違い

<間違い1>AがBから左向きに受ける力Pの矢印を描き忘れる。

 これは矢印を書く手順1の単純なミスです。接触している相手すべてから力を受けることを忘れてしまったのでしょうね。

<間違い2>BがAから受ける右向きの力を12(N)と書いてしまう。

 これは中世的な思い込みです。手が12(N)の力でAを押していて、その結果Bも右へ押されるのだから、Bが押される力も12(N)のはずだ、という思い込みです。そんなルールはありませんし、そもそもこの値は12(N)にはなりません。もしそうなら、作用反作用の法則にしたがって、AがBから左向きに押される力も12(N)になって手の力とつりあってしまい、Aは右へ動き出すことができなくなります。これはおかしいですね。

【手順2】AもBも右向きに同じ加速度aで動き出すので、x軸は右向きに取ります。

【手順3】ここでも、次のような謎のミスをする人がけっこういます。Bについての運動方程式を、

 12-P+P=3a

 と書いてしまうのです。

 Bがx方向に受ける力は、図の緑色の矢印である右向きのPだけですから、Bが受ける合力はP。したがって、書き込みにあるように、

 P=3a

 が正しい式です。

 また、別の間違いもあります。

 Aの運動方程式を、

 12+N-2×9.8=2a

 と書く人もいるのです。Nと2×9.8はy方向に働く力ですから、x方向の式に書いてはいけません。

 

4(例2)は、仕上げです。すでに、これと同じ図のつりあいの問題は解いたことがあります。

【手順1】前に力のつりあいで合力を描いたことがありますから、これは間違えないでほしいですね。

【手順2】AもBも上に向かって同じ加速度aで動き出すので、x軸は上向きに取ります。

【手順3】描きこみの通りです。同じ式が書けましたか?

 

 この後、次のプリントでは滑車の登場する運動方程式を扱います。

 そこまで終わると、運動方程式の基本的な内容が一区切りとなります。

 もう一息。

 やみくもに問題の答えを覚えるのではなく、一問一問、頭を使って理解しながら進めていきましょう。

 

 

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