ミオくん「やっほー」
あかね「こんちには」
とっぴ「やほ! 今日はどこへ行くの」
ミオ「イギリス」
ろだん「って、ことは・・・」
むんく「微分の人!」
ミオ「出発!」
とっぴ「あれ、なんか涼しいね」
むんく「イギリスは・・・北海道くらいの緯度・・・」
あかね「そうか。そうよね」
とっぴ「あ、あそこを歩いてるの、あの人じゃない? 太い本を抱えてる。男のくせに、長い髪だなあ」
ミオ「あれはカツラだよ。この頃は、カツラがオシャレというか、紳士の身だしなみの1つだったんだ」
とっぴ「あー、行っちゃうよ。ちょっと、待って、ニュートンさ〜ん!」
あかね「とっぴ、始めて会う人なのよ。大声で呼んだら、失礼じゃない!」
ニュートン「うん? なんだね、きみたちは」
とっぴ「ニュートンさんの話を聞きたくて、日本からやってきました〜! じゃあん!」
ニュートン「ひょっとすると、この間出した本のことかね」
とっぴ「えっと・・・本・・・本・・・」
あかね「あーっ、そうです、本です、ええと、何ていったかしら。運動の法則や万有引力の法則のことが書いてある本です」
ミオ「プリンキピア」
とっぴ「そうそう、プリン・・・えっと」
あかね「プリンキピアです!」
ニュートン「これかね。『自然哲学の数学的原理』(『プリンキピア』として知られる)」
とっぴ「すごい、ちょっと、見せて!」
ニュートン「ほら」
とっぴ「うわあ、重い! ・・・わ、全部、英語だ!」
ニュートン「いや、ラテン語なんだが」
ミオ「この頃は、学術的な本はどこの国の人もラテン語で書いた。この本の初版は1687年にロンドンで出版された。1726年に第3版が出て、それが1729年に英訳されたんだ」
とっぴ「それじゃ、せっかく出ても、自分の国の人が読めないじゃん!」
ミオ「教養のある人たちはみんなラテン語ができるから、だいじょうぶだよ。でも、ガリレオさんは自分の本をラテン語で書かず、自国語のイタリア語で書いた。それで、『星界の報告』や『天文対話』はあっというまに広まったんだ」
とっぴ「うわあ、この本、数学の本みたい。図がいっぱい描いてある」
むんく「数式は・・・ない」
ろだん「ほんとだ。図ばっかだな」
むんく「微分の式は?」
ニュートン「流率といいたまえ」
あかね「流率?」
ミオ「ニュートンさんは自分が発明した微分に当たるものを流率と呼んだんだ。記号も今の記号と違う。今みんなが数学で習っている微分の記号は、ドイツのライプニッツさんが考案したものだよ。ニュートンさんとは、微分をどちらが先に見つけたかで、論争になった」
ニュートン「ふん、どいつもこいつも、文句ばかりいいたがる。こんなことなら、この本を流率を使って書けばよかった」
むんく「どうして、数式を使わず、図で説明した・・・ですか?」
ニュートン「流率は私しか知らない数式だから、それで物理の法則を説明するには、そのまえに流率の数学的な説明をしなくてはならん。それに、数式を使う代数は最近生まれたばかりで、伝統と格式のある幾何学に比べたら、低劣だと思われている。数学の王道は幾何学なんだから、それを使うのが高尚というものだ」
とっぴ「何いってるのか、わかんない」
むんく「それなら、ナットク。昔は、幾何学の方が人気があったらしいって、聞いたことがある」
あかね「いまじゃ、逆なのにね」
むんく「代数の方が幾何学より、扱いやすいし、強力。でも、幾何学で物理を説明するのって、どうやるのか、興味がでてきた・・・あ、この三角形の図、面積がみんな同じになるのがすぐ証明できるよ。たぶん、ケプラーの面積速度一定の法則を説明する図だ」
ニュートン「ふむ、数学に明るい者も混じっているようだな。その通りだ。惑星に働く太陽の力がつねに太陽をめざして働く中心力であるとき、惑星の運動はその図のように考えることができ、同じ時間に描く扇形の面積が等しいことを示した図だ」
むんく「短い時間の惑星の動きを扱っているから、これは微分と同じ発想だ」
ニュートン「もちろんだ。幾何学を使うといえども、宇宙の法則は短い時間での物理量の変化を問題にしなければ、解くことができん。流率を知らない連中にわかるように幾何学で説明するのは、少々工夫が必要だった」
あかね「ミオくん、これ、なんて書いてあるの? 文章ばかりだけど、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲて並んでるから、ひょっとして、運動の3つの法則じゃない?」
ミオ「うん、慣性の法則、運動の法則、作用反作用の法則の3つだね。ただし、そういうタイトルはついていない。章のタイトルが運動の法則で、法則Ⅰ、法則Ⅱ、法則Ⅲと記されているね。法則Ⅰは、力が加えられないとき物体は静止、あるいは一直線上の等速運動を行う、法則Ⅱは、運動の変化が加えられた力に比例し、その向きは力の向きに一致する、法則Ⅲは、すべての作用に、等しく、逆向きの、反作用が存在する。簡単にまとめると、こんな感じかな」
ニュートン「最後は作用、反作用という言葉は使っているが、その次の文章を忘れないでくれ」
ミオ「えっと・・・すなわち、2つの物体の相互作用は常に等しく、逆向き・・・ってところ?」
ニュートン「その通り。それは、力とは相互作用である、だから、必ず、等しく逆向きになる、といっておるのだ。法則Ⅲは、力が相互作用であることを明記したものだ」
あかね「法則Ⅱの運動の変化って、物体の加速度のことね。加速度は力に比例する」
ミオ「高校の物理では、そうやって教えるけど、ニュートンさんは物体の運動の量というものを基本に考えたので、そういう表現になっているんだ」
とっぴ「運動の量・・・って?」
あかね「運動量かしら」
ミオ「その通り。面白いことに、高校で習うF=maは、後にアインシュタインさんの特殊相対性理論が登場するとそのままでは使えなくなるけど、ニュートンさんが最初に書いた運動の法則はそのまま使えるんだ。現代風に書くと、F=(短い時間での運動量mvの変化)/(短い時間)=d(mv)/dtとなる。特殊相対性理論では、速くなるに従って質量mが増加するので、この式でないと計算できないよ」
むんく「すごい・・・!」
とっぴ「まぐれ当たりじゃないの?」
あかね「失礼よ!」
ろだん「あの、数学だか幾何学だか知らないけど、ニュートンさんはさ、実験とかしてないの?」
ニュートン「実験? 好きだね。もともと、小さい頃から、いろいろと物を作るのが好きだったし」
ミオ「ニュートンさんは、後に光の研究もじっくりやってる。実験もたくさんやってるよ」
ろだん「なんだか、この本、読みたくなってきたな・・・日本語になってる?」
ミオ「この本も光学の本も、翻訳されているよ。図書館にもあるんじゃない? ほら、光の授業で習う【ニュートンリング】って、まさにその装置の1つだよ」
ろだん「よし、まず、光学の本を読むかな」
とっぴ「あれ? この本、最初の方のページが破れてるぞ」
あかね「ほんと、ひどいイタズラね」
ろだん「本文が始まる前だな・・・」
むんく「前書き?」
ニュートン「そこは・・・その・・・私が破り捨てたんだ」
とっぴ「え? 自分で? なんで?」
ニュートン「うん・・・そりゃ、まあ、いいだろ」
とっぴ「ますます気になるよっ」
ミオ「そこにはね、ある人への謝辞が書いてあったんだ」
あかね「わからない。それなら、大事なページでしょ?」
ニュートン「大事なんかじゃない。むしろ、いらないページだ。だから、破り捨てた」
とっぴ「いらないページなら、最初からなくせばいいじゃん」
ニュートン「それは、その、大人の事情というやつだ」
ミオ「そこにはね、フックさんへの謝辞が書いてあったんだ」
あかね「フックって、フックの法則の、フック?」
ミオ「そう。フックはイギリスの科学界で大御所になっているけど、いろいろと他の科学者になんくせをつけるので有名だった。ニュートンが発見した万有引力の法則を、自分の方が先に発見したといって文句をつけたんだ」
とっぴ「えっ、そうなの?」
ニュートン「違う! だが、フックがへそを曲げると、この本自体が出版できなくなるかもしれないから、フックへのお礼の言葉を入れておけと、ハレーが提案するので、しかたなく書いた。だが、どうにも腹立たしくておさまらん。フックが死んだら、このページはなくすつもりだ(実際にフックの死亡後、このページはなくなった)」
あかね「ハレーって、ハレー彗星のハレーですか?」
ニュートン「そうだ。あの彗星を発見したハレーだ。私の理解者で、この本も費用は彼が出してくれた。そもそも、この本を書けと薦めてくれたのが、ハレーだ」
あかね「えーっ!」
ニュートン「ハレーが彗星を発見したとき、その軌道や動きが計算できないかと相談に来てね。そのとき、昔計算したことがあるのを思いだして、教えてやったら、すごく驚いてくれたんだ」
あかね「昔?」
ニュートン「大学生の時、ペストが流行してね、大学が長い間休校になった。それで、母親の農園で過ごした。1年ちょっと、やることがなくてごろごろするばかりだったから、物理のことをじっくり考えてみたのさ。そのとき、運動の法則や万有引力の法則を発見したんだよ」(*)
あかね「すごい! そんな短い時間で、何もかも?」
ミオ「物理学の基本をたった一人で作り上げてしまったんだ。歴史上、優秀な物理学者はたくさんいるけれど、一人だけ天才を上げろといわれたら、迷わずニュートンさんと答えるな、ボクは」
とっぴ「ぼく、いいこと思いついたよ!」
あかね「何? またろくでもないことじゃないの?」
とっぴ「ぼくらも授業に出るのをやめて、1年間ごろごろしてみるんだ。きっと、何かすごい、大発見ができるんじゃない?」
あかね「・・・」
とっぴ「あれ? いつもなら、何いってんのって、怒鳴るのに。あまりにいいアイディアだったんで、感心しちゃった?」
あかね「・・・あきれて、口がきけなかったの!」
ニュートン「おっと、もう、こんな時間か! 人を待たせてあるので、これで失礼する」
とっぴ「え? まだ詳しい話、何も聞けてないよ」
あかね「とっぴがバカなことばかりいうからでしょ」
ろだん「おれも、もう少し、光の実験のことを聞きたかったな」
むんく「ぼくは、万有引力の法則」
ミオ「ニュートンさん、またこの子たち、つれてきます。よろしくね」
ニュートン「ん〜〜、面倒なのは困るぞ」
ミオ「今度は、フックさんやライプニッツさんの話は聞かないから。オネガイ!」
ニュートン「もう、揉め事はたくさんだからな」
とっぴ「(ミオくんに小声で耳打ちして)ニュートンさんって、人と揉めるのが嫌いなの?」
ミオ「うん・・・(とっぴの耳元で声を落として)でも、この後も、いろんな人と揉めることになるよ。ニュートンが加害者になる事件もあるし」
ニュートン「何をこそこそ話している」
とっぴ「いや、何でも!」
ミオ「ハハハ、じゃ、また来ます!(時計のスイッチを入れる)バイバ〜イ!」
ニュートン2に続く。
※今回のニュートンのイラストは、『いきいき物理マンガで実験』の裏表紙に使ったものです。肖像画で残っている科学者の顔は、当然ながら、実物より二枚目に描かれています。
今回の記事内容は10月刊行予定の『いきいき物理マンガで冒険』の内容にリンクしています。といっても、本の内容とこのブログ記事は相互に補完し合うもので、同じ物ではありません。(本を読んでいただけるとわかります)
(*)万有引力についての詳しい記事は「なぜ逆2乗法則なのか〜『マンガで冒険』第3話「がらんどう星」の裏話1」と「なぜ「万有引力」なのか?〜『マンガで冒険』第3話裏話2」にも書きましたので、興味のお有りの方はそちらもご覧ください。
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