物理学の系譜〜その2ケプラーと惑星の法則 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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ミオくん「さあ、ついたよ」

とっぴ「ここはどこ?」

ミオくん「オーストリアのリンツ。いま、ちょうどここにあの人がいるんだ」

あかね「あの人・・・って、だれ?」

ミオ「ほら、あれ! (やってくる人を指さし)ドイツの天文学者、ヨハネス・ケプラーさん。やほ!」

ケプラー「(早足で歩きながら)なんだね。いま、私は忙しいのだが」

ミオ「ガリレオさんの紹介で」

ケプラー「ほう、彼のことならよく知っている。『星界の報告』はすばらしい、革命的な著作だ」

 

 

あかね「(ミオの耳元で)ええと、二人は、どういう関係になるの?」

ミオ「ガリレオ・ガリレイの方が7歳年上だよ。ガリレオさんは1564年にイタリアで生まれ、ケプラーさんは1571年にドイツで生まれた。ガリレオさんは1610年に『星界の報告』を発表し、それを読んだケプラーさんは感激して、ガリレオさんとちょっとした文通をしている。ケプラーさんはガリレオさんの『天文対話』をドイツで出版しないかと提案している。イタリアより、ドイツの方が弾圧が緩かったからね」

あかね「じゃあ、ガリレオさんが宗教裁判にかけられたとき、ケプラーさんは援護したの?」

ミオ「(声を潜めて)ガリレオさんの『天文対話』の出版は1632年で、宗教裁判は1633年。ケプラーさんが亡くなったのは1630年。旅先のできごとだ」

あかね「(やはり声を潜めて)えっ、じゃ、ケプラーさんはガリレオさんの宗教裁判のことは知らないの?」

ミオ「(小声で)そうだよ。この頃は世界史で習う【宗教改革】の頃で、カトリックとプロテスタントが激しく争っていた時代だ。その迫害で、ケプラーさん自身も、住む町を何度も追いだされ、流浪している」

 

 

ろだん「大変だな」

とっぴ「何度も町を追いだされているのに、よく研究が続けられたなあ」

ケプラー「パトロン(資金援助者)を求めて、町から町へ。これは、ガリレオ氏も同じだ」

ミオ「この時代に科学の研究を続けるのは大変だよ。ガリレオさんもケプラーさんも、お金を持ている領主など、パトロンを求めて転居している。もちろん、自分でも稼ぐけどね。ガリレオさんは大学からの給金や、自分で作った望遠鏡やコンパスを売っていたし、ケプラーさんは占い暦を作った」

あかね「ええっ、占い?」

とっぴ「占いって、占いの、占い?」

あかね「とっぴ! 何わけのわかんないこといってるの」

とっぴ「ちょっと、驚いたから」

 

 

ミオ「星占いで、予言的な暦だよ。古い時代には洋の東西を問わず、予言の暦が求められた」

ケプラー「(笑って)私の占い暦は当たると評判でね。どこへいっても、パトロンから求められるのは暦作りだ。しかし、それがなければ、私は研究を続けられない。占いで得た金で、天文の研究を続けてきた。占いを母とするなら、天文学が娘、かな」

とっぴ「すごい! そんな中で、研究を続けてきたんだね」

ミオ「ケプラーさんがティコ・ブラーエのところへ行ったのも、町を追いだされたからだよ。ティコはデンマークの島に観測所を置き、肉眼で星の位置をずっと観察してきた。そこにケプラーが招かれて、ティコの観測結果をまとめる仕事をしたんだ」

 

 

あかね「ケプラーさんも、当然、地動説よね」

ケプラー「もちろんだ。コペルニクスの地動説こそ、宇宙の調和の取れた運動を最初に見抜いたものだ。ガリレオ氏の望遠鏡による月や木星に関する報告はさらに衝撃的だった」

ろだん「ケプラーさんは、どうして地動説が正しいと思ったのかな。感覚的には、地面が止まっていて空が星と共に動いていると考えた方がわかりやすいだろ」

ケプラー「神はどのようにしてこの宇宙を創生されたと思う?」

 

 

とっぴ「えっ、か・・・神?」

ケプラー「私にとっては、数学こそが神だ。数学が神の言葉であり、神の御業だ」

むんく「・・・!」

ケプラー「私が最初に考えたのは、なぜ惑星が6つしかないのかということだった」

あかね「えっ、6つ?」

ミオ「(小声で)この頃は、惑星は6つしか発見されていなかった。水星、金星、地球、火星、木星、土星だ。もっとも、天動説で惑星といえば、月、水星、金星、太陽、火星、木星、土星の7つだけど(*1)。地動説を信じる科学者たちは、月は地球の衛星で、太陽は恒星と見抜いたのさ」

ケプラー「なぜ、惑星は6つしかないのか。私は数学にこそ、その秘密があると考えた」

とっぴ「数学? 惑星の数と、何の関係があるの?」

ケプラー「数学は真実を示す学問だ。神はこの世を数学で創られたにちがいない。数学的に調和のとれた宇宙として」

 

 

むんく「ぼくも、そう思う。宇宙は数学でできているって」

とっぴ「げげっ、なんだか、不思議な感じになってきた」

ろだん「おれも、こういうの弱いな」

あかね「あのう、ケプラーさん、惑星の数と数学って、どうつながるんですか?」

とっぴ「あかね、ずるい! それ、さっきぼくがした質問じゃん!」

ケプラー「最初は、偶然気がついたのだ。占星術で描く木星と土星の軌道の関係が、正三角形の内接円と外接円の関係に等しいと」

 

 

とっぴ「ええと・・・あれ?」

あかね「三角形の内側に接する円が木星の軌道で、外側の三つの角を通る円が土星の軌道ってことでしょ?」

ケプラー「その通りだ。それがきっかけになり、私は宇宙の構造と幾何学の関係を探るようになった。きみたちも知っているだろうが、ピタゴラスが見つけた正多面体は、全部で5つしかない」

とっぴ「いや、ははは・・・何だっけ?」

むんく「同じ形の面でできた多面体。正三角形4つでできた正4面体、正方形6つでできた正6面体、正三角形8つでできた正8面体、正5角形12個でできた正12面体、正三角形20個でできた正20面体。これ以外の正多面体は存在しない」

ケプラー「私は、目に見えない5つの正多面体に内接、外接する6つの球が、6惑星の軌道となっていると考えた。惑星の数が6つしかないのは、正多面体が5つしかないからだと」

 

 

むんく「でも・・・その正多面体に接する球の半径と、惑星の公転軌道の半径は一致しないよ」

ケプラー「そうだ。何度計算をしても、実際の軌道と考えられる円と、これらの球は一致しなかった」

ろだん「実際の軌道の大きさは、どうやって知るんだ? 地球から見ると、それぞれの惑星は複雑な動きをしているんだろ」

ケプラー「現実の惑星の動きが説明できなければ、どんな数学モデルも無意味だ。ギリシャのプトレマイオスの天動説のモデルは、その点では非常に優れている。火星や木星がいつ、空のどこに現れのか、コペルニクスの地動説より正確にいいあてられたのだ。だから、私はより正確な地動説の軌道モデルを創る必要があると考えた」

 

 

ミオ「それがケプラーさんのすごいところさ。ケプラーさんはガリレオと同じで、測定値を重んじた。この頃の研究者たちと決定的に異なるところだ」

ケプラー「私は、中心の異なる複数の円からなる太陽系の惑星軌道を想定し、計算しつづけたが、うまくいかなかった。身辺が慌ただしくなっていた頃、知人の紹介で、デンマークで星の観測を続けてきたティコ・ブラーエのもとで働くことになった。ティコは、長年、星の観測を精密に続けてきた男だ。彼のデータはもっとも精度の高いものだった。だから、彼のデータを見れば、私の長年の疑問も解決する・・・とね」

とっぴ「で・・・うまくいったの?」

ケプラー「ティコはデータをほとんど見せてくれなかったよ」

あかね「えーっ、なんなの、それ!」

ケプラー「ティコは最も優れた星の観測家だったが・・・私には思い出したように小出しにデータを教えてくれるだけで、そのすべては隠していた。彼とはよく喧嘩したよ。彼のデータこそ、私が求める宇宙の調和を見つけるための鍵だったんだから」

 

 

とっぴ「いろいろあるんだ・・・そういえば、ぼくもよくあかねに宿題を写させてもらおうとして、断られたな〜」

あかね「違うでしょ、話!」

ケプラー「まあまあ。私の場合は、1年後にティコが亡くなったことで、解決した。ティコは臨終のとき、私にこういったんだ。『私の一生を無駄にしないでくれ』・・・私はティコの遺族を説得して、彼のデータを譲り受けた。彼の一生をかけたデータを生かせるのは、私しかいなかったからね」

 

 

あかね「この時代の研究って、すごく大変だったのね」

ろだん「それで、ティコのデータで、どうなったんだ?」

ケプラー「太陽を中心にした円軌道では、どんな比率で描いても惑星の動きを説明することはできない。これはコペルニクスの時から知られていたことだ。私も、各惑星の円の中心を太陽に位置からそれぞれにずれた位置と考え、ティコのデータを説明できる理論を考えた。そしてあるとき、誤差が2分というところまでたどり着いた」

むんく「すごい!」

とっぴ「2分って・・・なんでここで時間が出てくるの?」

むんく「違う。角度のずれ。1分は1度の60分の1。すごい精度だよ」

ケプラー「だが、ティコのデータをさらに比べると、火星の運動で、8分のずれが出るところを見つけた。これは、私にはがまんできないずれだった」

とっぴ「そのくらい、がまんすればいいのに。1度の10分の1くらいのずれでしょ?」

ケプラー「私にとっては、そのずれは大きかった。それでは、調和のとれた宇宙像とはいえない。私はさらに中心のずれたさまざまな半径の円軌道を考え、計算したが・・・8分のずれを解消することはできなかった」

 

 

とっぴ「ぼくなら、とっくにあきらめちゃうけどな〜」

ろだん「とっぴ、うるさい! ・・・もっと、ケプラーさんの話を聞こう」

ケプラー「宇宙の調和とは、美しい幾何によるはずだ。円と正多面体は、宇宙の構造には必須の要素だと、私は信じていた・・・だが、それではどうしても、ティコのデータを説明できない。実際の惑星の運動を説明できない理論は、無意味だ」

ろだん「そうだよ! 先生!」

ケプラー「しかたなく、私は円をあきらめ、別の曲線の式を使って調べてみた。そうしたら、楕円の式が、ティコのデータのずれを解消してくれることがわかったんだ」

 

 

むんく「すごい!・・・すごい!」

ケプラー「わかってみれば単純なことだったんだ。楕円軌道がわかる前に私が見つけていた惑星軌道の『面積速度一定の法則』も、中心が太陽からずれた円で考えるより、太陽を1つの焦点とした楕円軌道で考えた方が、うまく説明できることもわかってきた」

ミオ「ここまで高い精度で数式と観測データを一致させる作業は、あのガリレオさんにも不可能なことだった。ガリレオさんとケプラーさんが同時代に生きていたのは、物理学にとって、一つの奇跡だね。ガリレオさんは、理論的な思考と実験による検証を基本とする物理学という学問そのものを創ったといっていいし、ケプラーさんは実験データと理論を高い精度で一致させることが物理学の理論に不可欠であることを最初に示したんだから」

ケプラー「ティコのデータとの8分のずれは、天文学の道標となった。その後、さらに計算を続け、第3の法則も発見したよ。これは、対数の発見も大きかったな。あれは大いに役に立った」

 

 

とっぴ「対数の発見・・・って?」

ミオ「ケプラーさんが惑星運動の法則をさらに研究しているとき、たまたま同時代の数学者、イギリスのジョン・ネーピアが1614年に対数を発見した。それを見てケプラーは大喜びし、対数を使うことで、惑星の第3法則を発見したんだ」

とっぴ「大喜び?」

ケプラー「そうだ。第1法則、第2法則を見つけてから、最後の法則を見つけるまで17年かかっている。対数がないばかりに、果てしない計算をしても、法則の見通しはたたなかった。対数のことを聞いたとき、私はこれこそ、私の求める答えを示してくれる新しい数学だと思ったんだ」

 

 

むんく「対数は、複雑なかけ算を足し算として表せるから、2乗とか3乗とか、複雑な関係を、より簡単に表すことができる」

ケプラー「そうだ。私はネーピアに感謝の手紙を送ったが、残念ながら、ネーピアはその少し前に亡くなっていたよ。だが、彼の偉大な業績は、宇宙の調和を調べる決定打となった。数学の力は、偉大だ」

むんく「本当に、そう思います!」

 

 

ケプラー「さて、そろそろいいかな。やらなくてはいけないことがあってね」

とっぴ「そういえば、忙しいっていってたね。第3法則も発見したんだし、ヒマなんじゃない?」

あかね「とっぴ!」

ケプラー「今は研究以上に忙しいんだ。私の母親が、私の書いた小説のせいで、魔女狩りにあってしまってね。母親を釈放してもらえるよう、各方面に働きかけているところさ」

あかね「魔女狩り!」

ミオ「ケプラーさんは『夢』という小説を草稿の形で発表した。それは月に人がいたら、月の人から地球を見たらどう見えるかっていうことを書いた話。世界初のSF小説といわれている。その小説の冒頭で、主人公が母親の魔力で月へ飛ぶというシーンがあるんだ。ケプラーさんの母親は薬草を扱う呪い師みたいな仕事をしていた上、独特な性格の人だった。ケプラーさんの『夢』は、彼女を陥れるために利用されただけだよ」

ケプラー「いや、わたしがうかつにあんなことを書かなければ、魔女狩りに合うこともなかっただろう。今、私は母親が魔女でないことを様々な観点から証明できるよう、奔走しているところだ。かならず、助け出す」

一同「がんばってください!」

 

 

ミオ「(ケプラーが立ち去ってから)ケプラーさんの母親は、魔女狩りから助け出されるよ」

あかね「本当なの!」

ミオ「魔女狩りの歴史でも、特別な例みたいだね。ケプラーさんの母親はどんなに拷問されても、自分が魔女だとはいわなかったんだって。ケプラーさんの働きかけもあって、魔女裁判から助け出されている」

とっぴ「すごいなあ」

ろだん「なんか、理論家って、実験データをすごく大切に扱うんだな。ちょっと、印象が変わったよ」

ミオ「へんてこな理論に固執して、実験データを無視する理論家も、けっこういるからね」

ろだん「そういう連中は、ケプラーさんの爪の垢を煎じて飲めばいいんだ」

とっぴ「ろだん、それ、古いよ・・・おじいちゃんみたい」

ろだん「うるさいな。いいんだよ、これで!」

ミオ「ケプラーさんの見つけた第3法則がなければ、のちのニュートンが万有引力の法則を発見することはできなかった。また、ガリレオさんの物体の運動に関する研究や、慣性の研究がなければ、やはりニュートンの運動の法則にはつながらなかった。二人の研究は、ニュートンが物理学の基礎を築く大きな基礎になったんだ」

 

 

とっぴ「って、ことは・・・」

あかね「次はいよいよ、あの人ね!」

むんく「微分の人!」

ろだん「たしか、光の実験もしていたな・・・」

ミオ「そう、じゃ、今度はそこだね」

とっぴ「待ち遠しい〜!」

ミオ「じゃ、今日はここで、おしまい。バイバーイ!」

 

 

(*1)別記事「七曜の起源」をご覧ください。

 

 

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