地動説の系譜 その3 ガリレオ1 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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ミオ「さあ、ガリレオ時代のイタリアに着いたよ」

とっぴ「ガリレオ・・・どこかで聞いたことがあるな」

むんく「ガリレオ島・・・」

とっぴ「そうだ、ガリレオ島の秘宝(*1)・・・山猫団って、ガリレオさんの関係者だっけ?」(【*1】このブログ内で遊べるように作った物理アドベンチャーゲームです。ゲーム・ガリレオ島の秘宝をご覧ください)

 

ミオ「ガリレオが参加していたのがリンチェイ・アカデミーつまり山猫学会。山猫団はそれを受け継ぐ人たちの集まりで、ぼくのところにもよく仕事の依頼が来るんだ」

あかね「ガリレオさんって、たしか宗教裁判にかけられた科学者でしょ」

ミオ「その言葉は記録にはないけどね」

ろだん「宗教裁判って、どんなんだ?」

あかね「キリスト教の聖書に反することをいった人たちが裁判にかけられたのよ、たぶん」

 

ガリレオ「(後ろから)ふん、まあ、そんなところだな」

ミオ「やほ、ガリレオさん」

ガリレオ「また、ぞろぞろと連れてきたな。わしは今、もろもろ、忙しい。・・・まあ今まで、忙しくなかったことは一度もないが・・・」

とっぴ「(ミオくんの耳元でこっそりと)何がそんなに忙しいのかな?」

ミオ「(時計を見ながら)『天文対話』を発表したのが教会の怒りを買った頃だから・・・あっちこっちに手紙を書いたり相談したり・・・本当に、忙しいんだよ」

 

ガリレオ「わしはみなの間違いを正してやっているだけなのに、どいつもこいつも文句ばかり垂れるのだ。『星界の報告』で、わしが筒眼鏡(註:望遠鏡のこと。当時はこう呼ばれた)による観察から、月が鏡のような円盤でなくでこぼこした地面をもつ球だと指摘し、木星の衛星の存在を報告したときも、誰も筒眼鏡を覗こうとしなかった。なんとか説得して望遠鏡を覗かせた連中も、後になってそんなものは見えなかったとウソをつく。そのくせ、わしの発明や発見をいつのまにか自分のものだといいふらす始末だ! おまけにわしの母親や弟たちは、金遣いが荒く、どれだけ仕送りしても焼け石に水で、わしは毎日金策に頭を悩まさねばならんし・・・」

あかね「なんだか、ほんとうに大変そうね。わたしたちが押しかけて、迷惑じゃなかったかしら」

とっぴ「すごいなあ。ぼくだったら、そんなにいろんなことがあったら、投げ出しちゃうよ」

あかね「とっぴは、どんなことでもすぐに飽きて、投げ出しちゃうじゃない」

とっぴ「そんなことないよ! わからないことがあると、わかるまでいろいろ試したくなるし・・・」

ろだん「そうだな。おれもとっぴにつきあって、ずいぶんいろいろ実験させられたし。好奇心旺盛なところは、とっぴが一番かもな」

むんく「ぼくもそう思う」

とっぴ「ほら、聞いた?」

あかね「なんだか、話題をすり替えられた気がするなあ」

ガリレオ「ふむ! 頭の硬い頑固者たちと話すよりきみたちと話した方がおもしろいかもしれんな」

 

 

とっぴ「やった! えっと、じゃ、何から聞こうかな・・・月の話?・・・地球の話?・・・振り子の話も・・・あ、加速度とか、運動の研究もガリレオさんがやったんだっけ?」

あかね「そんなにいっぺんに答えられるわけないでしょ」

ミオ「今回は地動説のことだけにしよう。といっても、ガリレオさんの場合は広くて深いから・・・今日は『星界の報告』ね。ガリレオさんが最初にまとめた本。ケプラーさんはこれを読んで感激して、『星界の報告論』を書いているくらいだ」

ガリレオ「うむ。ケプラーくんはドイツの天文学者だが、彼からは何度か手紙をもらっておるな。『天文対話』も、イタリアで本にするのが難しければ、ドイツで出さないかという誘いも受けた」

 

とっぴ「ケプラーさんって、惑星が楕円軌道しているって見つけた人だよね」

ろだん「ティコって人の観測データと軌道がぴったり合うようにがんばったんだ。あれはすごいな」

 

ガリレオ「楕円か円かは、些末な問題だ。問題は大地が動いているかどうかをどう実証するかだ!」

とっぴ「え?」

ミオ「(こっそり耳打ちして)ケプラーさんはガリレオさんを非常に尊敬していたけど、ガリレオさんはケプラーさんに対して、わりとそっけなかった。苦しいときにはケプラーさんの指示にずいぶん助けられているんだけどね」

あかね「どうしてかしら。数少ない味方なのに」

ミオ「たぶん、興味の方向が違ってたんだろうね。ケプラーは宇宙の調和に満ちた体系を追求し、数学を駆使して観測データに理論を合わせることを主眼に置いた。でも、ガリレオは、地球が動いているかどうかという一点で、まわりをどう説得できるかという理論と実験に主眼を置いて、物理学的なアプローチを行った。二人の見ているものは、似ているようで違っていたんだ」

 

ろだん「うーん・・・深いな」

むんく「ぼくは、ケプラーさんに一票」

あかね「わたしは、ガリレオさん!」

とっぴ「ぼくは、どっちも、かな」

あかね「それ、ずるい!」

とっぴ「だって、どっちもすごいよ」

ガリレオ「ナイショ話が聞こえておるぞい」

科探隊「あっ」

ガリレオ「まあ、いい。ミオくんの推測も、少しは当たっておる。しかし、そっけないとはちと心外だな。まあ、わしの場合、論争相手が多くてつねに闘っておったから、そこまで気が回らなかったとはいえるが」

 

とっぴ「じゃあ、もう、『星界の報告』の話、聞いていい?」

ガリレオ「なんだね」

とっぴ「えっと・・・あかね、聞いて!」

あかね「とっぴ、本を読んでないんでしょ」

とっぴ「じつは・・・へへへ」

あかね「(文庫本の『星界の報告』を取り出してぱらぱらと開き)じゃ、わたしが。あの、本の最初の方に、ガリレオさんは前から、地球を遠くから見たら、地面が明るく見え、海はくらく見えるはずだって思っていた・・・っていうようなことが書いてありましたよね。あれは、どういう意味ですか」

ガリレオ「書いてある通りだ。まわりの者たちは逆に考えておる。海は鏡のようになめらかだから、太陽の光を浴びて明るく光る。地面はざらざらだからそれほど明るくはならない。したがって、月の表面は鏡のようになめらかなはずだと。わしはその間違いを正したのだ」

 

とっぴ「鏡はぴかぴかしているから、明るいんじゃないの?」

ガリレオ「では、この手鏡を、あそこの通りの壁に持っていって見たまえ。ちょうど、日が傾いて、西日が差し込んでおる。壁は影になって暗いが、その少し前は西日が横から当たっておるから、ビンがどうみえるかわかるだろう」

ろだん「(手鏡を持ち)おれ、行ってくるよ」

ガリレオ「待ちなさい。ついでに、その横にある素焼きの鉢植えも持って行きたまえ」

ろだん「ほい。(両手にそれぞれ、手鏡と鉢植えを持ち、壁の前に行く)おーい、どうだ? どう見える?」

とっぴ「あ!」

あかね「ビンは・・・全部暗くて、鉢植えは・・・日の当たってる半分が明るいわ!」

 

むんく「・・・反射の法則・・・」

あかね「あ、そっか!」

とっぴ「え、なになに?」

あかね「鏡は光を入射角と等しい反射角の方向にだけ反射するから、その特別な方向にわたしたちがいない限り、反射した光がわたしたちの目に入らないんだわ」

とっぴ「鉢植えは?」

ろだん「(帰ってきて)見ろよ。表面がざらざらだろ。てことは、光が表面で乱反射する。つまり、いろんな方向へ反射するから、どの位置から見ても、反射した光が目に入る。だから、光の当たってる部分は明るく見えるんだ」

とっぴ「でも、月は球だろ。いろいろな入射角があるから、どこかで反射した光が、ぼくたちの目に入るんじゃないの?」

むんく「球面の場合、その条件を満たす場所は、数学的には一点だけ。だから、明るく見えるのはその一点だけ。球面の半分とか全部が明るくなることはない」

ガリレオ「その通りだ! だから、月の表面で暗く見えるところは、水のようになめらかな面のはずだ。そして、明るく見えるところは、地球の地面のようにざらざらしているはずだ」

 

とっぴ「そういえば、ケプラーさんの『月』にも海があったね」

ガリレオ「わしはそれが海だといった覚えはない。水面のようになめらかなら暗くなるといっただけだ。『星界の報告』を読んでもらえばわかるが、わしは暗い部分に海があるとは、一言も断言しておらんぞ。『より明るい部分を地面、より暗い部分を水面と表現できるだろう』としかいっておらん。ケプラーくん(ケプラーの方が7歳年下)はそれを海だとしたが、わたしはそれを強く主張したことはない。それよりもっと重要なことが山ほどあるからな」

とっぴ「なに、なに?・・・あかね、ちょっと、その本、見せて!(あかねから本を受け取り、乱暴にめくる)え! これ、月のスケッチだ!・・・上手い!」

ガリレオ「これを見れば、月の表面が今まで信じられてきたようになめらかではなく、地球以上に起伏に富んだ山や丘陵があることがわかる。わしの筒眼鏡による観測によって明かになったことだ」

 

とっぴ「ええと・・・それが地動説とどう関係するのかな」

ガリレオ「月が地球と同じだと知ることで、地球もまた、特別な存在ではないとわかる。すべてが地球を中心に回っているという地動説信仰を切り崩すためには、彼らの常識をひとつずつ切り崩す必要があるのだ」

あかね「すごいです! 尊敬しちゃう!」

とっぴ「そうなの? なんだか、面倒くさい気が・・・」

あかね「人を説得するのって、大変なのよ。とっぴみたいな人もいるから、論理的に絶対な話をしても、理解してもらえないこともあるでしょ」

とっぴ「え、ぼく、そっち?」

 

 

あかね「この本に、木星の衛星のことがたくさん書いてあるのも、そのためですか?」

ガリレオ「もちろんだ。天動説を信じる連中は、とにかく地球が宇宙の中心でないと、気が収まらない。かつてはプトレマイオスの天動説をよりどころにしていたが、最近は旗色が悪いと見るや、ティコ・ブラーエの折衷案を支持し始めた」

ろだん「ティコ・ブラーエって、ケプラーに観測データをわたした人だろ」

ガリレオ「そうだ。ティコ(*)は地球の周りを太陽が回り、他の惑星は太陽の回りを回るという、わけのわからん折衷案を提案した。地動説を一部とりいれつつ、天動説論者が安心できるつぎはぎだらけのモデルだ」(【*2】ティコ・ブラーエ:デンマーク、スウェーデンの天文学者。肉眼で星の観測を続け、地動説と天動説の折衷案を考えた)

ミオ「ギリシャ時代にも、ヘラクレイデス(*3)のように、ティコに似たような案を出した人はいる。ティコはたぶん、その考えを踏襲したんだろうね」(【*3】地動説の系譜その2プトレマイオスをご覧ください)

 

とっぴ「ふうん、みんな、いろいろ考えるんだね。おもしろいな」

ガリレオ「真実は一つだ! 天動説はとにかく地球こそが宇宙の運動の中心で、それ以外のものは中心たりえないと主張しておる。が、わしは筒眼鏡の観測により、ついに、木星もまた、地球のように月を従えておることを発見したのだ。つまり、すべての星が地球中心に動いているわけではない、ということだ!」

とっぴ「ええと・・・あれ?」

あかね「もう、にぶいわね、とっぴ! 木星の回りを回る衛星があるってことは、宇宙の回転運動の中心が地球だけじゃないってことよ。それは、地球が宇宙の中心にあるかどうかっていうことすら揺るがす発見じゃない!」

とっぴ「え、そうなるの!」

ろだん「そうだろ、普通。地球のように木星も月を持っているとしたら、地球だけが特別ってわけにはいかなくなるだろさ」

とっぴ「あ、そっか・・・」

ガリレオ「木星が惑星を持っておることは、地球が動いていることの証明にはならんが、地球が宇宙の運動の中心で、不動であるという、天動説論者の信仰を大いに揺るがす事実だ。月面に地球のような山や丘があるという発見以上に、彼らをうろたえさせたはずだ。だが・・・」

とっぴ「だが・・・って?」

ガリレオ「わしの筒眼鏡で見たにも関わらず、彼らはそれを見ていないと言い張ったのだ」

 

あかね「ケプラーさんは違うでしょ?」

ガリレオ「うむ、ケプラーくんはわしの筒眼鏡を手に入れ、月面や木星の惑星を観測し、それを発表しておる。敵の多いわしにとっては珍しい援護射撃で、感謝しておるよ。しかし、わしにとっては、イタリアでわが論敵を打ち破ることが重要なのだ。法王は旧知の理解者だと思っておったのだが、天文対話を発表して以来、雲行きがおかしい。わしは真摯なカソリック信者だ。決して聖書の教えをないがしろにするつもりはない。その誤解をとかねばならん」

ミオ「(声をひそめて)そう思って、ガリレオさんはいろいろ画策したんだけど、それがかえって裏目に出た。教会関係者は、ガリレオが神学上の問題にまで口を出したのが気にくわなかったみたいだよ」

とっぴ「うーん、そういうのは、むつかしくて、わかんないな」

 

ろだん「月の観測にしろ、木星の衛星の発見にしろ、この時代なら、とんでもない発見だと思うけどな。でも、人間関係やら宗教やらがいろいろ絡むとややこしくなるんだろ。おれはそういうの、大嫌いだけど」

ミオ「ガリレオさんも、ろだんと似てるかな。だから、自分の発見が正しいことを他の人にわからせることが最重要だと考えた。でも、さすがにコペルニクスの地動説を支持するという主張は、危ないと考えたんだろう。この『星界の報告』の時点では、それを明確には主張していない。ケプラーとの手紙のやりとりで、ケプラーが地動説を指示することを明言しているので、ガリレオの心も動いたのかもしれない」

ガリレオ「何を勝手なことをいっておる。ケプラーくんが主張しておることなど、わしはとっくの昔から考えておった。回りの状況を見て、控えておっただけだ」

 

とっぴ「(ミオくんの耳元で)なんか、自己主張の強い人だね」

ミオ「若い頃から、誰彼かまわず論争するので有名だったからね。だから、すごく敵が多いんだ。自分の発明や発見を人に盗まれたときなんかは、それを批判するためにまるまる一冊本を出版したくらいだから(『偽金鑑識官』)」

あかね「でも、真実を主張するために、誰とでも論争したのは、すごいと思うわ。わたしには、そこまでできないもの。尊敬しちゃう!」

とっぴ「えーっ、あかねはいつもぼくのいうことに難癖つけるじゃん!」

あかね「それは、とっぴがばかなことをいうから・・・あ・・・」

ガリレオ「(あかねを見て、ふふっと笑い)そっくりだな、わしと」

あかね「ええっと・・・光栄です(苦笑い)」

とっぴ「ほら!」

 

・・・「地動説の系譜その4 ガリレオ2」に続く。

 

 

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物理学の系譜〜その3ニュートン1

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天文対話に関するある会話1

 

 

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