地動説の系譜 その2 プトレマイオス | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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ミオ「さて、ついたよ」

ろだん「ええと、ここは・・・」

ミオ「140年頃、つまり、2世紀のギリシャだ。さっきいたのが、16世紀のポーランド。コペルニクスの時代から、1400年ほど前になるね。さ、プトレマイオスのところへ行って、話を聞こう」

とっぴ「天動説を作った人!」

ミオ「ううん、天動説はもっと前からあった。プトレマイオスは著書『アルマゲスト』で、それまでの天動説をまとめつつ改良して、プトレマイオスの天動説と呼ばれる形にしたんだ。数学のユークリッドと同じで、広範な知識をまとめて記述するのが得意な人だった。あ、あそこにいる。やほ!」

プトレマイオス「何かね」

ミオ「(とっぴたちを指さして)この子たちが、惑星の運動について話したいって」

プトレマイオス「ふむ。惑星の運動というと?」

とっぴ「地球が中心にあって、そのまわりを太陽や惑星が回っているというやつ。ええと、なんだっけ、あの難しい名前のあれ・・・」

あかね「離心円と周転円よ」

プトレマイオス「わたしのこの本を読めばわかると思うが」

とっぴ「あの、天動説って、プトレマイオスさんが発見したアイディアじゃないって、本当?」

プトレマイオス「その通り。そもそも、地球を世界の中心として、太陽や火星などがその周りを回るという考え方は、われらギリシャより古く、メソポタミアから伝えられたものだ。大地が世界の中心で、その回りを海が囲み、さらにその回りに星があるというものだ。ギリシャでは、600年ほど前(紀元前4世紀)のプラトンがすでに、火星などの惑星が恒星に比べ、複雑な運動をしていることを指摘しておる。プラトンの友人エウドクソスが、地球を中心とした回転軸の異なる複数の天球を用いて、その謎を解こうとした。これはあまりに複雑だったが、天動説のモデルとしては、先駆的なものといえよう。アリストテレスのモデルより古いのだから」

あかね「歴史があるんですね」

プトレマイオス「プラトンの弟子のアリストテレスは、もっと単純化したモデルを考えた。地球を中心とする同心円の軌道を、月、水星、金星、太陽、火星、木星、土星の天球が回り、さらにその外側に恒星の天球があるというものだ。しかし、これはプラトンの惑星の運動が複雑だという疑問には答えられていない。アリストテレスは実際の星の運動より、哲学的な概念を優先したからな」

 

 

 

ろだん「そうだな。これじゃ、火星がときどき逆行するのが説明できないぜ」

とっぴ「え、逆行って、何?」

ろだん「毎日夜空を見てればわかるぜ。星座をつくっている恒星は、お互いの位置を変えないだろ。地球の自転のせいで、星座全体が北極星を中心にして一日に一回転するけどな。ところが、火星や土星は、その星座の中を、毎日ちょっとずつ、位置を変えて進むんだ。でも、時期によって、進む方向が逆転することがある。それが逆行だ。星の観察をするんだから、そのくらい知っておけよ」

とっぴ「ろだん、詳しいな」

あかね「あら、わたしだって、そのくらい知っているわよ」

むんく「ぼくも」

とっぴ「はいはい、ぼくだけね」

ミオ「このアリストテレスの天動説が、めぐりめぐって、中世の教会の教義といっしょになったんだ」

プトレマイオス「さらにアリストテレスから学んだヘラクレイデスは、惑星の運動の性質を説明するために、水星と金星だけは、地球でなく、太陽のまわりを回っていると説明した」

 

 

とっぴ「ええと・・・太陽も火星も土星も地球のまわりを回っているけど、水星と金星だけ太陽のまわりを回っているんだね。どうして、こんなへんてこな考え方したんだろう」

あかね「たしかに、へんね。地球と太陽、ふたつの中心があるというんだから」

プトレマイオス「しかし、これはこれで、現実の惑星の運動を説明するのに役立つのだ。水星と金星は、他の惑星と違って、太陽から大きく離れることがない。ヘラクレイデスは、その原因は水星と金星だけ、太陽のまわりを回っているからだと考えたのだ」

ろだん「あ、そうか! この図なら、水星と金星がいつも太陽のそばにあることが説明できる。実際の観測結果にうまくあわせたんだな」

プトレマイオス「その通りだ。だが、やはりこれでは統一的な世界観とはならない。そこで私は、今から400年ほど前(紀元前220年頃)のアポロニオスの研究を参考にした。彼は、惑星の不規則な運動を説明するため、周転円もしくは離心円を用いた。どちらを用いても、数学的には同じ結果になる」

とっぴ「あ、それ、それ! ぼくの聞きたいの、それ! 離心円って、何? それから、周転円も!」

プトレマイオス「周転円は、地球を中心とした同心円の軌道に透明な円盤(周転円)があり、それが惑星を貼りつけて回転させながら、地球のまわりを回転するというものだ」

 

 

とっぴ「え? 透明な円盤って、何?」

ミオ「ほら、この図をみればわかるだろ。周転円が地球のまわりを回転するとき、周転円自体も自転しているから、火星はその二つの回転の合成運動をする。そうすると、火星の運動が逆に進むときが生まれる。これが逆行だよ」

 

 

とっぴ「あ、ホントだ。すごいこと考えたね! ・・・でも・・・」

プトレマイオス「でも?」

とっぴ「この透明な円盤の中心には、何があるの? 釘かなんかで、天球に打ち付けてあるのかな?」

プトレマイオス「私はそういうことには興味がない」

とっぴ「え?」

プトレマイオス「私にとっては、どの惑星がいつどこへ行くのか、それが予測できるモデルをつくることがすべてだ」

とっぴ「そうなんだ・・・なんか、へんなの」

ミオ「プトレマイオスは後の教会の人たちとは違って、宇宙の中心に地球がなくちゃいけないなんていう発想はないんだ。周転円だって、実体があるかどうかなんてどうでもいいんだ。プトレマイオスの天動説モデルは、実用的なものだったんだよ。それは、離心円なんてものを考えたことでもわかる」

 

とっぴ「そうだ。離心円は? どういうの?」

プトレマイオス「離心円の方は絵は省略するが、天球の回転中心が地球にはなく、地球から少し離れたところにあると考える方法だ。これによっても、やはり惑星が一様な運動をしないことを説明できる」

とっぴ「ええと、惑星が回る中心が地球じゃないとすると・・・そこには何があるの? ぼくは、そこには、何かがないと、そこを中心に惑星が回る理由がないと思うんだけど」

プトレマイオス「きみは何度も同じ事を聞くね。私も同じ事を答えよう。そこに何があるのか、それは私にとっては興味はない。数学的に、そのように考えることで、実際の惑星の運動が説明できるのだ。それで十分だろう」

とっぴ「そっか・・・プトレマイオスさんは・・・物理の人じゃないんだ・・・だから、ぼくが気になることが、気にならないんだ・・・」

 

プトレマイオス「偉大な先人たちの考えはばらばらに伝わっているので、体系として伝える必要がある。私はこれらの考えを少し整理し、まとめて、後世に伝えるようにこの本『天文学体系』を書いたのだ」

あかね「それが有名な『アルマゲスト』なのね」

プトレマイオス「知らんな、そんな本は。私の書いたのはほらこれだ。『天文学の偉大な体系』とギリシャ語で題名が書いてあるだろう」

あかね「どういうこと?」

ミオ「プトレマイオスのこの本は、やがてアラビア語に訳されて、いろいろなタイトルがつけられ、最終的に『アルマゲスト』となった。それが中世に逆輸入されて『アルマゲスト』が本のタイトルとして知られるようになったのさ。だから、『アルマゲスト』という題名はプトレマイオスが知るはずはないよ」

 

とっぴ「ね、ね! じゃ、地球が丸いっていうのも、ひょっとしてすごく昔?」

プトレマイオス「うむ。私の知る限りでは、ピタゴラス学派が最初にいいだしたのだと思う。証拠として、月食の時の地球の影が丸いことをあげていたな。しかし、決定的なのは、今から500年ほど前(紀元前3世紀)に、エラトステネスが地球の半径を測定するのに成功したことだ。これにより、地球が丸いことが証明された」

とっぴ「え? そうなの? そんなに昔に?」

ミオ「そのあと、長く忘れられちゃうんだけどね。そうそう、コペルニクスの地動説だけど、やっぱり、もっと昔に同じ事を考えた人がいるよ。アリスタルコスという人だけど」

プトレマイオス「知っておる。プラトンの本にその記述がある。宇宙の中心が地球でなく、太陽で、地球も太陽のまわりを回っておるという、おかしな考えだ」

あかね「すごい・・・人間の想像力って、無限ね・・・」

 

ミオ「じゃ、そろそろいいかな。次は、ガリレオの時代に、ひとっとび!」

 

 

 

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