アリストテレス、自然を語る | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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たまご

 
 
 
とっぴー
とっぴ:やほ。またガリレオさんの話?
ひろじ:いや、今日はアリストテレス。珍しく「自然学」の邦訳が手に入ったんでね。
あかね:珍しくって、どういうこと。
ひろじ:うん。じつはアリストテレスの本は、たいてい「政治学」や「形而上学」(哲学)が収録されているんだけど、「自然学」や「天文」の邦訳はなかなか手に入らないんだ。今回見つけた「自然学」は筑摩書房の「世界古典文学全集」に収録されていた。
とっぴ:ブンガクなの?
ひろじ:いやいや、「自然学」は歴とした自然科学の書なんだけどね、いっしょに収録されているのが「詩学」「弁論術」「範疇論」「命題論」なんかでね。「範疇論」と「命題論」は論理学になるのかなあ。まあ、ガリレオの本だって、イタリアじゃ文学書としても扱われているというから、無理ないかもね。
 
あかね
あかね:ふうん、いろいろやった人なのね。
ひろじ:そうなんだ。現存するのは50巻分くらいで、英語版が出ているそうだよ。5000ページっていうから、すごい量なんだけど、それでも彼の書いた本の3分の1くらいだといわれている。
とっぴ:すごい。
ひろじ:「自然学」は残念ながら全体の半分、前半だけが収録されていた。(*1)
とっぴ:で、どうだったの?
ひろじ:前回、ガリレオの「天文対話」を「もってまわった言い回しで読みづらい」っていったけど、訂正するよ。
あかね:え? どういうこと。
ひろじ:アリストテレスの「自然学」に比べたら、まるっきり読みやすい。「天文対話」は間違いなく自然科学の本だよ。「自然学」はたしかに自然科学を扱った本だけど、記述は論理学。
あかね:論理学なら、論理的でしょ。
ひろじ:ところが、そうじゃないんだな。ガリレオも「天文対話」で「論理学者は論理を扱うのに慣れていない。論理を扱う訓練を受けているのは数学者だ」とまでいっている。論理学者の論理って、ぜんぜん論理的じゃないんだ。それを思い知ったよ。
 
とっぴー
とっぴ:へえ。で、内容は? どんなことが書いてあったの。
ひろじ:自然学が扱うものと数学が扱うものの違いとか、運動の本質は何かとか、現実の世界に無限はあるのかとか、そういった内容だね。
とっぴ:なんだか、漠然としてるなあ。
ひろじ:そうだね。具体的な事象を扱っている部分が少ないから、どうしても抽象論になっちゃってるけど、よく読むとたしかに自然科学の萌芽が見られるよ。
あかね:例えば?
ひろじ:やっぱり「おっ」と思ったのは具体的なことを書いてあるところかな。生物の体の構造が今みたいになっているのは、その目的に合わせてそうなってきたわけじゃなく、そうなったから生き延びてきただけで、そうならなかった生き物は滅びてしまったんだとかね。
 
あかね
あかね:ダーウィンの進化論みたいね。自然淘汰、だったっけ?
ひろじ:雨が降るのは穀物を成育させるためではなくて、上昇した水蒸気が冷却されて水滴となり、雨となって下降するだけで、結果として穀物が成育するだけだとか。
とっぴ:へええ。
ひろじ:でも、これがアリストテレスの結論じゃあない。そういった偶然で自然が動いていると認めるのは不可能だっていってる。なんらかの目的があるんだって。
とっぴ:なんだかよくわからないな。
ひろじ:自然科学と思えば論理学、論理学かと思えば自然科学と、内容が錯綜しているからね。萌芽期の自然科学だから、ガリレオみたいに実験によって真偽を判定するという基本ができていない。やむを得ないだろうね。
 
とっぴー
とっぴ:他には?
ひろじ:動物について、本体が先か種子(卵や胎児のことか?)が先かという議論に触れていた。アリストテレスははっきりと種子が先、といっているね。今でも「ニワトリが先か、卵が先か」という形で残っている。
とっぴ:やっぱり、生物学が得意なんだねえ。
ひろじ:うん、生物の話題になるとがぜん具体的な話題が増えるから、得意だったんだろうね。
あかね:イルカが哺乳類だってことも、見抜いていたんでしょ?
ひろじ:アリストテレスは他人の書いた本を読んだり、自然を観察したりすることで、自然学への入口を切り開いた感じだね。「自然学」を読むと、むしろ同時代の他の人たちの考え方にはっとさせられるところが多いよ。
とっぴ:どんな?
ひろじ:クモやアリの行動は知性によるのかということを問題にしている人がいる、とか。これはデモクリトスのことらしい。デモクリトスの説として、この世の中はすべて原子と空虚により構成されているというのもとりあげている。
 
あかね
あかね:えっ、原子って、そんなに昔から考えられていたの?
ひろじ:そうだよ。アリストテレスは空虚は存在しないという考え方だったから、デモクリトスの説は認めてないけどね。地水空気火の4元素で全てが成り立っているという考え。そういえば、「自然学」の中に天空を作る元素としてエーテルが登場しているね。
とっぴ:ガリレオさんが見つけた落下の法則はどうなの。
ひろじ:「自然学」には詳しい記述はなかったね。ただ、すべての自然物は地面に向かう性質を内包しているということがしきりに書いてあった。重い物の方が早く落ちるというのは、べつのところで記述されているんだろうね。
あかね:でも、運動のことは書いてあったんでしょ。
ひろじ:運動とは何かということが、例によって論理学的に説明されていたよ。でも、その中におもしろい記述があったな。「自然的諸存在は、他を動かすと同時に、みずからも動かされる」って。
あかね:あ、それ、ニュートンの「作用反作用の法則」じゃない?
ひろじ:そうなんだ。もちろん、そこまで厳密な言い方はしてないけど、力が相互作用であることをある程度見抜いている。論じているうちに、それが自然現象でない例につながって、教えている人が教えられることはあるのか、みたいな話がでてくるけどね。
 
とっぴー
とっぴ:なんだか、頭がごちゃごちゃしてきたよ。
あかね:そうねえ。
ひろじ:この時代は、まず「思考ありき」だからね。例えば、アリストテレスは宇宙の事象は4つの原因によって構成されているという。簡単にまとめると、「変化のない物については、それは何であるか」「変化のあるものについては、なぜ変化したのか」「なんのために変化したのか」「生まれる物は何によって構成されるか」。
あかね:4元素といい、なんでも4つなのね。
ひろじ:それがまず「思考ありき」の考え方の特徴だよ。そう言う意味では、アリストテレスはまだまだ自然科学の本質にたどり着いていないといえるね。
あかね:ガリレオさんが、「天文対話」の1日目で延々とアリストテレスの説を紹介していた理由がわかったわ。今の話を聞いたら、ガリレオさんの語ったアリストテレスの説って、すごくわかりやすいもの。
ひろじ:そうなんだよ。アリストテレスの本を直接読むより、ガリレオの目を通して読んだ方がよく理解できる。ガリレオの理解力や説明力が並大抵じゃないことがわかったよ。
あかね:ありがとう、ガリレオさん、って気持ちになっちゃった。
とっぴ:うーん、ぼくにはどっちも難しいけどなあ。
 
 
(*1)中央公論社「世界の名著9ギリシャの科学」には、アリストテレスの「自然学」の第1巻〜第4巻と「形而上学」が掲載されています。「自然学」については、第2巻、第3巻は全訳ですが、第1巻、第4巻は抄訳で、一部の章のみが訳されています。なかなか、すべての巻の全訳は見あたりませんね。(2017.7.15追記)
 
 
 
 

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