地動説の系譜 その4 ガリレオ2 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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ミオくん「さ、またガリレオさんの時代のイタリアに着いたよ」

あかね「前に訪ねたときから、もう何ヶ月か経っちゃったわ」

ミオ「こちらでは、もっと時間が経っているから関係ないよ。さ、あの家に行こう」

 

とっぴ「だれの家?」

ミオ「ガリレオさんの家。今、ガリレオさんは、あの家から外に出ることができないから、ぼくたちの方から訪ねないと、会うことができないんだ」

とっぴ「え? どうして?」

ミオ「宗教裁判があって、ガリレオさんは地動説を支持した罪で、あの家に軟禁されている」

とっぴー

とっぴ「ええと・・・軟禁って、何だっけ?」

あかね「牢屋に入れられるわけじゃないけど、住んでいる家から勝手に外出することが許されない状態よ」

とっぴ「うわあ、大変だなあ・・・さぞかし、落ち込んでいるだろうね」

ミオ「とにかく、こっそり会いに行こう。ぼくたちのことを覚えているといいけど」

 

ガリレオ「なんだ、うるさい連中がまた来たな」

ろだん「(小さい声で)おい、覚えているみたいだぞ」

とっぴ「こんちわあ! お久しぶりで〜す!」

あかね「デリカシーがないわね、とっぴ!」

ガリレオ「以前、わしに地動説のことを聞いた連中じゃな。よく覚えておるよ」

とっぴ「(みんなの方を向いて)聞いた? 覚えているんだって!」

ガリレオ「今日は何のようだね。最近、目の調子が悪くてな。太陽を筒眼鏡で見過ぎたせいかな」

あかね

あかね「あの、今、ガリレオさんって、何をやっているんですか?」

ガリレオ「ま、いろいろと。今は、新しい研究をまとめておるところだ」

とっぴ「また『天文対話』みたいな本?」

ガリレオ「いや、地動説に関わる研究はもうできないから、今度は物体の運動に関する研究だ。『新科学対話』とでもいうか」

あかね「すごい、諦めないのね!」

ガリレオ「ふん、地動説のことでは失敗したが、わしの説が否定されたわけではない。わしが積み重ねてきた論理は、わかるものにはわかるだろう。いまやっている研究も、いずれはその話につながるはずだ」

あかね「わかります!」

ろだん

ろだん「あのさ、ジョルダノ・ブルーノみたいに最後まで地動説が正しいっていわなかったから、ガリレオは根性なしだ、みたいなことをいう奴もいるんだけど。どう思う?」

ガリレオ「いいたい奴にはいわせておけばいい。ジョルダノ・ブルーノは自然哲学者(物理学者のこと)ではないからな。わしにはやるべき研究が残っていた。教会との対決で消耗するより、研究を続けることの方が大事なのだ」

ミオ「ガリレオさんがジョルダノ・ブルーノみたいに火あぶりにされていたら、『新科学対話』も生まれなかった。物理学の発展は著しく遅れただろう」

ガリレオ「現象の研究には絶え間ない実験が必要だ。理論と実験は研究の両輪だ。一朝一夕にはできない。わしはまだまだ研究が続けたかった。地動説の件は残念だが、研究を続け、運動の原理が解き明かされれば、いずれわしの正しさがわかるはずだ」

ろだん「ただでさえ実験って、時間がかかるからなあ。新しいことを調べるなら、どんなに時間があっても足りない」

ガリレオ「まさにその通り!」

みおくん

ミオ「ガリレオさんは宗教裁判には負けたけど、その後、明らかに地動説こそが正しい理論だと考える人々が増えていった。ガリレオさんやケプラーの著作が、大きな影響を与えたんだ」

あかね「じゃあ、ガリレオさんが、物理学の基礎を築いたのね」

ミオ「そうだよ。ガリレオさんは地動説の宗教裁判の逸話がもっとも有名だけど、本当は物体の運動に関する研究こそ、物理学の礎となった。ガリレオさんは『新科学対話』で等速度運動(等速直線運動)と等加速度運動を研究し、放物運動が水平方向の等速度運動と鉛直方向の等加速度運動の合成運動であることを示した。運動を時間の経過に従って調べるという手法を発見したのもガリレオさんだ。今の物理学では当たり前のやり方だけど」

むんく

むんく「時間の関数で速度や変位を表すと、数学的に単純になる」

ガリレオ「そうなんだ。短い時間を測る道具がないので、以前の研究者は、落下時間だけを調べたり、距離と速度の関係を調べたりしたが、それでは複雑で法則が見えにくかった。時間の経過と共に各種の量がどうなるかを調べることにより、ようやく簡単な法則が見えるようになったのだ」

むんく「うん。距離と速度の関係だと、1次の関係にならない」

とっぴ「え? 何、それ」

むんく「もっとも簡単な自由落下でも、落下距離は速度の2乗が比例するから、実験から見抜きにくい。それに、速度というのが、移動した距離を時間で割ることで正確に測れるから、時間抜きで速度を扱うのは、実験に工夫がいるよ」

ろだん「そうだな。例えば、それを同じ高さから水平に飛び出させて、地面に当たるまでの距離を調べるとか・・・でも、それも水平投射の法則がわかっていないと、確実にはいえないし」

ミオ「だから、ガリレオさんが時間を用いて他の量を調べるという手法を用いて、歴史上初めて、物理のさまざまな量の有効な測定方法が確立されたといえるね」

あかね「すごいわあ!」

とっぴー

とっぴ「時計が使えなかったの?」

ミオ「ガリレオさんの時代には時計はまだ発明されていなかった。そもそも、機械式の時計で一番古い振り子時計だって、ガリレオさんが見つけた振り子の等時性をもとに作られたんだから」

とっぴ「振り子の・・・何?」

ミオ「振り子の等時性。振り子が1回揺れるのにかかる時間が、振れ幅が大きくても小さくても同じだという法則だよ。ガリレオさんがきみたちくらいの年齢の時に発見したんだ」

とっぴ「えー!」

ガリレオ「教会で司祭が長い説教をしているとき、天井のシャンデリアが揺れているのをみていてな。それで気がついた」

とっぴ「あ、ぼくも同じ! 始業式で校長先生の話が長い時とか、飽きちゃって天井見たりするもん」

あかね「とっぴは何も発見してないでしょ!」

ろだん

ろだん「待てよ。時計がなかったってことは・・・ガリレオさんはどうやって時間を測ったんだ?」

とっぴ「あ!」

ミオ「それはね・・・」

あかね「ちょっと待って! 考えるから!」

むんく「時計の代わりになるもの・・・」

とっぴ「わかった。日時計!」

あかね「とっぴ〜、そこの小石を手にとってみて」

とっぴ「うん・・・こう?」

あかね「小石を放して」

とっぴ「落ちて・・・地面に当たるよ・・・あ、そうか」

あかね「日時計で、この短い時間が計れるわけないでしょう!」

ろだん

ろだん「時計でないもので、時間を細かく刻むものを使うんだ・・・拍手だと・・・せいぜい時間間隔は1秒とか0.5秒とかだから、使えないな。もっと細かいもの・・・」

あかね「あ! 脈拍じゃない? 1秒間に数十回脈打っているでしょ?」

ガリレオ「そうだ。それが時間経過を表すにはちょうどいい」

むんく「でも、脈拍は本当は一定じゃないよ」

とっぴ「どきどきすれば、早くなるしね・・・そうか! あれだよ! 砂時計!」

ミオ「いいところに気がついたね。でも、この時代はまだなかったし、ガリレオさんが砂時計を使ったという記録もない」

ガリレオ「そもそも、砂の落ち方は一定ではないから、細かい時間を測る装置としては使えない」

あかね「そうね。1分とか3分とか、長い時間を測るのには使えるけど・・・」

ろだん「じゃ、水ならどうだ? 容器に水を入れておいて、底に小さな穴を開ける。それを別の容器で受けて、たまった水の量で時間を計れるぞ」

ガリレオ「水時計じゃね。それも使ったよ」

あかね「ろだん、すごい!」

みおくん

ミオ「脈拍も水時計も実際に使われたけど、さっき、とっぴが小石を落としたのをもう一度思い出してみてよ」

とっぴ「(もう一度小石を落として)早いね」

ろだん「そうだな。脈拍で測ってみたけど、難しいぞ」

むんく「自由落下の式に当てはめると、小石は0.1秒で4.9センチ、0.2秒で19.6センチ、0.3秒で44.1センチ、0.4秒で78.4センチ、0.5秒で122.5センチ落ちる」

あかね「じゃあ、落ちるまで0.5秒くらいだってことね。それを分割して調べるとなると・・・脈拍でもぎりぎりね」

ろだん「それに、落下位置を調べるのも大変だぜ。結構な速さで落下しているから、例えば脈が5回うつごとの位置を測定するといっても、すごく難しいぞ」

ろだん

ガリレオ「実験には時間がかかる。それは測定そのものというより、適した測定方法を見つけるまでが大変なんじゃよ」

ろだん「うーん、どうやったのかな・・・ビデオで撮ってスローモーションにするのもこの時代じゃ無理だし、といって落下を遅くするわけにはいかないし・・・」

ガリレオ「時を経ても、人間の発想力はそれほど進歩しておらんようだな」

ろだん「くそお・・・あ、待てよ。逆の発想もありか。落下運動をゆっくりにする方法があるぞ!(大きな板を斜めに置き、そこで球を転がす)どうだ! これなら、ゆっくり落ちる!」

ガリレオ「ふむ! 独力でよく気がついた。弟子にしたいくらいじゃ」

ミオ「まさに、ガリレオさんが使った手法がそれだよ。ガリレオさんは、斜面上の運動が、自由落下や斜方投射の運動をスローモーにした運動になることに気づき、長い斜面を転がる球の運動で、重力中の落下運動の代用にしたんだ。これなら、落下運動をスローモーションで再生したような運藤になるから、測定がしやすくなる」

とっぴ「ろだん・・・すごいな」

あかね「ほんと」

みおくん

ミオ「ガリレオさんがすごいのは、この研究を軟禁状態でやったことだと思うよ。普通、宗教裁判であんな風に痛めつけられたら、何もやる気がなくなるんじゃないかな」

ガリレオ「それは逆じゃよ。研究を続けたかったから、悔しい判決も受け入れたんじゃ。その後、新しい研究をやらなかったら、なんのために間違った判決を受け入れたのか、わからん」

ミオ「実際、ガリレオさんの宗教裁判で地動説は不利になるどころか、その後は研究者の間では地動説の方が正しいというのが、新しい常識になっていった。この辺の歴史は、あまり語られることはないけど。社会的には負けたことになっているガリレオさんの研究が、実質的には他の学者に深い影響を与え、天動説にとどめを刺したことになるね。それは、ガリレオさんの研究が、実験と理論に基づいたものだからだよ」

とっぴー

ガリレオ「しかし、わしも、地動説については大いに間違えたところもある」

とっぴ「え、ガリレオさんでも、間違えるの?」

ガリレオ「天文対話では、わしは絶対的な自信を持って、海の潮汐こそ、地球の自転と公転の証拠だと主張した。だが、それは後の世では間違いだったと指摘されたそうだな」

ミオ「それについては、皮肉なことに、ガリレオさんを宗教裁判にかけた法王の考えの方が正しかった。法王は、月の重力が海に作用して、潮汐を起こすと考えたからね。ニュートンが見抜いたような完璧な理論にはほど遠いけど、ガリレオさんの理屈よりは真実に近い考えだった」

ガリレオ「あれは、わしの勇み足じゃったな」

ミオ「ガリレオさんは物理学の開拓者だ。まだ物理学が完成する前なんだから、いろいろ混乱しても当然だよ。でも、ガリレオさんの研究がなかったら、後のニュートンの物理学も生まれなかった。これは、誰も否定できない事実だよ」

とっぴ「へえ、そうなんだ。間違えても、大丈夫なんだね」

ミオ「物理学の歴史は間違いの積み重ねの歴史でもある。間違いを恐れる人は、物理学には向いていない人といえるね」

とっぴ「あ、それなら、ぼくは大丈夫。間違い慣れてるから」

あかね「とっぴは特別。注意深くないから、間違えなくていいところまで、間違えるでしょ!」

とっぴ「あかね・・・相変わらず、キビシイね・・・」

 

 

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