これ、物理?〜鏡はなぜ左右だけが逆になるのか その4 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

マンガ・イラスト&科学の世界へようこそ。

 

 「質問リレー」での、鏡の左右対称の議論。終わったかと思うと新しい視点で復活し、決着したかと思うとまた振り出しに戻るという繰り返し。議論するほどに深いものが見えてきます。

 

 イラストはアメリカのリチャード・ファインマン。ファインマン・ダイアグラムで量子の無限大問題を解決し、同じ問題を独自に研究していた朝永振一郎・シュウィンガーと共にノーベル賞を受賞しました。本当はもう一人、ファインマンの方法と他の方法が数学的に同等であることを証明したダイソンも受賞すべきなのですが、ノーベル賞は同じテーマについて3人までというるーるがあるため、ダイソンは受賞していません。

 

 ファインマンは独特の発想で量子力学や素粒子の問題に解決の糸口を見つけましたが、その物理的意味はいまだに明らかにされていません。そのトリッキーな発想は、一言で言えば、「ある粒子が未来へ進むことと、その粒子の反粒子が過去へ進むことが、物理的に同等」というものです。この発想により、それまで無限大が生じて計算不可能だった素粒子の世界の計算ができるようになりました。

 

 では、鏡の問題、さらなる発展を見てみましょう。

 

 例によって、彼らの議論の腰を折らないよう、ボクのコメントは、なるべく後でまとめて書くようにします。

 

***   ***   ***

 

【Mくんの意見】

 Tくんの意見(前回の記事を参照)に反論を企てよう。

 原子が磁気を帯びるっちゅうところで、Tくんはこのような図を描いていた。

 

 

 実際の原子は複数の電子を持ち、それらはすべて同一の軌道上にはありません。

 

 例えばヘリウム原子は

 

 

 となっていて、時期を帯びにくくなる。ましてやネオンなどのように原子番号の大きいものは、いわずと知れている。

 

 それに、水素原子Hはそれだけで存在するにはあまりに不安定で、通常はH2の分子として存在している。それは、ヘリウム原子の構造に近づけて安定になるためで、そうするとやはり、磁気を帯びにくくなる・・・と思う。

 

 鏡の中で左右が入れかわるということも、もう一度よく考える。

 

 私が右手を上げると、鏡の中の私は左手(私たちがそう思っている)をゲル。しかし、鏡の中で左右が逆になるのならば、その左手が右手なのである。つまり、一般的に「右」というものが鏡の中では「左」になるのである。すなわち、私が右手を上げれば、鏡の中も私も右手を上げるわけである。

 

 もともと、鏡というのは、人間が文明をもったから生まれたものであって、その中がどうだ、というのは、人間の関与するところではない。

 

 猿に鏡は、犬に鏡は、必要か。

 

 犬は他の犬を見ると「あいつは俺と同じ犬だ」と感じ、猫を見ると「やつは俺の敵だ」と感ずる。犬は自分の姿を知らないのに、自分は犬だと知っている。これはなぜか。

 

 ・・・という哲学をやってしまった。

 

***   ***   ***

 

【ひろじのつぶやき】

 

 この段階では、量子論は習っていないので、電子の軌道については古い知識に基づいてはいますが、Mくんは、Tくんの主張する「原子の周りを回る電子が原子レベルで磁場を作る」という発想に対する反論を試みています。

 

 「右」「左」という言葉や概念が人間の主観によるものであることにも気づいています。鏡の問題をきちんと議論するのには、そもそも「右」「左」とはどのような定義による概念かを明らかにする必要があるということを指摘したのは、大きいですね。

 

***   ***   ***

 

【Yくんの意見】

 

 前回はTくんに自分の意見について大変な攻撃を受けましたが、別にかまわないのであります。それは自分がこの問題を検討するときは、鏡の中の諸現象を合理的に説明できる理論を正解しようとする哲学に基づいているからであります。

 

 前回の自分の意見は、鏡の中の世界を合理的に説明しうる法則が見つかれば、それを一世界として承認しうること、そして、その法則の一例として、電荷の逆転した世界を適用して説明がつくというものであったことであることを述べておきます。では、本題に。

 

1.よくわからない鏡の世界と現実世界とをどう考えていくか。

 物理現象を考えるとき、特定の現象に対して一つの単位が存在していることに注目すると、これは1対1で対応しているから、単位系で考えた結果から、新しい事実を発見できないとも限りません。前回の自分の意見は、このことを使って表現すると、単位(Cクーロン)に対して、(ーCマイナスクーロン)を、すべての単位系に代入して考察したことに相当します。

 

2.(Cクーロン)に(ーCマイナスクーロン)を使用することの有効性と不合理性、またTくんの説の決定的弱点について

 FくんやMくんの意見により、いっそう奥が深まったこの問題ですが、Fくん式に回路を使い、一般性をより深めるために交流で考えてみたい。

 

 

 図の矢印の方向に電荷が移動しているとき:

 

 

 現実世界ではプラス、鏡中界ではマイナスの電荷が矢印の方向に移動すると考えるならば、

 

 

     鏡中界    :    現実界     

    右手の法則   :   左手の法則

    左ネジの法則  :   右ネジの法則

 

 となって、左右逆転の説明ができる。

 

 ここで、回路中のコンデンサーについて、

 

 Q=CV、V=Ed、C=εS/d

 

 V:(J/C)、E:(N/C) 、d:(m)

 

 ここで(C)のかわりに(-C)を代入すると

 

 V:(J/-C)、E:(N/-C) 、d:(m)

 

 となり、電位差V【の正負】、電場Eの方向は、逆転してしまう。

 

 

 電場Eの向きがおかしくなり、説明がつかない。

 

 コンデンサーやコイルの蓄えるエネルギーについては、単位(J)には(C)が含まれないので、電荷逆転による影響がない。

 

 つまり、電荷を逆転させると、(C)を1次、−1次に持つ物理現象はすべて逆転し、電場E、磁場Hの方向はもちろん逆転してしまう。

 

 けれども、(C)を2次に持つ現象、または(C)を含まない現象は、逆転しない。

 

 その証拠として、【電荷が電場から受ける】力Fは、単位(N)=(kgm/s2)が(C)を含まないので、図に見るように、Fの向きは変化しない。

 

 

 電荷が逆転すると、H、Eの向きは逆転するので、同じ物理法則で行けるというTくんの説には賛成しがたいのであります。

 

3.時間を逆転したらどうか

 

 今度は単位(s)のかわりに(-s)を代入して説明を試みたい。

 

 例えば、電流は(C/s)の単位なので、時間が逆転すれば(C/-s)となり電流は逆向きになる。

 

 ところがエネルギーは(J)=(kgm2/s2)なので、時間の逆転の影響を受けない。

 

 同様に加速度も(m/s2)なので、時間の逆転の影響を受けない。

 

 (s)を1次、または−1次に持つ現象はすべて向きが変化する。具体的に、時間を逆転させて、鏡像を考えてみたい。

 

 

 電場E:(N/C)=(m/s2C)であり、時間逆転の影響を受けない。

 磁場H:(N/Wb)であり、時間逆転の影響を受けない。

 

 しかし、波の進行方向は逆転する。なぜなら、光速c:(m/s)であるから。

 

 上の図はベクトルH、Eを並行に移し、光の進行方向のみを反転させた図である。

 1つ目の図を2つ目の図に対して鏡像にすると、

 

 

 なんと、驚くことに、電荷を逆転させたときと同様の結果が出たのだ。つまり、鏡像を時間逆転の世界とみなすと、右ネジの法則に対して左ネジの法則が対応しているのだ。

 

 どうだね、Tくん!! やはり、法則が変化しているよ!

 

 この調子では、フレミングの左手の法則も、左手に対して右手が対応する可能性がありそうである。

 

 

 図の通り、右の図では右手の法則になっている。

 

 これらのことから、鏡と現実界の左右逆転は、

 

 電荷の反転 クーロン→マイナスクーロン

 時間の逆転 秒→マイナス秒

 

 のいずれかで、説明できる。

 

4.時間とはなんですか

 

 ある現象について時間の逆転を適用してうまく説明がついたとき、時間逆転を考えたこと自体が誤りか、あるいは本当に逆転しているか、どちらかであります。

 

 けれども、電荷の逆転のときと同様に、右手の法則←→左手の法則、右ネジの法則←→左ネジの法則、の共通な対応があったことは、面白いことだと思いました。

 

 この世界に、時間の流れが逆転することがあるでしょうか!

 

 もし、こんなことが起きれば、人間は死んでから生まれ、テストを受けてからテスト勉強をする・・・

 

 つまり、原因と結果はすべて逆転することになります。

 

 ここで疑問になるのは、時間の流れを規定しているのは何か、ということです。

 

 どこかの学者がいうように、光速が一定であると断言できれば、これをもとに時間の流れが規定できるかもしれないと思いますが、よくわかりません。

 

 さきほどの考証では、空間に時間の流れを加えた次元で考えたわけですが、これはひとつ「時間とは何か」という新しい疑問を生んだわけであります。

 

 これを、次の人への質問にしておきます。

 

***   ***   ***

 

【つぶやき】

 

 なぜ、冒頭のイラストをファインマンにしたかは、Yくんの意見を読んでいただければ、おわかりいただけたのではないでしょうか。

 

 Yくんは、質問リレーの進展から刺激を受け、鏡の中の物理法則を、電荷、時間などの要素を逆転することで考えるという難題に挑みました。

 

 まともに考えるのは大変なので、Yくんは単位をもとに考えるという「次元解析」の方法を用いました。これは、非常に利口なやりかたです。

 

 素粒子論のパリティP、チャージC、タイムTに関する対称性の議論に通じるものがあり、ぞくぞくしますね。

 

 なお、Yくんの議論を読んで、単位で考えるなら電荷量の(Cクーロン)ではなく、電流の(Aアンペア)を基本において考えるべきではないか、との反論がでるかと思います。

 

 国際標準単位系は(m)(kg)(s)(A)の4つを基本単位(MKSA単位系と呼ばれます)として組み立てられているじゃないか、と。

 

 しかし、これらの4つを基本単位とする考え方は、理学と工学で共通に理論体系を作る上で決められた、便宜的なものであり、物理現象の本質に基づいたものではありません。

 

 本質的な物理理論では、もともと電流ではなく、電荷を元に理論が組みあげられていました。電荷の単位も(C)ではなく、(esu静電単位)という単位です。これらのより基本的な単位を用いると、さまざまな物理量が本質的にどんな単位を持っているのかがわかります。

 

 物理学で重要な無次元量(単位のない量)も、この本質的な単位系で考えないと見いだせません。たとえば、無次元量として最も有名な微細構造定数α=1/137も、この単位系で計算されたものです。MKSA単位系ではαが無次元量にはなりません。

 

 おまけの話ですが、ぼくがこのことに気づいたのは、恥ずかしながら大学を卒業した後のことです。オリジナルのSFマンガ「恒星記」を描いたとき、微細構造定数を登場させたのですが、MKSA単位系で計算すると、1/137にならないどころか、無次元量にすらならないことに衝撃を受けました。(荒唐無稽なマンガですが、興味のある方は、下記リンク先でご覧ください)

 

 素粒子の世界では昔ながらに(esu)を用いて考えているという、大学時代に聞いた話をもとに計算し直して、無事1/137の無次元量を出すことができ、安心して作品を描き終えることができたという次第。卒業後、もっとも本格的に物理の勉強をしたのがマンガのためだったというのが、ぼくらしいといえばぼくらしいのでしょうね。(それが、今の「ミオくんと科探隊」シリーズのマンガにつながっているのですから、人生、どんな回り道も意味があるのかなあと、思っています)

 

 話のついでですが、「ミオくんと科探隊」のマンガは、実験編「いきいき物理マンガで実験」の発売が6月中旬と決定しました。また、冒険編も現在執筆中で、今のところ10月くらいに発刊できるように進んでいます。

 

 これらの本のことは、また、別の記事で、改めてお知らせしたいと思います。

 

 

 

関連記事

 

鏡の左右の謎1〜さりと12のひみつ

 

チコちゃん、それはちがいます〜鏡の左右

 

さりと12のひみつ「鏡の国」の話その3〜鏡世界の物理学とパリティ対称性

 

これ、物理?〜鏡はなぜ左右だけ逆になるのか その1

これ、物理?〜鏡はなぜ左右だけ逆になるのか その2

これ、物理?〜鏡はなぜ左右だけ逆になるのか その3

 

恒星記(外部リンク)

 

 

〜ミオくんと科探隊 サイトマップ〜

このサイト「ミオくんとなんでも科学探究隊」のサイトマップ一覧です。

 

 

***   お知らせ   ***

 

日本評論社のウェブサイトで連載した『さりと12のひみつ』電子本(Kindle版)

Amazonへのリンクは下のバナーで。

 

 

 

『いきいき物理マンガで冒険〜ミオくんとなんでも科学探究隊・理論編』紙本と電子本

Amazonへのリンクは下のバナーで。紙本は日本評論社のウェブサイトでも購入できます。

 

 

『いきいき物理マンガで実験〜ミオくんとなんでも科学探究隊・実験編』紙本と電子本

Amazonへのリンクは下のバナーで。紙本は日本評論社のウェブサイトでも購入できます。