物理学の系譜〜その1ガリレオの相対性原理 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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ミオくん「やほー、みんな、何してるの?」

とっぴ「ちょうどいいところに来た!」

あかね「今、みんなで物理のことを話していたの」

ミオ「いつも話してるじゃん。きみたちがブンガクやスポーツの話をしているの、見たことないよ」

とっぴ「えへへ、それはそうなんだけど。ただ、いつもは、思いついたまま実験したり、議論したりしてる。今日は、もうちょっと、深いっていうか、広いっていうか・・・」

ミオ「へえ、何?」

 

 

ろだん「物理に限らないけど、科学の世界って、いろんな実験や法則がいっぱいあるだろ? 特に重要なのはどれか、とか、科学の歴史に革命をもたらしたのはどれか、とか」

むんく「もっとも美しい法則の式はどれか、とか」

とっぴ「うーん、それはむんくだけ、かな」

 

 

ミオ「じゃあ、科学の歴史をたどりながら、少しずつ見ていこうか。まずは、ここ!」

とっぴ「(きょろきょろと辺りを見回し)あれ? ここ、前に来たような・・・」

あかね「ここ・・・イタリアの・・・ガリレオさんの家よ。地動説のときに来たわ。宗教裁判のあと、軟禁された家だわ」

とっぴ「また、ガリレオさんかあ」

ガリレオ「まったく、失礼なヤカラじゃな!」

あかね「いえいえいえ、またお会いできて光栄です」

 

ガリレオ「今度はなんの用だね」

ミオ「のちに『ガリレオの相対性原理』と呼ばれるようになる、あなたの運動に関する法則のことを話したいと思って」

ガリレオ「ほう、そんなふうに呼ばれるのかね。ひょっとして、マストから物を落とす実験の話か」

ミオ「そう!」

ガリレオ「うーむ・・・地動説に直接つながる話は、幽閉の身としては、言いづらいんだが・・・まあ、いいだろう」

 

 

あかね「でも、どうしてガリレオさんからなの? ガリレオさんは16〜17世紀の人でしょ? 科学の歴史はギリシャ時代から始まったって、聞いたことがあるわ。アリストテレスとか・・・」

むんく「ピタゴラス・・・」

ガリレオ「うむ。たしかにアリストテレスは偉大だ。だが、その理論は科学ではなく哲学だな」

とっぴ「どういうこと?」

ミオ「アリストテレスさんは観察はしたけど、実験をしなかったんだ」

ろだん「そうか!」

ミオ「ガリレオさんの頃もギリシャ時代と同じ流れで自然科学を自然哲学と呼んでいたけど、ガリレオさんは実験により理論を検証するという方法を始めた。それより前は、実験は軽んじられ、思索がもっとも高尚なものとされていた。でも、自然科学は宇宙の法則を見抜く学問だから、思索だけでは意味がない。実験により宇宙の法則を検証することこそ、科学の手法だ。だから、ガリレオさんから物理学が始まったのさ」

ガリレオ「よくわかっておるな。どんな思索も理論も、実際の現象を説明できなければ妄言にすぎん」

 

 

ミオ「ガリレオさんは地動説だけじゃなく、機械の仕組みを研究することで後のエネルギー概念につながる『仕事の原理』も発見しているし、慣性の存在にも気づいていた。物体の運動を時間の経過に従って記述する、今では普通に行われている基本的な方法も、ガリレオさんが考えたものだ。ガリレオさんの時代には時計がなかったのに、よくやれたものだよね」

あかね「そうか! 機械式の時計で一番古いのは、振り子時計だもんね!」

とっぴ「え? どういうことだっけ?」

あかね「振り子時計は、振り子が揺れる時間が一定だということを利用して作られた時計よ。振り子の揺れが一定というのは、たしか、ガリレオさんが発見したことだったじゃない?」

ガリレオ「わしがきみたちくらいの歳の頃かな。教会の天井で揺れるシャンデリアの揺れにかかる時間が、振れ幅によらず一定であることに気づいたのは」

ミオ「振り子の等時性、と呼ばれる有名なルールだよ」

 

 

ろだん「じゃあ、ガリレオさんはどうやって時間を測ったんだ」

ミオ「どうやったと思う?」

あかね「脈拍じゃない? 人間の脈拍って、だいたい一定なんでしょ?」

ミオ「ピンポーン! 簡単な実験をするにはそれで十分だ。でも、脈拍数は条件次第で変化するから、時計のように絶対的な基準もいる」

とっぴ「砂時計!」

ミオ「ある程度正確だけど、せいぜい1分計くらいでしょ? 落下運動は高いところから落としても、数秒で終わっちゃうよ」

とっぴ「あ・・・そっか〜・・・砂粒よりもっと細かいものがあれば・・・」

ろだん「あるぜ! 水だ! 大きな容器に水を入れて、底に穴をあけると、水がじゃーっと・・・いや、ぽたぽた落ちるくらいがいいかな?・・・それを下の容器で受ければ、時間の経過と容器に溜まった水の量が比例するはずだから、時計のかわりになる!」

ガリレオ「お見事! きみは、わしの弟子にしたいくらいだ!」

ろだん「へへっ・・・」

 

ミオ「今ろだんが言った装置は『水時計』といって、ガリレオも使っている。でも、それでも、落下運動のようにあっという間に終わる運動を調べるのは難しい。科探隊のみんななら、どうする?」

とっぴ「そんなの簡単さ。ビデオに撮っておいて、あとでスローモーション再生すれば・・・」

あかね「もう! ガリレオさんの時代には、そんなものなかったわよ!」

とっぴ「あ、そうか・・・じゃあ、それ以外の方法で、落下運動をゆっくりにして・・・」

あかね「だから、そんなことできれば、苦労しないでしょ!」

ろだん「待て・・・できるかも・・・(落ちていた板を拾い上げ、丸い石を転がす)ほら、斜めの斜面なら、ゆっくり落ちていくだろ。これ、スローモーションのかわりにならないか?」

ガリレオ「むん! まさに、その通り!」

 

ミオ「ガリレオさんは、落下運動を斜面を利用した球の運動で代用する実験をたくさんしている。物理学史上でも珍しい、理論と実験の両方に優れた存在だよ。他の研究者は例えば望遠鏡は職人に頼んで作ってもらっているけど、ガリレオは全部自作しているからね」

ろだん「すげー! おれ、尊敬するぜ!」

ガリレオ「私にとっては、当たり前のことだがな」

 

 

とっぴ「ねえねえ、最初にミオくんがいっていた『相対性原理』って、どうなったの?・・・相対性なんとかって、どこかで聞いたことがあるけど」

あかね「アインシュタインの『相対性理論』でしょ?」

とっぴ「あ、それそれ!」

ミオ「ガリレオさんの『相対性原理』はアインシュタインの『相対性理論』につながる、重要な概念だよ。物理学の根幹といっていい」

とっぴ「ええと、どういうこと?」

ガリレオ「地球が動いているというコペルニクスの説を支持するわしに対して、やつらはこういって反論したものだ。『もし、地面が動いているなら、地面から高く飛び上がれば、降りてくる間に地面が動き、他の場所落下する』とな」

とっぴ「ええと、それは・・・たしかに、そうかも・・・」

あかね「何いってるの! そんなことないでしょ!」

 

ガリレオ「わしは、一様に動いている世界は、止まっている世界と区別することができないことを、実際の実験結果から導いた。そのもっともわかりやすい例が、船のマストから落とした物の落下運動だ」

とっぴ「あー・・・もうちょっと詳しくオネガイ!」

ミオ「ガリレオさんの時代の『常識』では、船のマストからそっと落とした物は、真下に落ちるから、その間に船が前進してしまうと、落とした物は船の上ではなく、船の後方の海に落ちると、信じられていた。ガリレオさんは船員たちに聞き取りをして、そうでなく、落とした物がマストの真下に落ちることを確認したんだ」

 

とっぴ「あーっと・・・で・・・それが???」

ろだん「そうか! いくら実験しても、船が動いているのか、止まっているのか、区別ができないってことだ!」

ミオ「高速で走る列車の中で物を落とせば、列車の運動が等速度のときは、物は必ず真下に落ちる。列車が動いていることを、物を落とす実験では検出できないということだよ。つまり、等速度で動く世界と、止まっている世界は、実験結果で区別することができない、ということ」

あかね「あーっ、そういうことね!」

ミオ「難しいいい方をすれば、等速度で動く世界と止まっている世界を、物理現象で区別することができない、ということさ。それはつまり、この2つの世界が同等であることを意味する。これが『ガリレオの相対性原理』だ」

 

 

とっぴ「うわあ、なんだか、むつかしいな!」

むんく「実験で区別できないという事は、数式でも区別できないってこと」

ミオ「その通り。ガリレオが見つけた『相対性原理』によって、物理学史上、初めて、法則と観測者の関係が明らかにされた。止まっている観測者と等速度で動いている観測者とでは、見える物理法則に区別がないーーこれが、『ガリレオの相対性原理』だよ。そして、これを時間空間を含めて見直したのが、アインシュタインの『特殊相対性理論』で、さらに加速運動をしている観測者から見ても物理法則が変わらない理論を追求したのが『一般相対性理論』なんだ」

あかね「そういう意味があったのね!」

むんく「そうだったんだ・・・」

とっぴ「え? え? 今、ミオくん、何をいってたの?」

 

 

ミオ「ガリレオさんから物理学は始まったと言ってもいいけど、その始まりから、すでにアインシュタインの『相対性理論』につながる、物理現象と観測者の関係が問題にされていたのは、とても象徴的だね」

あかね「本当に、そうね。まだ物理のほとんどの法則が見つかっていない時代に、こんなに本質的なことを見抜いただなんて、ガリレオさん、すごすぎるわ!」

ガリレオ「わしの拓いた路を、後に続く者たちがさらに切り拓いてくれたなら、それにまさる喜びはない」

 

 

ミオ「ガリレオさんの跡を本当の意味で継いだのは、ドイツのケプラーでも、ガリレオさんの弟子のトリチェリでもない」

ガリレオ「ほう、それは誰かね」

ミオ「それは・・・」

とっぴ「ぼく!」

あかね「もう!」

ミオ「百年くらい後に活躍した、イギリスのアイザック・ニュートンだよ」

一同「おーっ!」

 

ガリレオ「ほう、それは、どういう人物かね」

あかね「ええと、運動の法則とか、万有引力の法則とかを発見した・・・一番有名な物理学者かな」

ミオ「ニュートンの研究は、ガリレオの研究なしにはありえなかった。ニュートンの運動の3つの法則の第Ⅰ法則は『慣性の法則』で、ガリレオが見抜いた物体の運動の本質を、さらに深めてまとめたものだ。それまでは、運動を続けるには力がいる、というイメージだったからね。たとえ等速度で動く場合も、そのために力を加える必要があると、誰もが信じていた時代だ。それが、力のせいじゃなく、物体の慣性のためだといいきったのは、革命的な発想だった」

 

 

とっぴ「それなら、第Ⅰ法則は『ガリレオの法則』でもよかったのに」

ミオ「それがね、慣性については、ガリレオさんは少しだけ理解があいまいなところがあった。円慣性といって、円運動する物体は円運動を続ける、というイメージが残っていたんだ。これはもちろん間違いで、円運動するには中心に向かう特別な力がいる。慣性で進む物体の運動は等速直線運動だけだよ。力の正体とその役割がまだ明らかにされていなかった時代だから、わからなくても、しかたがないけど」

 

あかね「そうか、わたしたちが知っている科学の歴史って、断片的だから・・・」

ろだん「そうだな。なぜ『慣性の法則』が第Ⅰ法則なのか、深く考えたことがなかったけど」

ミオ「物理学の力学分野のすべてが始まったといってもいい。それは、ニュートンの研究まで待たなくちゃならない。また次の機会にやろう」

とっぴ「すぐ、行こう! 今度はイギリスだね!」

あかね「とっぴ、気が早いわ!」

ろだん「しかたがない。とっぴは止まらないからな」

むんく「うん・・・」

ガリレオ「やれやれ、騒がしい連中だったな・・・」

 

 

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