なぜ「万有引力」なのか?〜『マンガで冒険』第3話裏話2 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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ミオくん「やほ!」

とっぴ「やっほ〜!」

さり「やほやほです〜!」

ミオくん「おや、今日はさいしょから二人おそろい?」

さり「きょうはしもんと科探隊に遊びに来てるです」

しもん「かのんとれんは今日はつごうが悪くって」

さり「かのんはバスケ部の助っ人で、れんはピアノで〜す」

あかね「小学生も忙しいのね。でも、ちょうどいいときにミオくんが来てくれたわ」

ミオ「今日は仕事ないからね。遊びに来たんだ」

ろだん「ばっちりのタイミングだ。今、こないだの万有引力のことを話してたところなんだ。それで、ちょっと話が行き詰まってたところだよ」

むんく「・・・また、ニュートンさん、呼んでほしい」

ミオ「え〜、また? ニュートンさんも忙しいと思うんだけど・・・」

とっぴ「そこをなんとか!」

 

 

<重力>でなく<万有引力>と名づけたのは?

ミオ「う〜ん・・・じゃあ、呼んでみるね」(時計をカチリと鳴らす)

ニュートン「また、おまえたちか。まあいい。最近、偽札対策ばかりで羽伸ばしがしたかったからな」

さり「偽札? なんですか、それ?」

ニュートン「私は今、政府の仕事で偽札対策をしているのだ。偽札が横行しているのでな」

とっぴ「それじゃ、物理は?」

ニュートン「このところ、すっかりご無沙汰だよ。ところで今回は何の用だ?」

さり「わたし、ふと思ったんですです。どうして<万有引力>なのかな〜って。<重力>でいいのに、わざわざむつかしくいってますよね」

しもん「ええと、英語ではuniversal gravitationですね。gravitationが重力だから、universalをつけたのがどうしてかなって。日本語だと万有引力ですけど」

ニュートン「なんだ、そんなことか」

むんく「でも・・・重要な気がする・・・」

ミオ「ってことだから、少しつきあってあげて、ニュートンさん」

ニュートン「まあ、いいだろう。物理の話は久しぶりだからな」

 

 

地上の法則と天上の法則は違う?

あかね「universalって、世界のっていう意味でしょ? gravitationだけで重力の意味があるのに、どうして<世界>をつけたんですか」

ニュートン「universalは、そういう意味ではない。<すべてに共通する>という意味だ」

とっぴ「はぁ・・・???」

あかね「じゃあ、universal gravitationって、全てに共通する重力っていう意味ね」

ろだん「どういうことだ?」

ニュートン「こういうことだ」

 

 

さり「やっぱり、リンゴが落ちるのを見て重力を発見したんですね」

ニュートン「そうではない。母の農園にリンゴの木があり、それがきっかけにはなったが、私の本に書いたように、リンゴと月を比べたことから、万有引力を発見したのだ」

しもん「どういうことですか」

ミオ「ニュートンさん以前にはね、宇宙に関する理解が今とは違っていたんだ。地上は地上のルール、天上界は天上界のルールがあると信じられていた」

ニュートン「そうだ。地上のものは地上のルールにしたがい、すべてのものは落下する。しかし、天上界の星は天上界のルールにしたがい、落ちてこない。そう考えるのが、普通だった。だが、私にはそうは思えなかった。地上のルール、天上界のルールを別々に考えるのはおかしい。地上で見つけたルールが天上界にも適用されると考えたほうが自然だろう」

さり「あ、なんとなく、わかります」

ニュートン「そうなると、次はリンゴは落ちるのに、なぜ月は落ちないのか、という問題になる。そこには、なにか決定的な違いがあるはずだと、私は考えた」

さり「リンゴと月のちがい、です?」

とっぴ「なんだろ」

しもん「月は地球から遠いので、引力がほとんど働かないからですか? 宇宙は無重力だっていいますし」

とっぴ「それだよ!」

あかね「もう、とっぴ! 前回の話、もう忘れちゃったの?」

とっぴ「前回って・・・逆2乗の話? こないだの話じゃん。もち、覚えてるよ」

むんく「じゃあ、理解してなかった・・・」

とっぴ「むんく、きついよ、それ。どういうこと?」

むんく「逆2乗の法則は、距離の2乗に反比例して万有引力が弱くなる・・・」

とっぴ「だから、月くらい遠くだと、なくなっちゃうよ」

さり「月って、どのくらい遠くなんですか」

しもん「(ノートを探して)地球の半径の60倍くらいですね」

むんく「そう。だから、月にかかる地球の重力は地表にあるときにくらべて60の2乗分の1つまり3600分の1。これは0じゃない・・・」

とっぴ「そんなの、ほとんど0じゃん!」

むんく「0じゃない。3600分の1」

ニュートン「まさに、その通り! きみは、なかなかわかっているな」

むんく「・・・(嬉しそうな顔)・・・」

 

なぜ月は落ちてこないのか?

さり「あのう、わたしにもわかるように、話してくださいです!」

あかね「むんくはこういいたいんじゃない? 月にかかる重力は地表面の3600分の1だけど、無視できない大きさだから、重力が届かないということはないって」

むんく「・・・うん(何度もうなずく)」

ニュートン「まさにそれが、要(かなめ)なのだ。月にもリンゴと同じく、重力が働く。だが、リンゴは落ち、月は落ちてこない。この違いの原因はどこにあるか。私はそれを考えたのだ」

とっぴ「リンゴは小っちゃい・・・いや、赤い!」

さり「色は関係ないと思いますです!」

とっぴ「じゃあ・・・月は地球のまわりを回ってる・・・とか? あー、これはだめかな・・・」

さり「そんなことないです。それ、たしかにちがいますです!」

 

ニュートン「その通り! 私もそう考えた」

さり「わあ! ホントですかあ!?」

 

 

ニュートン「この通り、重力がなければ動いている月は慣性でそのまま円の接線方向に進む。そうすると地球から遠ざかることになる。しかし、重力が働くため、月もリンゴのように地球めがけて落下する」

あかね「慣性で遠ざかる距離と、落下で近づく距離が同じなので、月はいつも地球から同じ距離を保つんですね!」

ろだん「そうか、月にもリンゴと同じように、重力が働いていたってことか」

ニュートン「天上の世界の月にも、地上の世界のリンゴのように、重力が働いて落下する。天上世界の法則と地上世界の法則は、別のものでなく、同じものなのだ」

とっぴ「当たり前だと思うけど・・・」

ミオ「それは今の常識。ニュートンさんより以前の時代は、さっきいったみたいに、地上は人間の世界、天上は神の世界と信じられていたから、月や星には地上の重力は届かないと考えられていたんだ」

ニュートン「だからこそ、私はこの力に<すべてのものに共通に働く重力>つまり<万有引力universal gravitation>と名づけたのだ」

さり「<すべてのものに共通する>って、そういうことだったんですか?」

あかね「地上世界も天上世界もルールは共通っていうことを示してるのね」

ろだん「なんか、すごいな。スケールがでかいっていうか」

 

重力はすべての物が持っている力

ミオ「それだけじゃない。他の人は太陽の重力とか、地球の重力とかしか考えていなかったけど、ニュートンさんは重力は太陽や地球だけのものじゃないって示したんだ」

さり「えっと、どういうことですか」

ニュートン「太陽は地球に重力を及ぼすが、私の発見した作用反作用の法則によれば、地球もまた太陽に重力を及ぼす。これはわかるかな」

さり「作用反作用の法則って、どんなのです?」

あかね「2つの物体が力を及ぼし合う時、それぞれが相手に及ぼす力が逆向きで等しいって法則。例えば、とっぴがさりちゃんを押した時、反作用で、さりちゃんもとっぴを押すことになるけど、その2つの力は反対向きで、同じ大きさになるっていうことよ」

さり「あー、だから、太陽と地球は同じ大きさの重力でお互いを引っぱるってことですか」

ニュートン「そうだ。では、地球はリンゴに重力を及ぼすが、リンゴはどうだろう?」

さり「えーっと、反作用で、リンゴも地球を重力で引っぱる!・・・えっ、リンゴも重力持ってるんですか?」

とっぴ「まさか」

ニュートン「まさかじゃない。論理的に考えれば、そうとしか考えられんだろう? 重力は決して星だけが持つ力ではない。質量を持つ物体すべてが持つ力だ。いいかえれば、質量と質量が呼び合う力が重力だといってもいい」

あかね「すべての物体が持つ重力だから、<万有引力>なのね。そういう意味も含まれているんですね」

 

さり「すべての物って・・・じゃ、消しゴムと鉛筆もそうです?」

ニュートン「もちろん。だから<万有universal>なのだ」

さり「(鉛筆と消しゴムを机の上において)ひっつかないですけど。鉛筆と消しゴムの間にも重力が働くって・・・なんか、信じがたいです・・・」

とっぴ「でもさ、すべての物体なんだから、鉛筆と消しゴムだって、地球とリンゴみたいにひっぱりあうはずだよ。待ってれば、くっつくはずだ」

さり「(じっと机の上の消しゴムと鉛筆を見つめて)やっぱり、いくらまっても動きませんです」

ろだん「机の上に置いたんだから、摩擦があるだろ。鉛筆と消しゴムの間に働く万有引力が、机の摩擦力より弱いから動かないんじゃないか。摩擦が働かないように、糸で吊るしたらどうかな(といって、鉛筆と消しゴムに糸をつけ、ぶら下げる)」

さり「・・・くっつかないですね」

あかね「地球から受ける万有引力に比べて弱すぎるから、鉛筆と消しゴムの間に働く万有引力で引き合っているのが、測定できないんじゃない?」

ろだん「いや、どんなに弱くても、実験方法を工夫すれば、測れるはずだ。距離を縮めるとか、2つの物をもっと重くするとか・・・糸に直接ぶら下げるより、もっと弱い力を測れるようにする方法があるはずだぜ」

ニュートン「ほう、きみは実験に慣れているようだな」

ろだん「へへ」

ニュートン「だが、その実験はむつかしいぞ。地球から受ける万有引力がだれから見ても測定できるのは、地球の質量が桁外れに大きいからだ。物体同士に働く万有引力を測定する実験は、かんたんにはできないだろう」

とっぴ「ニュートンさん、実験あまり得意そうじゃないもんね」

あかね「ちょっと、とっぴ、失礼よ」

ニュートン「私は光学の実験なら得意だぞ。私の作った反射望遠鏡は高性能で、他の追随を許さなかった」

ろだん「すみません、とっぴは考えなしにしゃべるやつなんで」

ミオ「万有引力の実験は、少し後のイギリスの研究者キャベンディッシュさんが測定に成功している。ねじればかりと呼ばれる方法だけど、それはまた別のときにしよう」

ろだん「そのときは、絶対、オレがいるときにしてくれな!」

 

とっぴ「宇宙に持っていけば、鉛筆と消しゴムだってくっつくなら、大量に消しゴムを持っていったら、消しゴムの星ができたりして」

ニュートン「消しゴム同士に働く万有引力は弱いから、消しゴムが少し動くだけで、お互いの引力圏を脱出して遠ざかってしまうだろう。太陽の周りを回る惑星は、その速度が引力圏の脱出速度より遅いから、太陽に捕まって離れていかないのだ」

とっぴ「でも、くっつくのもあるよね?」

ニュートン「うむ。消しゴムがたくさんあれば、脱出速度より遅いものもあるから、それがくっつく。そうすると、質量が大きくなるから引力も強くなる。大きくなるにつれ、他の消しゴムはさらにくっつきやすくなり、さらに質量が大きくなるだろう」

さり「消しゴムの星、できるんですか。おもしろそう!」

ミオ「そうやって、星はできたといわれてる。太陽だって、宇宙空間にある水素が万有引力で集まってできた」

とっぴ「あれ? 地球もそう? 地球は水素でできてないよ」

ミオ「地球や火星みたいな岩の惑星は、超新星爆発した太陽の作った重い原子が万有引力で集まってできたといわれている」

あかね「壮大な話ね」

 

 

なぜ20年もたってから発表したのか?

むんく「ニュートン先生に、ぼくも質問ある」

とっぴ「えー、めずらしい。むんくから、質問?」

むんく「ニュートン先生が万有引力を発見したの、大学生の頃と聞きました」

ニュートン「そうだ。いろいろあって援助を受け、大学に通ったのだが、ペストが大流行してね。大学が閉鎖になり、母親の農園にいったのだ。そこで2年ほど過ごしたが、やることがないので数学や物理の理論研究をした。そのとき、二項定理や万有引力の法則を見つけたんだ」

むんく「それなのに、万有引力の法則を発表したのは、それより20年くらい後です。どうして、そんなにあとになるまで発表しなかったんですか」

とっぴ「ええーっ、そうなの?」

さり「ホントですか?」

ニュートン「本当だ。ある日、ハレーが私を訪ねてきて・・・」

しもん「ハレーって、ハレー彗星の、あのハレーですか?」

ニュートン「そうだ。そのとき、ハレーは太陽の重力によって惑星や彗星がどういう軌道で動くのかわからないと悩んでいたから、楕円軌道になると教えてやったのだ。ハレーはひどく驚いて、どうしてそうなるとわかるのだといったから、若い頃に計算したことがある、と答えたのだよ。そうしたら、ハレーが大騒ぎして、その研究を公表しろというから、若い頃の計算をやり直したんだ」

さり「ニュートンさんって、はずかしがりやさんです?」

ニュートン「うん、まあ、そういうところは、あるかもな」

むんく「それより、計算の話、続きが聞きたい」

ニュートン「ああ、途中だったな。若い頃はまだ微積分を発明していなかったから、大きさを持った星の重力がその星の中心からの距離で決まることを証明できなかった。だから、万有引力が逆2乗法則だとは考えていたが、数学的に説明できないので、発表をためらったのだ。だが、ハレーが質問に来た頃には、微積分を使えるようになっていたから、その証明もできた。ハレーが発表すべきだと強く勧めるから、若い頃考えた内容を計算し直して、運動の3法則と万有引力、それに他のことも含めて、本にまとめたのだ」

むんく「プリンキピア・・・」

ミオ「それが、これね。『プリンキピア自然哲学の数学的原理』・・・たしか、本を出版する費用も、ハレーさんが出してくれたはずだよ。ハレーさんは、ニュートンさんの研究の重要さに気づいたんだ。ハレーさんが信じた通り、この本は物理学の世界を革新し、世界中の科学者に影響を与えた」

 

ろだん「なんだこれ? 図形と文章ばっか・・・」

あかね「ほんと。なんか、思ってたのと違うわ」

むんく「微積分使ってると思ってた」

ニュートン「微積分は使って計算したが、そのままの形で書いても、だれも理解できないだろう? 微積分は私が作った数学だから、他の人間にはわからない。それに、私の時代では、幾何学が数学の王道とされていて、幾何学を使うと高尚な本に見えるのだ。そのため、代数でなく幾何学で説明するため、かずかずの工夫をしたよ」

むんく「(図と説明式を見比べ)・・・感激。ここのこれ、図形なのに、微分の考え方使ってる・・・」

ニュートン「ほほう、きみは数学が強いな。それがわかるとは」

むんく「先生の足元にも及びません」

 

とっぴ「むんくがあんなふうにいうなんて、ニュートンさんって、数学の天才?」

ミオ「もちろん。ガリレオの切り拓いた物理学の世界を、高度な数学でさらなる高みへ導いた。物理学をいきなり今の形にした人だよ」

ニュートン「ミオくん、もっといってくれてかまわんよ。ムフフ」

ミオ「(小声で)でも、ニュートンさんって、いい意味でも悪い意味でも子供みたいなところがあって、けっこう他の研究者に子供じみた嫌がらせをしているんだ」

さり「えっ、そうなんですか」

とっぴ「え、どんな?」

ミオ「(小声で)恥ずかしがり屋だから表立って論争するのが苦手だから、他人が書いたふりして、相手を攻撃したり、自分の論文をほめたり、データを見せてくれなかった天文学者のじゃまをしたり・・・」

とっぴ「あー、残念な人?」

ろだん「ニュートンさんも、人間だってこと。偉い科学者だから、人間性も偉いわけじゃないだろ」

あかね「人間性でいったら、とっぴなんて、もっと残念でしょ。他人のこといえないわよ」

とっぴ「あかね〜、それ、いう?」

 

 

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