今回は、重要な無次元量、微細構造定数について、まとめてみようと思います。
今までもときどき、この無次元量について書いてきましたが、きちんとまとめたことはなかったし、その計算については触れませんでした。(*)
今回の記事は、いつもの記事に比べると、少しレベルが高いのですが、なるべく平易に書くつもりですので、物理世界の本質に興味のある方は、ぜひ最後までお付き合いください。
(*)(次元と無次元量〜『さりと12のひみつ』第7話公開に合わせて)や(物理ネコ教室035単位と次元)などの記事をご覧ください。
微細構造定数は自然単位の組み合わせによる無次元量
量子電磁力学に登場する水素の微細構造定数αは、量子電磁力学の自然単位の組み合わせでつくられる重要な無次元量でもあります。無次元量は、単位のない量のことです。
量子電磁力学は電磁気理論と量子力学を連結することに成功した理論です。
質量mはそのまま自然単位の「質量」にあたります。
プランク定数h’=h/2π(物理ではhの突き出た棒に横線を引いてhダッシュのような特別な記号であらわします。通常のテキスト文字では表せないので、ここではh’であらわすことにします。ワードなどの数式ならこの記号があるのですが)と電気素量e、光速cを組み合わせると、他の基本的な量を表せます。
電気素量はe(これはesuという単位であらわしたもの)でこれは電気の基本量。長さの基本量はh’/mc(これは長さの次元をもつ基本量です。本質的な単位系で単位計算をすると、長さの単位が出てきますが、その説明はここでは割愛します)に当たります。他にもいろいろありますが、今回使うものだけに限定しておきます。
微細構造定数αは1自然単位の距離離れた、2この電子の斥力の静電エネルギーにあたります。
静電エネルギーはクーロンのエネルギーを本質的な単位系で表した(電気素量)^2/(距離)を、エネルギーの自然単位(mc^2)で割った値にあたります。本質的な単位で表したクーロンの法則は、後ほど出てきますので、そちらを見てください。
したがって、このαの計算をすると、
α={e^2/(h'/m)}/(mc^2)=e^2/h'c
となります。
通常テキストで書くと、こんなふうにすごくややこしいので、とくに重要なものは、以下のように、画像にして見ていただくことにします。
これが、微細構造定数αです。
この値を計算すると、「1/137」という値の、謎の「無次元量」になります。物理学にはこういう謎の数がいくつかあって、「マジックナンバー」と呼ばれています。
無次元量は、単位のとり方によらず同じ数値を取る量ですから、もっとも本質的な物理量と考えることができるのです。
通常の単位では無次元量にならない
ところが、試しに、通常のMKSA実用単位ではかった値でこの量を計算すると、1/137になりませんし、無次元量にすらなりません。
下の計算を見てください。数値と単位の両方を書いておきました。
このように、単位が消えません。無次元量とは思えませんね。
上の計算では、MKSA実用単位系での組立単位である電荷の単位(C)とエネルギーの単位(J)を、次のように基本単位である(A)(kg)(m)(s)で表して計算しています。
なお、MKSA単位系についての基本的な知識が必要な方は別記事(物理ネコ教室035単位と次元)をご覧ください。
さて、なぜ、これが無次元量にならないのでしょうか。
それは、電気の基本単位(A)が、実用上で定義された単位で、便宜的に決められた仮の単位だからです。
本来、電気量は、質量、長さ、時間の3つの基本単位の組み合わせで表せる量なので、特別な単位を設定する必要はありません。
このようにして定義した本質的な単位系をcgs静電単位系といいます。
しかし、これだと本質的なのですが、実際に電気のことをいろいろ調べるには、数式が複雑になりすぎるのですね。
そこで、電気量の便宜的な単位として電流(A)を置き、(A)で電気関係の諸量を表すという、実用目的の単位系が作られました。
それが、MKSA実用単位系です。この単位系は実用上は便利ですが、物理量の本質的な関係を調べるのにはまったく使えません。
物理量の本質を調べるにはcgs静電単位系で
物理量の本質的な関係を調べるのには、電気量を質量、長さ、時間の3つの基本量で表した本質的な電気量の単位が必要です。
そのため、静電気力のクーロン法則を次のように簡単に表します。
通常のMKSA実用単位と違って、比例定数をk=4πεでなく、無次元量の1にしています。
これをcgs静電単位系といいます。cgsは(cm)、(g)、(s)です。
この単位で定義する電気量は、(esu)という名称で呼びます。
この式から、1(esu)は、1(cm)離れたところにある同じ量の電荷が及ぼし合う静電気力が1(dyn)であるときの電気量です。
この(esu)を使って電子の電気量つまり電気素量eを測定すると、MKSA実用単位系で親しんだ電気素量の値e=1.602×10^-19(C)ではなく、e=4.803×10^-10(esu)となります。
さて、式からもわかるように、この(esu)は(cm)、(g)、(s)の3つで表せる量です。なお(esu)は「静電単位electrostatic units」という言葉をそのまま略したものです。
上の2つ目の式で単位(esu)の中身を調べると、
と、こうなります。
(dyn)はcgs静電単位系での力の単位で、(g・cm/s^2)のことです。
だから、(esu)=(√(gcm/s^2)・(cm^2))=(√(gcm^3/s^2))ですね。電気量が質量、長さ、時間で表せることが、たしかにわかりますね。少々複雑な関係式なのが困りものですが。
通常テキスト形式だと見づらくて申し訳ありませんが、この最後の式は、以下の計算には使わないので、あえて画像にはしませんでした。
本質的な単位系でαを調べる
この単位を用いて、微細構造定数の単位とその値を調べてみましょう。
e^2の単位は(esu)^2、h'はプランク定数hを無次元量の2πで割った値なので、h'の単位はhと同じで、「作用量=エネルギー×時間」という物理量の単位(erg・s)になります。(プランク定数が作用量の単位になることについては、ここでは割愛します。興味のある方は、量子力学の初歩的な本をご覧ください)
ここで新しく出てきた(erg)は、cgs静電単位系ではかったエネルギーの単位で、(dyn・cm)=(g・cm^2/s^2)に当たります。
また、光速の単位はもちろん(cm/s)です。
ですから、αの単位は、次のような計算で、どうなるか示せます。
ちゃんと、単位のない量、すなわち、無次元量になることがわかりますね。
その値も、次のような計算で、求めることができます。
電気素量eはMKSA実用単位系の(C)ではかった値でなく、
cgs静電単位系を使うと、αの値が1/137となることも、無事示せました。
ちゃん、ちゃん。
【主な参考文献】
バークレー物理学コース4「量子物理」上巻 宮澤弘成監訳(丸善)
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