ひろじ「おやおや、みんなそろって。そういえば、ミオくんは?」
とっぴ「なんかね、時計でどこかへ行っちゃった」
ひろじ「それで、ここに?」
とっぴ「えへへへ。あのさ、『がらんどう星の冒険』で、ニュートンさんに万有引力のことをいろいろ教えてもらったんだけど・・・こっちに戻ってきたら、なんかわかんなくなっちゃって」
ろだん「あのときはわかった気になったんだけどな」
あかね「みんなでいろいろ話してたら、わかんないことがどんどん出てきちゃって・・・」
ひろじ「理論の理解って、そういうところがあるよ」
さり「わたしは、おまけでついてきちゃいました」
あかね「ええと、最初に、逆2乗法則のことなんですけど・・・」
さり「ぎゃくじじょうって、なんですか?」
とっぴ「ええとね・・・なんだっけ?」
あかね「力が距離の2乗に反比例するってことでしょ!」
さり「それ、どういうことですか?」
むんく「数字でいうとね、距離が2倍になると力が2分の1、3倍になると9分の1になる」
さり「あー、じゃあ、距離が4倍なら、力は16分の1ってことですですか?」
あかね「さすが、さりちゃん。とっぴよりわかってるんじゃない?」
とっぴ「それはぼくもわかるよ! わかんないのは、どうしてそうなるのかっていうこと!」
さり「それ、わたしも知りたいです!」
ひろじ「ここへ来る前にみんなで議論したんだろ。もう一回、その議論をやってみたら? 新しい発見があるかもしれない」
むんく「万有引力も静電気力もどちらも逆2乗法則だから、何か共通点があるかなと思った」
とっぴ「磁石の力もかな?」
ひろじ「一つ一つの極による磁力は逆2乗法則だけど、磁石の場合はN極とS極が必ずペアで現れるからね。N極だけの磁石とかS極だけの磁石はないだろう?・・・2つの極による磁力の合力だから、その結果、複雑な力になる。だから、磁力は逆2乗法則ではないよ」
あかね「そっか、電気は、正電荷だけとか、負電荷だけとか、あるもんね」
とっぴ「あ、じゃあ、音の強さは? 音源も、1個だけにできるよね?」
ろだん「そういえば、音の強さって、たしか距離が2倍になると4分の1になったな・・・」
あかね「音の強さは同じ面積を同じ時間に通過する波のエネルギーよね」
むんく「波源から出るエネルギーは同じだけど、波の到達する場所の面積が変わるから、面積が広がった分、エネルギーは薄まる」
ろだん「距離が2倍になると、同じ音が伝わる場所の面積は・・・」
とっぴ「ええと、2倍かな」
さり「縦も横も2倍だから、面積は2×2で、4倍じゃないです?」
とっぴ「あ、そうか!」
むんく「そう、4倍。だから、同じ面積あたりのエネルギーは薄まって、4分の1になる」
あかね「ほんとだ、逆2乗法則になってる!」
あかね「わかりやすいわ」
さり「絵を見れば、面積が4倍ってわかりますです」
とっぴ「あ! ぼく、気がついちゃった!」
あかね「また、へんなこというつもりでしょ」
さり「わたし、聴きたいです!」
とっぴ「えへん。この波源のところに、ぼくが立って、10円玉を両手いっぱいに持って、えいやって、ばらまきます」
一同「?」
とっぴ「投げた10円玉はばらばらって、まっすぐ、飛んでいくでしょ?」
むんく「重力がなければ」
とっぴ「あ、そうそう、重力なしね。で、この図の面積Sのところを通過した10円玉はそのままびよーんとまっすぐ進んで、面積4Sのところを通過するじゃん」
あかね「あっ!」
ろだん「同じ数の10円玉が通過するから、同じ面積あたり通過する数は、4分の1になるな」
さり「すごいです〜!」
とっぴ「えっへ〜ん!」
あかね「とっぴって、ときどき、すごいこと見つけるよね・・・」
あかね「音や10円玉がそうなら、1つの光源から飛び出した光も、同じじゃない?」
むんく「光も音も波だから、音の強さの話はそのまま光の強さの話になる。だから、光の強さも逆2乗法則」
ろだん「まてよ。前に、量子の国に行った時、光は粒子みたいになるときもあるっていってたぞ」
むんく「その場合は、とっぴの10円玉と同じだから、やっぱり逆2乗法則になる」
あかね「光を波だと考えても、粒子だと考えても、同じになるのね」
さり「なんだか、よくわからないけど、すごいです〜!」
とっぴ「さりちゃんも、ミオくんに量子の国に連れて行ってもらうといいよ。面白いから」
さり「行きたいです〜! ミオくん、来ないかな〜!」
とっぴ「気まぐれだからな〜」
ミオくん「(いきなり現れて)いま、だれかぼくのこと、気まぐれっていった?」
さり「あーっ、ミオくんだ!」
あかね「どこへ行ってたの?」
ミオ「うん、みんなが万有引力の話で大騒ぎしていたらか、この人を連れてきたんだ」
さり「だれですか?」
科探隊一同「あ〜〜〜!!!」
あかね「ニュートンさんを、呼んできたの?」
さり「え〜、ニュートンさんって、りんごの木を切った人ですか?」
とっぴ「そうそう、それで、正直に名乗り出て、ほめられた」
あかね「それは、リンカーン! ニュートンさんはりんごが落ちるのを見て、万有引力を発見した人でしょ! もう、忘れたの、とっぴ!」
とっぴ「あ〜、そうでした」
ろだん「ニュートンさんとは、がらんどう星以来だな。あの時は、どうも」
ニュートン「いや、あの星はじつに興味深かった。私が発見した万有引力の逆2乗法則が、もっとも厳密に証明できる星だった」(*1)
(*1)『いきいき物理マンガで冒険』第3話「がらんどう星の冒険」
とっぽ「あー、思い出してきた・・・でも、どうしてがらんどう星の内側って、無重力になるんだっけ」
むんく「万有引力が逆2乗の力なら、数学的にそれが証明できる。これは、がらんどう星でもやったよ」
とっぴ「あのさ、ほら、いまここには、がらんどう星に行っていない、さりちゃんがいるじゃん。だから、もう一回、説明して」
さり「はい! わたしも、教えてほしいです!」
むんく「例えば、図の距離BPが距離APが2倍だったら、Pに置かれた物が、Bにある1kgの岩から受ける万有引力は、Aにある1kgの岩から受ける万有引力の4分の1になる。距離の2乗に反比例する力だから」
さり「そうだと思います」
むんく「でも、Bにある地殻の岩の量はAにある地殻の岩の量の4倍になる。面積が4倍だから」
さり「それも、わかります」
むんく「万有引力は距離の2乗に反比例するだけじゃなく、2つの物体の質量にも比例するから、距離が4倍で力が4分の1になっても、地殻の岩の質量が4倍になるから、結果としてBの地殻全体から受ける万有引力の大きさと、Aの地殻全体から受ける万有引力の大きさは同じになる」
さり「あー、そうです、そうです!」
むんく「だから、Pにある物体に働く万有引力の合計は0になり、がらんどう星の中は無重力になる」
ろだん「待てよ。この図だと、地殻の向きが斜めになっているけど、それはいいのか?」
むんく「今は簡単な例をいっただけ。この図に合わせて厳密に計算すると、もう少し複雑な計算になるけど、Pにある物が地殻AとBから受ける万有引力の合力が0になることは、ちゃんと証明できる。計算、見る?」
とっぴ「いやいやいや、いいよ」
ニュートン「そういう細かい計算までやってみせる必要はなかろう。私の『プリンキピア』でも、この図の計算はわざわざ書いてはおらんよ。少し計算すればすぐわかることだからな」
あかね「・・・思い出したわ。あのあと、わたし、むんくのやった計算、見せてもらったけど、自分ひとりだったらできないと思った。ぜんぜん、かんたんな計算じゃなかったわ」
むんく「あれ? そうでもないと思うけど・・・」
とっぴ「あかねが難しかったっていってるんだから、ぼくじゃ無理だな・・・」
ろだん「おい、みんな、ちょっと忘れてないか? さっきの話、まだ万有引力や静電気力で、どうして逆2乗法則になるかっていう解釈ができてないぜ。力の源が1つしかないからだってことで、なんとなくわかった気になっているだけだ」
ニュートン「ケプラーの第3法則が成立するには、万有引力が距離の2乗に反比例し、2つの物体の質量の積に比例するしかない。それは、私が『プリンキピア』で証明したとおりだ。私の本を読みたまえ」
ミオ「ニュートンさんの『プリンキピア』は、数学的な証明を代数じゃなくて幾何学でやっているから、みんなにはちょっとわかりづらいかも」
ひろじ「代数的な計算で証明する方法は、別の記事で書いているから、とっぴたちはそっちを見てみて」(*2)
(*2)物理ネコ教室144惑星の運動その2を参照。
さり「あのう、わたしにもわかるような説明はないですか? とっぴさんの10円玉の話みたいに」
ミオ「(ちょっと考えて)きみたち、ファラデーさんと会った時、電気力線のことを教えてもらったよね?」(*3)
(*3)『いきいき物理マンガで冒険』第6話「電気文明危機一髪」
とっぴ「あ、それなら覚えてる! 電荷から、電気力線の矢印が出てるやつ!」
あかね「とっぴは、数式が出てこないのは強いわね」
とっぴ「へーんだ! ファラデーさんだって、数式は苦手だったもんね!」
さり「なんですか、電気力線って」
とっぴ「あのね、電気の力がどんなふうにまわりに働くかっていうのを、矢印の絵で書いたのが電気力線だよ。矢印の間隔が狭いところでは電気の力が強く働き、間隔が広いところでは電気の力が弱くなる」
さり「電気りきせんって、電荷からずーっと、矢印をのばしただけなんですか? それなら、わたしにも描けそう」
あかね「正電荷からは矢印が出て、負電荷には矢印が入るのよ。難しくいうと、電場っていう、電気的に歪んだ空間の様子を示すのが電気力線なの」
ろだん「うん? 万有引力の場合はどうなるんだ? 電気力線みたいに力の働き具合を示す力線が描けると思うけど・・・どう描けばいいんだろう」
あかね「電気力線は、正電荷が受ける力の向きに矢印の向きを合わせて描いたわね。万有引力の場合は・・・質量に正負はないから・・・」
とっぴ「りんごは地球に向かって落ちるんだから、万有引力の力線もそれと同じ向きじゃん! こんな感じかな?」
とっぴ「たぶんね」
ニュートン「なんだ? この矢印は?」
とっぴ「(ミオに耳打ちして)あれ? ニュートンさん、力線って、知らないの?」
ミオ「(小さな声で)ニュートンさんはこういう場の考えはしなかったんだ。それより後の時代のファラデーさんが考え出した新しい理論だからね」
さり「あー、わたし、わかったような気がしますです!」
あかね「いってみて、さりちゃん!」
さり「さっき、矢印の数のかんかくが狭いか広いかで強さがわかるっていいましたよね?」
とっぴ「うん、いった!」
さり「この図だと、Sの面もS'の面も、同じ5本の矢印が通ってます。でも、面積はS'の方がSより広いので、矢印のかんかくはS’の方が広くなりますから、電気の力は弱くなります!」
ろだん「その通りだな」
さり「距離が2倍ちがうと、さっきの話で面積は4倍違いますから、S'を通る矢印のかんかくは4倍広くなります。だから、力は4分の1になりますです!」
あかね「さりちゃん、ほんとに、すごい! たしかに逆2乗の力になっているわ! 力線でわかるのね!」
とっぴ「・・・さりちゃん、ほんとに、小学生?」
むんく「一般の場合、距離rとr’で計算すると、面積はS'がSのr'/rの2乗倍になる。だから、力線の間隔は面S'では面SでのS'/S分の1、つまりS'での電気力はSでの電気力のS/S'倍、つまりrの2乗/r’の2乗倍になる。一般の場合も、電気力はrの2乗に反比例することが示せるよ」
とっぴ「いや〜、ははは、ぼくは、さっきのさりちゃんの説明の方がわかりやすいかな・・・」
ニュートン「最後の矢印はちょっと気になるが、まあ、わかったということなら、私も帰るかな」
とっぴ「あ〜〜、待って待って! わかんないのは、これだけじゃないから! 他の話も、うろ覚えで・・・あ、いや、初めてのさりちゃんがいるから、ねえ?」
さり「わたし、聞きたいこと、いっぱいあるですです!」
とっぴ「ほら、さりちゃんも、こういっているし」
ニュートン「それでは、また呼びたまえ。ただし、今はちょっと、偽札事件で忙しいから、それが解決した頃に呼んでもらおうか」
ミオ「了解。じゃ、いったんもとの世界へもどるね(時計のリューズをカチッとひねると、ミオくんとニュートンの姿は消える)」
さり「今度もぜったい、わたしもいっしょに来ますです!」
あかね「ちゃんと連絡するわ。とっぴより、頼もしいから」
とっぴ「え〜〜〜〜」
さり「えへへ〜」
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