ケプラーの月〜『マンガで冒険』第2話「夢の月世界旅行」の裏話1 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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とっぴ「やっほー、お久しぶり〜!」

ひろじ「ほんと、久しぶりだね。今日は何?」

あかね「わたしたちの本、ブログの記事でもフォローするってことだったけど、どの記事がどのマンガと同じテーマなのか、わかりにくくて」

「それに、書いてない記事もある・・・」

ひろじ「あ・・・そうだっけ・・・」

ろだん「いつまでたっても、さりちゃんの裏話ばっかで、おれたちの話になんないから、こうやって、直談判にきたんだ」

さり「あ、わたしもそれ、読みたいです。っていうか、さりの話も、全部完成してませんですです!」

ひろじ「いやあ〜〜、ほら、コロナがあって、予定になかった物理ネコ教室1・2年の記事を書いたり、放送大学の準備があったりで、予想以上に時間がかかってね。それに、<これ、科学?>とか、さりちゃんのサプライズ企画とか準備しているうちに、あっという間に時間が経っちゃったんだ」

あかね「それ、いいわけですよね? やれない理由を探すより、やる方法を探す方が、建設的だと思いますけど」

ひろじ「ハイ・・・じゃ・・・<マンガで冒険>の方は<天球と地球>の全ページ掲載と解説を書いたし、<マンガで実験>の方は<大道芸!レンガ割り>の全ページ掲載と解説を書いたから、それ以外の話のことを、順番に書いていくよ。まずは・・・」

とっぴ「ケプラーの月の裏話!」

ミオ「あー、あれは<冒険>の中でも特別な異世界だったよね。ケプラーさんの書いた本の世界に行った話」

とっぴ「そうなんだよ! あの世界、すごくおもしろかったから、裏話を期待してたのにさ〜、ひろじさんがサボるから・・・」

ひろじ「わかったわかった、始めるってば」

 


あかね「とても不思議な世界だったけど、これはケプラーさんが書いた本にでてくる月世界なんですよね。あのあと、本を図書館で探したら、科学のコーナーになくて、ドイツ文学のコーナーにあったんです。小説ってこと?」

ろだん「おれ、あのあと、SFの入門書で<世界初のSF小説>って書いてあるのをみたぞ」

ひろじ「そうだね。通常の図書分類だと、SF小説ってことになるだろうね。月世界に行く話だから」

あかね「アニメみたいな世界だったわ」

とっぴ「そうそう。巨人が出てきたり、植物があっという間に生長してあっという間に枯れたり」

ひろじ「いや・・・あっという間ではないよ。月の自転周期は地球のまわりを公転する周期とほぼ同じで、30日弱だから。半日は地球の14〜5日っていうところ。昼と夜が2週間ずつ入れ替わることになるね」

とっぴ「月世界人は?」

ひろじ「ケプラーは動物も植物と同じように成長が早くなると考えた。これにそっくりな植物のシーンが手塚治虫の『鉄腕アトム』にあったよ。「イワンのばか」って話なんだ」

あかね「ケプラーの本を読んだのかしら」

ひろじ「手塚治虫自身の解説によると、H・G・ウェルズの『月世界の人間』のまま描いたということだから、ケプラーの『夢』は読んでなさそうだ」

ろだん「ウェルズのその本、読んでみたいな」

ひろじ「書籍版は今は定価では手に入らないよ。電子版を手に入れて呼んでみたら、<結論として、ケプラーのいったことは正しかった>という台詞があった。ウェルズがケプラーの『夢』を読んでいたことは間違いないだろうね」

あかね「面白そう! わたしも読んでみよっと」

とっぴ「ぼくは、アトムの方を読もうっと」

 

ミオ「あの小説はもともと、ケプラーが大学時代に書いた論文をもとにしているんだよ」

むんく「論文・・・」

ひろじ「うん。マンガではページ数の都合で『夢』のストーリーをくわしく書けなかったけど、小説の主人公ドゥラコトゥスは天文学に興味を持ち、魔女の母親の魔力で月まで行き、そこで見た月世界の様子を報告するという内容になっている。主人公のモデルはもちろんケプラー本人で、母親のモデルもケプラーの母親だろうね。もちろん本物の母親は魔女じゃなくて、薬師みたいな仕事をしていた。薬草を摘んで、処方して、村人に売って生計を立てていた。昔はこういう薬師みたいな人が、人々の病気を治していたんだ」

あかね「ケプラーのお母さんって、たしか魔女裁判で・・・」

ひろじ「そう。薬師って、西洋の魔女の基本的なイメージだからね。ケプラーのお母さんは性格がきつかったみたいで、村人とのトラブルが絶えなかったらしい。それで恨みを買って、魔女として密告されたみたいだよ」

ろだん「あれ? ケプラーが描いた『夢』のせいじゃなかったっけ?」

ひろじ「ケプラーはそれが原因だと思ったみたいだ。小説の中で主人公の母親を魔女にしたからね。実際のところは昔のことだから詳細はわからないけど、ケプラーの母親のことをよく思わない人たちが、ケプラーの『夢』をたてにとって、密告したということらしいよ」

あかね「さっきの論文ってところ、もう少しくわしく聞きたいな」

ひろじ「ケプラーは大学生のとき、すでに太陽中心の地動説を信じていた。1593年の大学創業時に、それを論じるのに、月の人から世界を見た風景を描くという観点での論文を作成し、教授に提出した。でも、その教授は地動説を好まなかったので、取り上げられなかったそうだ」

さり「え〜! せっかく書いたのに、先生がそれを無視するって、おかしいですです!」

ひろじ「その論文は『夢』の原型となっているんだけど、それは残っていないから、どんな内容だったかわからない。そのあと、ケプラーは天文学者として活動しながら、『夢』の梗概(だいたいの内容をかんたんに書いたもの)を1609年に書く。これが大評判になったんだ。母親の魔女裁判に使われたのはこの梗概だよ。まだ、『夢』は完成していないからね」

ミオ「ケプラーさんは当時の観測や地動説の考え方を駆使して、月から見える地球の様子を、科学的に考察したんだ。そのほとんどは正しかった。月に大気がある、というのは、はずれたけど」

ひろじ「でも、それがウェルズの『月世界の人間』や手塚治虫の『アトム』の基礎になっている。ウェルズの本には夜の間凍った空気が、昼になると太陽の光をあびて大気にもどる、という記述がある。手塚の『アトム』もこれにそっくりなシーンがあるよ」

 

さり「わあ、それも聞きたいですです!」

ろだん「ウェルズって『宇宙戦争』でタコみたいな火星人の話も書いてるだろ。宇宙人を書くの、特異だったのかもな」

とっぴ「じゃあ、月人は、イカかな?」

ひろじ「ケプラーは、月では植物も動物も成長が早くて巨大化するし、寿命も短いとはっきり書いている。15日交代の昼と夜にあわせて、月面上を移動しながら生活するとか、洞窟に入ってやり過ごすとか、書いている。それに対して、ウェルズの月人は、地下暮らしの身長150センチくらいのアリみたいな顔の人間だよ」

とっぴ「アリ!」

ひろじ「ええと、目が顔の横についていて、触覚があり、円筒形の体に短い手足がついていて、地下で暮らしている」

ろだん「まんま、アリだな」

ひろじ「ウェルズはケプラーの本の知識を使って、月の生物が植物も動物も巨大化すると書いているけど、なぜか月人だけは背が低くてひょろひょろの姿で書いている。ケプラーの考えから逸脱するけど、おそらく、月人は地下に住んでいるから、月面上の15日周期の昼夜交代に影響されず、巨大化しなかった、というようなリクツだと思うよ。ただ、ぼくがざっと呼んだ限りでは、そのへんの理由付けは書かれていなかった」

 

あかね「わたしたちが行った月世界では、空に浮かんで自転する地球の様子が描かれていたけど、『アトム』やウェルズの本にも、それは書かれているんですか?」

ひろじ「その記述もなかったなあ。ウェルズの小説はおもに生物的な話が多かったね」

とっぴ「生物が得意だったのかな」

ひろじ「うん。ウェルズは大学で生物学者のハクスリーに教えてもらっていたからね。科学分野では生物学が専門だったと思うよ。どうも、ウェルズが書いたSF小説は『月世界の人間』が最後らしい。このあとは別の分野に進出して、最後にライフワークともいえる『世界文化史大系』シリーズを書くことになる。歴史を科学的な発想で記述する力作だよ」

ろだん「アリ人間と地球の他に、ケプラーと違うところはあるのかな」

ひろじ「ウェルズはケプラーの時代にはなかったニュートンの万有引力の法則を知っているから、月面の重力が地球より小さいということを知っていて、その記述がいっぱいあるよ。これは、わりと合っている。でも、ケプラーが考えた、月にも空気があるというのを、そのまま書いているからねえ。やはり、物理学は弱かったんじゃないかな」

ろだん「オレ、空気が凍るっていうの聞いてヘンだと思ったんだけど」

とっぴ「え、何が? 寒いから凍るんだよ」

ろだん「たとえば酸素が凍るのって、とんでもない低温で、月面の夜が寒いと行っても、そんな低温にはならないはずなんだ」

とっぴ「あ・・・」

ひろじ「もっと遠い惑星だったら、酸素や窒素も凍るだろうけど・・・月の位置では・・・地球より遠い火星でも、マイナス80度くらいで、空気は凍らない」

あかね「あっ、そうか!」

ひろじ「あとね、ウェルズの本では月に黄金がいっぱいあって、金属道具が黄金製という場面があるんだけど」

とっぴ「黄金!」

むんく「どうして黄金・・・」

ろだん「うーん・・・なんかわかんないな」

ひろじ「たぶん、根拠はないと思うよ。木材の寿命が短いから木製品はなくて、かわりに金属でなんでも作っているという設定だろう。鉄でも銅でもいんだけど、さびにくくて貴重な黄金なら、インパクトがあると思ったのかな」

あかね「やっぱり、ウェルズって、物理や科学はあまり得意じゃなかったんじゃないかしら・・・」

ひろじ「一方、手塚のアトムの方は、黄金じゃなく、ダイヤモンドがいっぱいあるという設定だよ。月には隕石が落ちたクレーターがいっぱい残っているから、衝突の圧力と高温でダイヤモンドができるって発想だね」

ろだん「それなら、黄金より可能性がありそうだな」

さり「ケプラーさんの本にも、そういうのが書いてあったんです?」

ひろじ「いや、たしかそういう記述はなかったんじゃないかな。『夢』は本文より、本人がいれた注釈の方が長いんだ。ダイヤの話はなくても、もうちょっとおもしろいことが見つかるかもしれない。今度、もう一度読み直してみるよ」

 

【裏話2に続く】

 

 

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