物理ネコ教室021摩擦力 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 冒頭のイラストは「摩擦ジョイント」の実験の図。小学生から楽しめる実験です。詳細は「まさつジョイント」をご覧ください。

 摩擦力は、なかなか難しい力。身近な力ですが、誤解の多い力でもあります。また、教科書で習うことと実際の現象とが食い違っている、代表的なものでもあります。

 誤解を解きつつ、摩擦力の性質を学んでいきましょう。

 

 

1は、摩擦力の向きに関する大きな誤解を解いておくために設定しました。

 摩擦力については、ほとんどの人が「摩擦力は運動方向と逆向きにブレーキとして働く」と思い込んでいます。

 しかし、実際には右図のように、人が前進するときのように、運動方向に摩擦力が働くケースがかなりあります。

 

 摩擦力は「床を滑る方向と逆向きに働く」というのが正解。

 前に向かって走る人の場合、足を後ろに向かって蹴り出しますから、足は地面の上を後ろ向きに滑ります。このとき、地面から滑る方向と逆向き、つまり前向きに摩擦力を受け、その力によって前進することができるのです。

 前向きの摩擦力なくしては、われわれは散歩することもできません。

 

2は、摩擦力の種類とその性質。

 ここで問題なのが、ほとんどの教科書で「摩擦力は静止摩擦力と動摩擦力の2種類」と教えていることです。ぼくのプリントでも教科書に合わせ、そのような仕切りにしていましたが、これだと摩擦力の性質について、致命的な間違いが生まれやすいのです。

 そこで、はじめて摩擦を学ぶ人のために、その誤解をしなくてすむように、ぼくのプログラムでは「摩擦力は3種類」と教えています。プリントも、それがはっきりわかるように改訂しました。

 

 詳しくは、描き込みプリントで。

 

 

4は摩擦では必ず扱う「摩擦角」の話。(3がないのはうっかりミスです。やれやれ)

 この摩擦角、問題を解く前に、質問を一つしています。

 Q:もし、板に乗せる物体の重さを2倍にしたら、摩擦角は大きくなるか、小さくなるか、変わらないか?

 物理学では、感覚的に立てた予想と、理論的に導いた結論が、一致しないことがあります。この摩擦角もその一例です。

 

5は静止摩擦力、最大摩擦力の基本的な例題。

6は動摩擦力の基本的な例題。

 

 では、書き込みを見ながら、解説します。

 

「摩擦力は必ずブレーキとして働く」は大間違い

 

1は、摩擦力の向きに関して、根本的な誤解を解くために設けました。

 野球のスライディングなど、床を滑らせた物体に働く摩擦力は後ろ向きにブレーキとして働きます。

 だからといって、摩擦力がすべて後ろ向きに働くと思うのは大きな間違い。

 前進する人が受ける摩擦力は前向きで、駆動力として働きます。

 右の図を赤で囲んでいるのは、その誤解をなくすため。

 

×「摩擦力は物体の運動と逆向きに働く」

○「摩擦力はすべる向きと逆向きに働く」

 

 この違いをよく、理解しておきましょう。

 

2は摩擦力の種類です。

 さきほど書いたように、摩擦力は、本来、物体が床に対して静止しているときに働く静止摩擦力と、物体が床に対して滑っているときに働く動摩擦力の2種類に分けられます。

 しかし、初心者にとっては、この2種類で覚えることはかなりリスキーで、大きな誤解を生みます。

 摩擦力は2種類でなく、3種類あるからです。

 

(1)静止摩擦力f

 物体が床に対して止まっている間に働く摩擦力が静止摩擦力です。

 この静止摩擦力fの特徴は「他の力につりあって大きさが変化する」ということ。

 したがって、静止摩擦力fにはF=kxのような式がありません

 これを、しっかりと頭に入れておいてください。

 

(2)最大摩擦力fmax

 静止摩擦力は際限なく大きくなれるわけではなく、限界があります。

 その最大値が最大摩擦力fmaxです。

 最大摩擦力fmaxは垂直抗力Nに比例するという性質があります。これを式にすると、

 fmax=μN

 となります。

 

 最大摩擦力も、厳密にいえば静止摩擦力なのですが、垂直抗力に比例するのは最大摩擦力だけの性質です。通常の静止摩擦力と、そこを混同しないようにすることが大切です。

 

 ここで問題になるのが、比例定数μの名称。

 μは「静止摩擦係数」と呼ばれます。だから、静止摩擦力ならいつでもμが使えると考えてしまうのですね。μをせめて「最大静止摩擦係数」と呼ぶようにすれば、こういう誤解も防げるのですが。

 

(3)動摩擦力f'

 物体が床に対して滑っている時に受ける動摩擦力f'は、最大摩擦力によく似た性質を持っています。

 f'はやはり、垂直抗力Nに比例するのです。式にすると、

 f'=μ'N

 となります。

 

 動摩擦力f'は、さらに、次の二つの性質があります。

 ・最大摩擦力より小さくなる。

 ・物体の運動の速度によらず、一定の値になる。

 

 この理由は、別の機会に説明します。(必ず質問にくる学生がいるのは、頼もしいですね)

 

(4)まとめのグラフ

 これは、(1)〜(3)の性質を一つのグラフにまとめたものです。

 手の力を増やすと共に増えていく右肩上がりのグラフが静止摩擦力fで、その先端が最大摩擦力fmax、その後がくんと大きさが減り、手の力と関係なく一定の力になるのが動摩擦力f'です。

 

 また、動摩擦力f'は最大摩擦力fmaxより小さいので、動摩擦係数μ'も静止摩擦係数μより小さくなります。

 

 

4の摩擦角は「摩擦角より大きな角度になると滑り出す」という意味ですから、斜面が摩擦角の時は、物体はまだ滑らず、斜面の上で静止しています。

 ここを、誤解しないようにしてください。

 

 このとき、静止摩擦力fは最大摩擦力fmax=μNになっています。

 力のつりあいの式を立て、摩擦角θoを求めることができます。

 書き込みの計算を見てください。

 

 最終結果はμ=tanθoとなります。

 

 この式には質量mも重力加速度gも含まれていません。

 ということは、物体の質量を変えても、重力を変えても、摩擦角θoは変わらない、ということ。

 

 人間の感覚だと、物体が重くなると摩擦力も大きくなり、摩擦角も大きくなると思ってしまいますが、そうはなりません。

 

 「数学は物理の言葉」といわれます。

 人間の感覚は、身近な体験の延長線上にありますから、体験したことのない現象を予想するのは限界があります。そういうとき、数学は人間の想像力を超え、正しい結果を示してくれます。

 物理で数学を大切にするのは、そういう意味があるのです。

 理論の大切さが身に染みてわかる典型的な例ですね。

 

5(1)問題文のどこにも「滑り出す直前」という表現がありませんから、(1)の摩擦力は静止摩擦力であり、最大摩擦力ではありません。したがって、f=μNという式は使ってはいけません。

 通常の力のつりあいの式を立てて解けば、摩擦力fはすぐにわかります。

(2)問題文に「滑り出した」とあるので、つい動摩擦力f'を使い、運動方程式を立てたくなります。しかし、よく読むと滑り出す直前の状態が問われているので、最大摩擦力fmax=μNを用い、力のつりあいの式で問題を解きます。

 

6は摩擦のある斜面を滑る場合の運動方程式の問題です。

 どの教科書にも載っている典型的な問題ですので、必ず解いておきましょう。

 答は少々複雑ですが、とくに計算が難しいということではありません。

 

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