こちらは2014年に作成した「愛知物理サークル通信復刻完全版DVD」のレーベルイラスト。
キャラデザインも、レイアウトも、わりと気に入っています。
今回の記事にこのイラストを用いたのは、現在主流になっている、力のつりあいや運動方程式を立てるときの「受ける力で考える」という方法を強く主張し、全国に広めたのが、愛知物理サークルの先輩方だからです。
今回のテーマは「力のつりあいの式の立て方を学ぶ」なので、愛知物理サークルの面々に登場願ったというわけ。こんな楽しそうな人たちが考えた方法なので、かたっくるしくはありません。ポイントを抑え、楽しくつりあいの式を立てられるようになりましょう。
まず、プリントの前半から。
「1.力のつりあいを計算で解く」の「手順(1)物体ごとに受けている力をすべてかきこむ」が、愛知物理サークルが提唱した方法。
これを徹底すれば、だれにでも、簡単に力のつりあいの式や運動方程式が立てられるようになります。さっそく、見ていきましょう。
手順
(1)物体ごとに受けている力をすべてかきこむ
(2)x軸・y軸をとり、力をx方向・y方向に分解する。(軸に対して斜めの力があるとき)
(3)x方向・y方向それぞれ、合力(Fの和)=0の式を立てる。
前記事で、もっとも重要な(1)については、詳しく説明しましたね。
あれを思い出しながら、2の例題に、自分で図に力の矢印を描き込んでみましょう。
糸や天井が受けている力も、もちろん存在しますが、問題を解くときにじゃまになるので、それは描きません。あくまでも「物体が受ける力だけ」描いてください。
2の問題は、手順の(1)〜(3)すべてをチェックできるので、最初に解いてもらっています。
力の矢印が描けたあとの手順の具体的な進め方は、描きこみプリントを見てください。
3の問題は、力を描きこむとき、初心者がとても間違いやすいポイントを含んだ問題です。
物体が複数あるときは、力の矢印の描き忘れなど、間違いが起こりやすいのです。
ためしに、指示にしたがって、物体A、Bが「受ける力」だけを描き込んでみてください。
物体AとBがそれぞれ受けている力だけを描きこむんですよ?
力は全部で何本描きましたか?
うまくいったかどうかは、描き込みプリントでチェックしてみてください。
では、後半へ。
4も3と同様、複数の物体があるケースです。
5は滑車があるので、滑車と糸の張力に関する「あの知識」がないと、正しい力の矢印が描けません。前回説明した、「理想的な糸や滑車の性質」です。覚えていますか?
6では、力の単位として(N)ではなく(kgw)が使われています。
この単位は建築関係の世界で使われますし、日常でも体重計で重さをはかるときに使っています。(ただし、体重計のめもりの単位はkgwでなく質量のkgを使っています。が、体重計が図っているのは質量ではなく、上に乗ったものが体重計を押す力ですので、本当の単位はkgwです)
この単位は、国際単位系ではないので、あまり見かけませんが、まったく登場しないわけではないので、どういう単位だったのか覚えておく必要があります。
この単位を使うときは、重力はmg(N)でなく、m(kgw)なので、気をつけてください。
では、いよいよ、描きこみをみながら、手順についてくわしく解説していきましょう。
手順の基本的な説明はもう行いましたので、具体的な問題を解きながら、手順を学んで行きましょう。
手順が一通り学べる基本題
では、まず、2.から。この問題は(1)〜(3)の手順を一通り使う問題ですので、基本例題としてやっておきましょう。
描き込みの図や計算と見比べながら、説明を読んでください。
(1)物体ごとに、物体が受ける力をすべて描く
まず、物体が受ける力だけを描きます。式を立てるとき間違えるので、糸や天井が受ける力は描いてはいけません。
物体のまわりを指でなぞると、2本の糸が接触していることがわかります。
したがって、この物体が受けている力は、
・非接触力:離れている地球から受ける重力
・接触力:糸1から受ける張力T1、糸2から受ける張力T2
の3力だけです。
作図法で解く場合とちがって、計算法により解く場合は、力の矢印は向きだけあっていればよく、矢印の長さは適当で構いません。どうせ、後で計算によって大きさを求めるからです。
図の赤い矢印3つが、うまく描けたら、第1段階は終了です。
(2)力を方向別に分解する
図のように、x軸を水平方向に、y軸を鉛直方向にとり、それに対して斜めの力を分解します。
この場合は、張力T1とT2が斜めなので、張力が対角線になる長方形を描いて、縦横に矢印を描いて分解します。
図の緑色の矢印4つが、これらの張力の分力です。
角度が30°、60°と、三角形の辺の比がわかりやすいケースなので、三角比(sin30°、cos30°)を用いなくても構いません。(*)
辺の比を用いて、分力の矢印の横に、大きさを描き入れてください。
力のつりあいの式はこの図を見ながら立てていくので、分力にはかならず大きさを描き入れておきましょう。
(*)一般的な角度θのときは、必ず三角比(sinθ、cosθ)を用いてください。
これで、第2段階も終了です。
ところで、この軸の方向は、2つの軸が直交していれば、どんなふうに取っても構いません。
慣れてくると、力の分解計算がもっとも簡単にすむ2方向を選べるようになります。例えばこの問題なら、直行する2本の糸の方向を軸にとってもよいのです。
しかし、初心者のうちは、問題ごとに軸の向きを変えるのはかえって混乱するので、つぎの2種類の軸のどちらかを選ぶようにするとよいでしょう。
[1]水平方向と鉛直方向の2方向
[2]斜面に沿う方向と斜面に垂直な方向の2方向(斜面がある場合)
たいていの場合、このどちらかで間に合います。
(3)方向ごとに力のつりあいの式(合力F=0)を立てる
いよいよ、ラスト、第3段階です。
力のつりあいの式というのは、運動方程式(合力F=ma)の特別な場合で、加速度aが0の場合に当たります。
したがって、力のつりあいの式と運動方程式の立て方は、ほとんど同じです。
どちらかをマスターしておけば、もう片方も同じように立てられる。これはウレシイですね。
式を立てるとき気をつけなくてはいけないのは、力はベクトル量で向きをもつので、合力は向きを+−で表して合計する、ということです。
初心者はこのことをうっかり忘れがちですので、じゅうぶん注意してください。
では、この問題について、図を見ながら、式を立ててみましょう。
方向ごとに物体が受けている力をチェックして、その向きを確認し、
軸の正方向なら+、負方向なら−をつけて、
合計していきます。
力のつりあいの式
(x方向) +1/2・T2+(-√3/2・T1)=0 ←←←(1/2・T2が正方向、√3/2・T1が負方向)
(y方向) +1/2・T1+√3/2・T2+(-mg)=0 ←←←(1/2・T1と√3/2・T2が正方向、mgが負方向)
力のつりあいの式が書けたら、第3段階も終了。これで物理はおしまいです。
あとは、算数。
2つの式を連立させて、T1、T2をmgで表したら、解答完了です。
その計算は、描き込みを見てください。
物体が複数ある場合
物体が複数ある場合は、力を図に描きこむ段階で、力の矢印の描き忘れがよく起きます。
これは、手順の(1)の「物体ごとに」というところをおろそかにするために起きるうっかりミスです。実際の例を見ながら、どこでミスが生じるのか、体験して学びましょう。
3.の問題は複数の物体が登場する典型的な問題ですから、ちょうどよい練習になるでしょう。
(1)物体ごとに、物体が受ける力をすべて描く
まず、「物体ごとに」受ける力を描いていきます。
A、B2つの物体があるので、Aから描いていきましょう。
Aだけを見て、Aだけに描きこみます。
Aが終わったら、つぎにBを描きます。
Bだけを見て、Bだけに描きこみます。
Aに描いたり、Bに描いたりと、AとBをいったりきたりしながら描かないようにしてください。初心者にとっては、間違いの大きな原因になります。
これは、さきほどやってみて、あとで描きこみと比べてみようと言いました。もうやってありますね?
まだの人は、まず、描きこんでいないプリントの図を使って、自分の手で力を描きこんでみてください。
力の矢印は、全部で何本描きましたか?
描きこみを見ると、全部で5本の矢印が描いてありますね。
教室で実際にやってもらうと、なんと半分以上の人が、力を描き落とします。
初心者にとっては、非常によく間違う問題なのですね。
間違い方は人それぞれですが、一番多いのは、矢印の数が全部で4本しかないケースです。
描きこみプリントの図を見てください。
Aが下にある糸2から受けている張力Sを描き忘れてしまう人が続出するのです。
あなたは、忘れずにこの下向きのSを描けましたか?
このミスは、最初に図を描きこむとき、力の矢印を長く描いてしまうことで起きます。
Aが受ける重力の矢印を長く描くと、その矢印が下の糸2にかぶってしまうので、そのせいでそこに糸2があって、糸2から下向きに引っ張られているということを、見落としてしまうのです。
じつに単純な、ばかばかしい見落としですが、力のつりあいの問題では、力を一つでも見落とすと終わりなのです。
力のつりあいの問題を解くとき、間違える人のほとんど(8割〜9割)が、力を図に描きこむ段階で失敗しています。
手順(1)は力のつりあいの式を立てる上で、もっとも重要な手順です。力の図が正しくなければ、そのあといくら計算しても、出発点が間違っているので、正しい答にたどり着けません。
この種の間違いを防ぐ方法は、次のどちらかです。
[1]矢印を短く描いて、他の矢印とかぶらないようにする。
[2]矢印を描く位置をすこし横にずらして、他の矢印とかぶらないようにする。
どちらでも結構です。
慣れてくると[2]の方法を取る人が増えます。これは矢印を大きく描いて見やすくしたいとの考えでしょう。まあ、どちらにするかは好みの問題ですので、ご自由にどうぞ。
この場合も、糸や天井が受けている力は描きません。
あくまでも、力のつりあいの式は「物体についての力のつりあい」なので、物体が受ける力以外は、式には必要でないのです。
もし、問題で、「天井が受けている力はいくらか?」というのがあれば、そのとき初めて、天井が受ける力を描きこめばよいでしょう。
力の矢印が全部で5本になりましたか?
それでは、矢印の横に力の記号や数値を描きこみます。
これで、第1段階は終了です。
矢印を描きこむとき、初心者の人は、次のルールを使うとよいでしょう。
物体ごとに矢印の形や色を変える。
描きこみの図では、Aは赤い矢印、Bは緑の矢印で描かれていますね。
鉛筆で書くときは、色分けのかわりに、Aは細い矢印、Bは太い矢印、という具合に、ひと目見て違いがわかるように描くとよいです。
このルールがどうして必要かというと、第3段階で力のつりあいの式を立てるとき、合力の式に選んではいけない力を書いてしまうことが多いからです。
力のつりあいの式は、物体ごとに式を立てますから、例えばAならAが受ける力だけ、BならBが受ける力だけを選んで、A、Bそれぞれの式に入れていきます。
ところが、初心者は、どの力の矢印がどちらにかかっているかを判断しにくいので、なんとなく、違う物体に働いている力を式に入れてしまうんですね。
これを防ぐためには、力の矢印を図に描きこむとき、ひと目見てどの矢印がどの物体にかかっているかわかるようにするのが一番です。
なお、蛇足的な注意を一つ。
矢印を描くだけ描いて、力の記号や数値を描きこまない人がときどきいますが、これは利口なやり方ではありません。
第3段階で力のつりあいの式を立てるときは、図を見ながら式を作ります。その図に力の記号や数値が描き入れてないと、その場でまた「この矢印は何だっけ」と余分に考えなくてはいけないし、うっかり違う記号や数値を使ってしまうこともあるでしょう。
(2)力を方向別に分解する
この問題では、必要ないので、この手順は飛ばします。
(3)方向ごとに力のつりあいの式(合力F=0)を立てる
この問題では、力が鉛直方向(上下方向のこと)にしか働いていないので、軸は鉛直方向にy軸を取ればよいですね。上向きを正にするか、下向きを正にするかは、好みでどうぞ。
自分の決めた軸の正負にしたがって、合力を計算するとき、各力の正負を判断します。
力のつりあいの式は物体ごとに立てます。
A、Bそれぞれについて、受ける力の矢印を見ながら、式を立てましょう。
図にはAが受ける力は赤い矢印で、Bが受ける力が緑の矢印で描いてあります。
Aについての合力の式には、赤い矢印の力だけを並べます。
Bについての合力の式には、緑の矢印の力だけを並べます。
赤と緑の矢印が、一つの式に混ざることはありえません。
図示するとき、矢印を色分けしたのは、式を立てるときに、どの力を用いたらよいかを区別するためだったのです。
さっそく、A、Bそれぞれについての力のつりあいの式を作ってみましょう。
力の向きに合わせて、上向きは正、下向きは負で合力を作ります。
力のつりあいの式(y方向、上向きが正)
A +S-5×9.8-T=0 ←←←(赤い矢印、張力S、重力5×9.8、張力Tだけを使う)
B +T-10×9.8=0 ←←←(緑の矢印、張力T、重力10×9.8だけを使う)
無事、式が立てられましたか?
力の図が完成していれば、この式を立てるのは、さほど難しいことではありませんね。
これで、物理はおしまい。
あとは、算数です。描きこみプリントの計算欄を見て、チェックしてみてください。
では、残りの問題を見ていきましょう。
4.は3.とよく似ています。張力の代わりに垂直抗力が登場します。
「物体ごとに」のルールで、まずAの受ける力の矢印を描きこみ、それが終わったら、Bの受ける力を描きましょう。
このとき、うっかり、BがAから下向きに受ける垂直抗力を忘れてしまう人がいます。「すべての力に作用反作用がある」ことを思い出せば、この力を描き忘れることはなくなります。
AがBから上向きに垂直抗力Nを受けているのですから、その反作用で、BもAから、同じ大きさの垂直抗力Nを下向きに受けているはずです。
そのため、この2つの垂直抗力は、同じ記号Nを使います。
図が正しく書けたら、力のつりあいの式は、もう書けますね?
同じ説明を繰り返すのはつまらないので、式については、書き込みの式を見て、自分の立てた式と同じかどうか、確認してください。
5.は問題が少し複雑になっています。
A、B2つの物体に、糸と滑車、そして床と、さまざまな要素が一度に出てきます。
しかし、今までのルールを一つずつ順番にこなしていけば、どんなに複雑な問題も、難なく解いていくことができます。
まず、力を描きこみましょう。
Aは、接触しているのは糸と床なので、糸からは張力Tで上向きに引っ張られ、床からは垂直抗力Nで押されます。あとは、非接触力の重力Mgを下向きに受けます。
Bは、接触しているのは糸だけなので、糸からは張力Tで上向きに引っ張られます。あとは、重力mgを下向きに受けます。
理想的な滑車の両側の糸の張力は等しいので、Aが受ける糸の張力とBが受ける糸の張力は大きさが等しく、同じ記号Tを使えるのです。
糸の張力の性質、滑車の性質をばらばらに覚えるのは大変なので、「同じ糸は同じ張力」と、かんたんに覚えておく方法もあります。
これなら、この問題でAとBにつながっている糸は同じ糸なので、同じ張力になることが、すぐに分かりますね。
力のつりあいの式
A +T-Mg+N=0
B +T-mg=0
あとは、算数です。
計算は、描き込みを見てください。
6.は磁力を使った有名な問題です。
2つの磁石が磁力で反発し、1つが空中に浮いています。この磁石の組の重さをはかりではかったら、磁石2個分の重さになるか、1個分の重さになるか、というクイズのような問題です。
これは、不思議な問題ですね。
2つあるのだから、空中に浮いていようが浮いていまいが、2個分の重さがあるはずだと考える人もいれば、いや、空中に浮いている磁石の重さははかりにはかからないから、1個分の重さだろうと考える人もいます。
このような不思議な問題の場合、イメージで解くことがなかなか難しいのです。
しかし、今までのルールにのっとって、手順通りに力のつりあいの問題として解けば、おのずと答が見えてきます。
さっそく、やってみましょう。
(1)物体ごとに、物体が受ける力をすべて描く
まず、力の単位に気をつけましょう。
問題を見ると、力の単位に国際単位系の(N)が使われていません。
(gw)という単位が使われていますね。
これは、前に学んだ(kgw)という単位の仲間で、1(g)が受ける重力と同じ大きさの力を意味します。
この単位を使って問題を解くときは、重さや重力を計算するとき、mg(N)を使いません。つまり、m(kgw)やm(gw)を使うときは、gは登場しません。気をつけましょう。
では、力を見つけていきます。
Aは、触っているものがないので、接触力は受けていません。Aが受けているのは非接触力だけです。
Aは下向きの重力100(gw)を間違いなく受けていますから、上向きにAを支えるもう一つの非接触力がないと、空中でつりあって静止することはできません。
それは、AがBから受ける磁力P(gw)です。(Pというのは、磁力を表すため、適当に決めた記号です。重力に合わせるため、力の単位は同じ(gw)にしてあります)
つぎに、Bについて、同じように力の矢印を見つけていきます。
Bが接触しているのは、台ばかりだけなので、台ばかりから上向きに垂直抗力N(gw)を受けています。
つぎに、Bが受ける非接触力ですが、地球から下向きに受ける重力100(gw)は描き忘れませんね?
でも、もう一つ、大事な力があります。
「すべての力に作用反作用がある」ので、磁力にもやはり反作用があります。AはBから上向きに磁力P(gw)を受けているので、その反作用で、BはAから下向きに磁力P(gw)を受けているはずです。忘れないようにしましょう。
これで、A、Bが受ける力はすべて描きこめました。
あとは、力のつりあいの式を立てるだけです。
力のつりあいの式
A +P-100=0
B +N-100-P=0
これが立てられたら、物理は終了。あとは計算です。
計算結果を見れば、はかりには磁石2個分の重さがかかっていることがわかります。
ひじょうに丁寧に解説しましたが、どの問題も同じ手順を繰り返しているだけだということに気がついてもらえれば結構です。
3つの手順を忘れずに、一つ一つ、問題を解決して行きましょう。
【追記】この記事は旧版を全面改訂したものです。新版(改訂版)が一区切りつくまでは、旧版と新版を並列して掲載します。詳しい更新情報は、物理ネコ教室力学改訂版・更新情報を随時ご覧ください。
【追記2】描き込みプリントに記号の書き間違いがあったので正しいものと差し替え、本文もそれに合わせて一部修正しました。(2022.9.22)
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