摩擦力は、よく、「物体表面の凸凹がひっかかりあうことによって生じる」と誤解されがちですが、それは、デザギュリエの実験により否定されました。
デザギュリエは、ガラス片とガラス板を磨いて凸凹を無くすと、かえって摩擦力が増えることを見つけたのです。
これは、当時の(そして、今でもかなりの人たちの)常識を覆す発見でした。
凸凹が少なくなったことで、物体と床の原子分子が分子間力(電気力の一種です)結びつく箇所が増え、摩擦力が強くなったのです。(冒頭のイラストを見てください)
この分子間力は、摩擦力の原因とわかりましたが、じつは、垂直抗力の原因でもあります。
原子と原子は、電気的な力で引っ張り合ったり、押しあったりします。
図(上)のように、ふだんはほどよい距離で原子同士が安定しています。
図(中)のように、何かのつごうで2つの原子が遠ざかると、原子と原子の中間の電子密度が濃くなるため、その部分は他より強いマイナス電荷を帯びます。原子核の正電荷と中間電子の負電荷が引き合うため、2つの原子は引き合うことになります。
図(下)のように、何かのつごうで2つの原子が近づくと、原子核の正電荷同士の反発力が大きくなり、その結果、2つの原子は反発することになります。
イスの上におしりが乗れば、イスの原子とおしりの原子が近寄るので、ちょうど図(中)と同じような状況になり、原子同士が及ぼしあう力は押し合いの力になります。これが、イスとおしりが押しあう垂直抗力の原因なのです。
摩擦力も垂直抗力も、結局は分子間力が原因なんですね。
摩擦力と垂直抗力の間にF=μNという簡単な関係があるのは、そもそも「分子間力による1つの力の成分だから」と考えると、納得がいきます。
そこで、その力を「抗力」と呼びます。
「抗力」の面に平行な成分が「摩擦力」、面に垂直な成分が「垂直抗力」というわけです。
高校物理では、この「抗力」という概念をよく使うので、摩擦力や垂直抗力との関係をよく理解しておきましょう。
さらに、糸の張力、バネの弾性力も、もとをただせば、原子と原子の間に働く電気力、つまり分子間力が原因の力です。
もちろん、スパイクや登山靴のような土に釘を突き刺すようなタイプの靴の摩擦が強いのは、摩擦と言うより、土に潜り込んだ釘が土と押しあう力を利用したものです。念のため。
なお、このプリントでは深入りしていませんが、他の記事で書いたように、そもそも摩擦力の性質を表す式f=μNやf’=μ’Nの係数μ、μ’は、かんたんに決まるものではありません。
高校の教科書や物理定数表では、ふれあう物質の種類で値が決まるように書いてあります。が、ファインマンが『ファインマン物理学1』で明確に書いているように、実際の摩擦力の値は、物質の種類より、表面の状態の方が大きく効きます。
高校や大学の学生実験でも、摩擦力を測ってμの値を決めようとすると、実験するごとに値が大きくずれることがあります。
それは、床に使っている板の表面の状態が、場所によって異なるためです。物体を板のどこに置くかで、μの値が大きくことなってしまうのですから、困りますね。
さきほど、糸の張力やバネの力も原因は分子間力だと書きましたが、実際、ぼくたちの身の回りにある力のほとんどは(地球からの重力を除けば)分子間力で、その分子間力は、原子間に働く電気力が原因です。
つまり、身の回りの力は、ほとんどが電気力、というわけ。
このことについては、やがて電気の世界を学ぶときに、明らかになっていくでしょう。
電気力以外の力は、19世紀までは重力しか知られていませんでした。磁力もガリレオの時代に研究が始まりましたが、19世紀になり、磁力と電気力が同じ力(電磁気力)であることがわかりました。
ですから、19世紀の時点では、この世の中にある力は、電磁気力と重力の、2つだけでした。
アインシュタインは、相対性理論を完成させた後、「力が2種類もあるのは私には複雑すぎる」といって、電磁気力と重力を1つの力で表す「統一理論」に挑みましたが、うまく行きませんでした。
ちょうどこの頃、原子核内で働く第3、第4の力が見つかり、「この宇宙の力は全部で4つ」というのが、現代物理学の基本になっています。
それについては、高校の物理でも最後の方で、少しだけ扱います。
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