ぼくの職場でも、ついにオンライン講座が始まります。初めてのことなので、いろいろトラブルが。ぼくの場合は、予定していた物理講義室での講座が、Wi−Fiの電波状況が悪いということで、急遽、普通教室に変わりました。
講義室には暗幕があるので、光の実験を見せながらの講座が例年だったのですが、それができなくなりました。
また、この物理ネコ教室は、ぼくの講座のメインの流れがわかるように公開しているので、学生に渡している問題演習のプリントについては、重要なものを除いて、原則として公開してきませんでした。
が、特に力のつりあいや運動方程式など、問題演習も含めないとなかなかマスターできない内容もあり、今回は、オンライン講座に合わせ、演習プリントの公開をできるだけ増やすことにしました。
というわけで、今回は「017力のつりあいの式」の演習問題を公開します。前後の講座については、関連記事にリンクがありますので、ご利用ください。
まず、プリントから。
演習問題ですので、ポイントを一つ、いっておきます。
どの問題も、描き込みや答を見る前に、かならず、自分の手で力の矢印を描きこんでみてください。そして、その図と、描き込みや答の図が一致しているかどうかを確認しましょう。
何度もいいますが、力の問題では、最初に描きこむ力の図で間違う人が圧倒的に多いのです。
図に力の矢印を描きこまず、いきなり式を立てる人がいますが、こういう人は将来的につりあいの式・運動方程式が全く解けなくなります。
重大なポイントですので、忘れないように。
1.は017力のつりあいの式でやったのとほとんど同じ問題ですから、あまり解説はいらないでしょう。でも、初心者にとっては、似たような問題を何度もくり返すことで、基本的な手続きが身につきます。
2.は、017のプリントの(例題3)より簡単な問題にしてあります。2方向に軸をとり、軸に対して斜めの力を分解する基本例題です。
x軸y軸は、通常は斜面に沿う方向とそれに垂直な方向にとりますが、水平方向と鉛直方向にとってもかまいません。軸をどうとっても、問題は解けます。ただ、どういう軸の取り方を選ぶかで、問題が簡単に解けるか、複雑になるかが変わりますので、注意する必要があります。
3.は017の(例題3)と似た問題ですが、まったく同じではつまらないので、Bの下を糸からバネに変えてあります。糸の場合は物体を引っぱることしかできませんが、バネは引っぱることも押すこともできます。バネの場合は、その判断もいりますから、すこし難しくなります。
4.は滑車を含む問題。中学校では「動滑車が1つ増えると力が半分になる」などと覚えたかもしれませんが、高校以上ではそういうやり方はしません。「同じ糸の張力はどこも等しい」という理想的な糸と滑車の性質を利用します。
5.は有名な「ペンキ屋の冒険」という問題。じつは、一昨年度までは、この問題は、017に載せてありました。なかなか難しいので、たっぷり時間を取って、近くの人と議論したりしながらじっくり考えるのに適した問題です。
しかし、昨年は新型コロナ感染のため2ヶ月間休校となり、例年の進度に追いつくためには、なにかを犠牲にしなくてはいけませんでした。そこで、この問題は演習問題に移動し、017では別の問題に差し替えたのです。今年も、そこまでではありませんが、コロナの影響で進度が圧迫されていますので、同じ方式にしました。
では、描き込みを見ていきましょう。
1.は、017でやった通りですので、コメントはいらないでしょう。
2.は、斜めの力をx軸y軸の2方向に分解しています。軸に対して斜めの力は重力mgだけなので、2方向は図のように取るのが利口です。
これを水平方向と鉛直方向に分けると、張力T、垂直抗力Nの2力を分解しなくてはいけなくなります。そのため、2方向のつりあいの式が複雑になり、TとNを求める計算が難しくなります。
なお、今は力のつりあいの式をたてる練習をしているので、このような解き方をしていますが、2.の問題のように3つの力のつりあいの場合は、以前やったように、力のベクトルのつりあいの図を描いて、図からTとNの大きさを求める方がカンタンです。
後半の問題のようにややこしくなってくると、つりあいの式を立てて解く方法の方がよいでしょう。
3.では、AとBの運動方向に働く重力の成分を見ると、全体がどうなっているか見通しがつきます。
Aは斜面下に向かって重力の成分1/2mgで引かれ、Bは真下に向かって重力mgで引かれています。
この2つの力1/2mgとmgが、糸でつながれたAとBをどちら向きに動かすかを決めています。当然、mgの方が大きいので、もしバネがなければ、Bは下へ、Aは斜面に沿って上に動きだしますね。
そのため、バネはBに押されてちぢまり、Bを上向きに押すようになります。
バネの力Pの向きが上向きなのは、こうして予想がつきます。
なお、仮にバネの力Pの向きを間違えて下向きに描いてしまった人は、どうなるでしょうか?
そのまま図にしたがってつりあいの式を立てていくと、Bのつりあいの式で、+Pが-Pになります。そのため、これを解くと、P=-1/2mgとなります。
マイナス符号は「自分が思っていたのと力の向きが逆になっている」ことを教えてくれています。だから、こういう場合でも、答には「Pは上向きに1/2mg」と書けば、正解となります。
方程式を立てて代数で解くというやり方は、こういう強みがあります。
このケースの場合、バネがBを引くはずはないので、矢印を下向きに描くと、「物理的なイメージとしては間違い」になります。
が、数学を用いることで、物理的なイメージに間違いがあっても、正解が出るのですね。
こうしたケースは、物理学をさらに学んでいくと、何度も目にすると思います。
アインシュタインが「もし宇宙を創った神がいたとしたら、よほど数学が好きなんだろう」というようなことをいっていますが、なんとなくわかりますね。
4.は、図に描いたように、糸の張力をどれもこれもTで描きこめば、カンタンに解けます。
動滑車や定滑車の性質を覚えている必要はありません。
ただし、この問題の場合は、物体Aとその上の軽い滑車を含めたものを一体と考えて図を描いています。そうしないと、力がもっと増えて、めんどくさくなるからです。
糸の張力はもっといろんなところにもかかっていますが、力の描き方のところで説明したように、「物体が受けている力だけを描く」ので、他の力は省略しています。Aの真上の滑車にかかる力が描いてあるのは、さきほどいったように、この滑車をAの一部と考えているからです。
あとは、描き込みのつりあいの式を見てください。
自分で立てた式と、一致していたら、かなりわかってきたことになります。
マスターまで、もう一息。
5.の「ペンキ屋の冒険」というタイトルは、この問題が最初に有名になった本で、著者が「ペンキ屋さんがゴンドラに乗って作業している」という例として、問題を紹介していたことからきています。
この問題は、力をきちんと描けずに失敗する人が続出します。
乗っている人をA、吊りヒモも含めたゴンドラをBとして、力の図を描いてみてください。
初心者は、滑車にかかっているひもを手が下向きに引く力の矢印を描きこんでしまい、つりあいの式を間違えます。
この力は「手が出している力」なので、描きません。その反作用として「ヒモがA(さんの手)を引く上向きの力=Aがヒモに引かれる力」を描くのが正しいのです。力のつり合いの式を立てるときの鉄則は「物体が受ける力だけを描き込んで式を立てる」です。AとBが受けている力だけを描きましょう。
また、ゴンドラが人から下向きに押される垂直抗力Nを描くのも忘れがちです。
初心者は「人にかかっている重力Mgがゴンドラも押している」と誤解しがちです。「ゴンドラを押しているのは直接触れあっている人」だということを忘れないようにしましょう。
力の図があっていたら、その図を見ながら、つりあいの式を書いてみてください。
これができるようなら、もう、「力のマスター」は、目前です。
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