紀元前3世紀に発見されたアルキメデスの浮力の原理。
その後2000年以上に渡り、物理法則の1つとして、形を変えず、使われてきました。
しかし、そのイメージは多分に魔法的で、ニュートン以降の正統な物理学理論からはかけはなれています。
それについては、次の講座で学ぶことにして、まずはニュートンよりはるか昔に、浮力の秘密を見抜いたアルキメデスの原理について学びましょう。
有名なアルキメデスの王冠の逸話
アルキメデスの浮力の原理の逸話は有名です。
当時のギリシャのお風呂は日本のお風呂のように、大きなたらいにお湯を入れて浸かる、いわゆるバスタブ方式。
アルキメデスは、ある時、家庭教師をしている王から、ある難問を解くように命じられます。
王が金塊を職人に渡して王冠を作らせたとき、職人が金の一部をちょろまかしているという密告があって、その真偽を確かめる方法をアルキメデスに命じた、という話。
金にそれより価値の低い銀を混ぜて合金としても、シロウトには純金との区別がつきません。
渡した金塊と同じ重さの王冠が戻ってきたので、王には職人が金をネコババしたのかどうか、判断ができなかったのです。
アルキメデスが王様の難問を解いたきっかけは、お風呂に入ったとき湯がこぼれるのを見たことだと伝えられています。
感激のあまり、裸のまま町に飛び出し「エウレカー(私は発見した、というような意味)」と叫んだといわれています。(*1)
(*1)これを聞いて「アルキメデスはとんでもない変人」と思わないように。当時、ギリシャの文化では、裸体やそれに近い姿で街を歩くのは、普通のことでした。だから、仮にこの逸話が本当で、アルキメデスが裸体で街に飛び出しても、それは通常の風景だったことになります。
さて、話を戻しましょう。
金より銀の方が密度が小さい(金の半分くらいです)ので、同じ質量だと銀の方が体積が大きくなります。
純金だけのときにくらべ、銀の混ぜ物があるときは、その分だけ、同じ質量でも体積が大きくなります。その体積の増え方を調べれば、金に何パーセントくらい銀が混じっているかも計算できます。
アルキメデスはお風呂に入ったとき、体の体積分だけ水かさが増すことに気がつき、この仕組みに気づきました。(*2)
(*2)これがアルキメデスが王冠の謎解きに使った方法であることは、ダンネマン『大自然科学史』にはっきり書かれています。
同時にアルキメデスは、水中で見かけ上、物の重さが軽くなるのは、物が押しのけた水がもとの場所に戻ろうとして物を押し上げるためだと考えました。この考えにしたがって、浮力を計算したのが、アルキメデスの浮力の原理です。
この理屈で浮力の大きさを計算してみると、実際の実験結果にぴったりあいます。
それを現代の力の定義で計算した物が、4.の内容です。
アルキメデスの王冠の難問は、水に王冠を沈めたときの体積の増え方で解決がつきますが、天秤などを使って浮力によって説明することもできます。(*3)
(*3)別記事
を御覧ください。
では、描きこみを見ながら、検討してみましょう。
アルキメデスの高名はトルコ軍にまで轟いていた
アルキメデスは数学でも「アルキメデスの三平方の定理」の発見者として名高いですが、自然科学ではテコの研究で有名です。
「われに足場を与えよ。さらば地球でも持ち上げて見せよう」というような名言も伝わっています。
もっとも、紀元前のことなので、本当のことかどうかは微妙ですが。
なお、古代ギリシャで「地球」という言葉が使われるのに疑問を持つ方もあると思いますが、大地が丸いという考え方は古代ギリシャ時代にすでにありました。実際に地球の半径を計算した人(エラトステネス)もいたほどです。古代ギリシャ、恐るべし、ですね。
トルコがシラクサに攻め込んだとき、アルキメデスの作ったさまざまな武器や装置がトルコ軍を苦しめたことは史実として残っています。本当かどうかはこれまたわかりませんが、アルキメデスは巨大な凸レンズもしくは凹面鏡(当時の技術で実現可能なのは凹面鏡)を使ってトルコ軍の戦艦に太陽の光を集中して燃やしたといわれています。
その才能に恐れながらも、その才能を重要視していたトルコ軍の将軍は、アルキメデスを殺すなという命を兵士に与えていたのですが、それを知らない、シラクサに上陸した兵士がアルキメデスを殺してしまったと伝えられています。
アルキメデスの浮力の原理とは
さて、物体に押しのけられた水がもとの場所にもどろうとして物体を押し上げるのが浮力だ、というのがアルキメデスの浮力の原理ですが、おそらくプリントの図のように、見えないテコを介して押しのけられた水と物体が力を及ぼすようなイメージがあったのだと思われます。(アルキメデス自身はここまで明確な言い方はしていません)
しかし「物体に押しのけられた水の重みが浮力と等しくなる」という理屈には、「押しのけられた水がもとの場所に戻ろうとして、物体を押しのけようとしている」という意味が込められています。
アリストテレスも含め、古代ギリシャでは、「物体が落ちるのは物体がより低い場所、より基本的な場所に戻ろうとするためで、落ちようとする傾向は物体の重さが大きいほど大きい」というイメージがありました。そのため、アリストテレスは「重い物は軽い物より、重さの分だけはやく落ちる」と結論し、ガリレオの時代まで、それがずっと信じられていたのです。
その考えが正しいかそうでないかは、いずれわかりますが、アルキメデスの考えにも一理はあり、浮力の大きさをとりあえず正しく導出することができますので、それを見ていきましょう。
4.の図にあるように、物体が押しのけた水は物体より上の場所に移動します。それは、物体を水に沈めると水面が上昇することからわかるでしょう。
物体に押しのけられた水の体積は物体の体積Vに等しいのは明らかです。水の密度をρとすると、押しのけられた水の質量は密度×体積、つまりρVです。
当然、その水の重さ、つまり水に働く重力の大きさは、ρVgになりますね。
アルキメデスの考えによれば、この力が上向きに物体を押すことになるので、浮力F=ρVgということになります。
これが、現代の力の単位で表した<アルキメデスの浮力の原理>です。
二千年以上前に発見されたアルキメデスの原理は、浮力がどのような原因で生じているかという、本質的な理解としては間違っていますが、現実に浮力の値を計算する上では問題なく使えます。
古代に発見された法則が2千年も生き延びたのはすごいことです。
アルキメデスの浮力を使う
4の(問)は、浮力の式と、今までやってきた力のつりあいを、ミックスした基本的な問題です。が、キログラム重という力の単位が登場するので、混乱する人も多いようです。
じつは、以前は中学の理科では、力の単位を(Nニュートン)でなく、(キログラム重)で教えていました。
理由は単純で、キログラム重ではかった重さや力は、日常でものの重さを量ったり、体重を量ったりするときの装置の数値と一致するから。
今でも、建築現場では、力の単位として(N)は使われず、(kg重)や(kgf)【どちらも同じ意味です。kgfはキログラムフォースと読みます】が使われています。
ちなみに「体重が55キログラムなんだ」という言葉は、正式な物理用語を使うと「体重が55キログラム重なんだ」となります。体重は質量でなく重さ、つまり重力なので、キログラムではなく、キログラム重という力の単位を使うべきですね。
ちょっと話題が外れてしまいましたが、力のつりあいの問題は解けたでしょうか?
今までやってきた力のつりあいの問題と変わりませんので、力のつりあいや運動方程式がわかっているひとは、(問)の(2)はすぐ解けるはずです。
5.に書いた内容は、浮力が生じる本当の原因についてコメントしていますが、それについては次のプリントで扱いますので、今回はこの程度の紹介にしておきます。
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