☆女性の肥満で流産率が増加 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、女性のBMI値によらず正常胚移植での妊娠率は同等ですが、女性の肥満により流産率が増加し、出産率が低下することを示しています。

 

Fertil Steril 2021; 115: 1495(スペイン)doi: 10.1016/j.fertnstert.2020.09.139

Fertil Steril 2021; 115: 1433(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.04.001

要約:2016〜2019年に採卵し、PGTを実施した3480周期を対象に、女性のBMIを4群に分け、妊娠成績を後方視的に検討しました。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。

     

BMI      <18.5   18.5〜24.9   25〜29.9   30=<    P値

N        155     2549     591     185    〜

年齢       37.3     37.6     38.2*    37.3   *<0.001 

hMG使用量   2308IU   2435IU    2611IU*   2902IU*  *<0.001

直進運動精子数 3880万*   4990万    4350万   4460万   *0.008

臨床妊娠率   56.8%    53.4%     54.1%   50.8%    NS

化学流産率    7.7%     8.3%     8.5%    9.2%    NS

流産率      6.5%     6.8%     8.1%   13.5%*   *0.007

出産率     48.7%    44.5%     44.8%   34.3%*   *0.034

*NS=有意差なし

 

また、ロジスティック回帰分析により、出産率が有意に低下する因子は、BMI>=30(他の群と比べ0.54〜0.62倍)6日目胚盤胞(5日目胚盤胞と比べ0.82倍)であることが明らかとなりました。

 

解説:女性のBMIが妊孕性に影響することが知られていますが、卵子に影響するのか着床(子宮)に影響するのかについては、賛否両論で結論が得られていませんでした。最近のドナー卵子を用いた検討では、ドナーのBMIの影響はなく、レシピエントのBMIの影響があることが報告されています(卵子側の因子を否定)。本論文は、BMIによらず正常胚移植での妊娠率は同等ですが、肥満(BMI>=30)により流産率が増加するために、出産率が低下することを示しています(受精卵側の因子を否定)。

 

コメントでは、これまでに発表された論文では、BMI 35以上で受精率低下、妊娠率低下、出産率低下が示されていますが、正常胚による検討は1件のみで、わずか31例の肥満患者を対象にした検討であったとしています。本論文の肥満患者は185名と格段に増えてはいますが(過去最大数)、BMI 35以上はわずか55名であり、結論を導くためには今後の検討が必要であるとしています。

 

現在のところ、女性のBMIは卵子に影響するのではなく、着床(子宮)に影響するものと考えられます。

 

下記の記事を参照してください。

2021.5.5「女性のBMIは卵子に影響?着床に影響?

2021.1.25「減量手術によるART成績

2020.12.27「低エネルギー食の効果は?

2020.12.9「☆夫婦のBMIと妊娠しやすさ

2020.6.23「女性の肥満は凍結胚移植には影響しない

2020.4.25「ART治療における体重減少の影響は?

2019.9.4「太ると卵子が悪くなる理由

2019.6.10「☆不妊原因と子供の健康について その2:夫婦の体重

2019.3.3「肥満の方の採卵時合併症は?

2018.11.26「☆アジア人の肥満と妊娠までの期間

2018.10.4「☆体外受精を行うなら、肥満女性は痩せる必要はない?

2017.11.26「BMIは凍結融解胚移植の妊娠率に影響するか?

2017.9.13「肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その4:メタアナリシス」メタアナリシス

2017.7.26「肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その3:費用対効果」前方視的検討

2016.12.26「妊娠前のBMIが妊娠率や妊娠予後に及ぼす影響

2016.12.17「肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その2」前方視的検討

2016.12.14「☆肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その1」前方視的検討

2016.10.27「短期集中型の減量作戦の効果

2016.6.9「肥満と子宮内膜機能低下の関係

2016.4.10「太ると妊娠率が低下します

2015.11.20「☆肥満と不妊:米国生殖医学会の公式見解

2015.9.7「両親の肥満が胚へ及ぼす影響

2015.1.25「太った方の卵子は代謝異常で小さい」

2014.12.24「太ると精子が悪くなる

2014.1.3「☆太ると着床率も低下する?
2013.11.21「☆痩せると卵子の質が良くなる!?」

2013.7.9「☆減量手術をするとホルモン値が改善します
2013.6.28「太るとAMHが低下する?」
2013.6.7「ARTの妊娠率に与える男女のBMIの影響」

2013.2.2「BMIが高いと精子の状態が悪くなる」

2013.1.21「代謝が悪いと卵と胚の質が低下する」

2012.12.5「男性のBMIも妊娠に影響」
2012.12.3「BMI 35以上は異常卵が増加」
2012.10.30「BMIと妊娠」

2012.10.25「妊娠と体重の関係」