肥満と子宮内膜機能低下の関係 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、肥満と子宮内膜機能低下の関係をマウスおよびヒトで検討したものです。

Hum Reprod 2016; 31: 1315(米国)
要約:6週齢のC57Bl/6Jマウス高脂肪+高糖質食で12週間飼育した肥満群と通常食で飼育した対照群で、オスマウスと交尾させ、妊娠経過を観察しました。また、去勢したオスマウスと交尾させた場合には、子宮内膜の脱落膜化が生じるため、子宮内膜の脱落膜化の程度を各種パラメータで分析しました。またヒトでは、肥満群(BMI>30)正常体重群(BMA<25)の卵胞期の子宮内膜を採取し、パルミチン酸添加群と非添加群に分け9日間培養し、脱落膜化の程度を各種パラメータで分析しました。肥満群のマウスは対照群と比べ、脱落膜化が約半分となり、着床率が有意に低下し、出生体重は有意に増加しました。ヒト子宮内膜をパルミチン酸で培養すると、脱落膜化が有意に抑制されますが、肥満群から得られた子宮内膜にも同様の変化が生じていました。マウスおよびヒト子宮内膜のオートファジーを調べたところ、脱落膜化の際にはオートファジー が有意に増強され、パルミチン酸添加により有意に抑制されました。

解説:肥満女性は、卵巣機能不全、卵巣刺激への反応不良、卵子の質が低下、子宮内膜の機能低下、出産率低下をもたらすことが報告されていますが、そのメカニズムについては明らかではありません。本論文は、子宮内膜の機能低下のメカニズムについて、マウスとヒトの子宮内膜脱落膜化の視点から取り組んだ研究です。本論文は、肥満が子宮内膜の脱落膜化を抑制し、着床率を低下させること、脱落膜化はオートファジーと連動していることを示しています。非常に洗練された実験とキレイなデータで、肥満と子宮内膜の機能低下の関連を明らかにした素晴らしい論文です。

なお、オートファジー(Autophagy、自食) は、細胞自身が細胞内のタンパク質を分解する仕組みです。子宮内膜の脱落膜化は着床に必要な変化であり、変化する際にオートファジーにより細胞内の再構築が行われるものと考えます。したがって、オートファジーを促進する薬剤の開発が、肥満の方の子宮内膜機能改善をもたらす可能性が期待されます。これは、肥満の方のみならず、着床率アップの戦略として夢が膨らみます。