肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その2 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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2016.12.14「☆肥満女性におけるライフスタイル改善の効果 その1」の記事では、肥満女性に対して6ヶ月のライフスタイル改善プログラムを実施したところ、生産率、正常分娩率、母児の合併症率の改善を認めませんでしたが、自然妊娠率が有意に増加したことをご紹介しました。本論文は、同一グループの第2弾として、肥満女性におけるライフスタイル改善の効果のサブグループ解析結果を示しています。

 

Hum Reprod 2016; 31: 2704(ライフスタイルスタディーグループ)

要約:2009〜2012年にリクルートした肥満女性577名(BMIが30以上)ランダムに割り付け、6ヶ月のライフスタイル改善プログラム実施後に妊娠治療を行った群と、すぐに妊娠治療を行った群での妊娠成績を前方視的に他施設共同研究で行いました。2年間の追跡調査を完遂した564名(98%)を対象に、サブグループ解析として論文でしばしば用いられる、年齢(36歳以上と未満)、排卵の有無(無排卵と排卵あり)、BMI(35以上と未満)、ウエスト/ヒップ比(0.8以上と未満)に分類し検討しました。年齢、排卵の有無、BMIはライフスタイル改善プログラムによる生産率改善に影響しませんでしたが、ウエスト/ヒップ比が0.8未満の場合にはライフスタイル改善プログラムはかえって健常児生産率が有意に低下しました(P=0.05)。年齢、BMI、ウエスト/ヒップ比はライフスタイル改善プログラムによる自然妊娠率改善に影響しませんでしたが、排卵がある女性と比べ無排卵女性ではライフスタイル改善プログラムにより自然妊娠率の有意な増加がみられました(P=0.02)。

 

解説:BMIが30以上の肥満女性は、欧州では4〜21%、米国では32%おられます。肥満は、無排卵やPCOSによる排卵障害の頻度が高く、妊娠まで多くの時間を要することが知られています。また、妊娠中は妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、周産期死亡のリスクが高くなります。このため、BMIの上限を設けて妊娠治療をすべきであるという考えもあり、英国と米国の生殖医学ガイドラインでは、肥満女性は減量してから妊娠治療に取り組むべきと明記しています。しかし、減量してからの妊娠治療にメリットがあるという確たる証拠はありませんでした。本論文のライフスタイルスタディーグループは、肥満女性に対して6ヶ月のライフスタイル改善プログラムを実施したところ、生産率、正常分娩率、母児の合併症率の改善を認めませんでしたが、自然妊娠率が有意に増加したことを報告しています(N Engl J Med 2016; 374: 1942)。本論文は、同一集団のサブグループ解析を実施したもので、ライフスタイル改善プログラムが有効なのは、無排卵の女性であり、ウエストが細い方にはかえって逆効果であることを示しています。サブグループ解析の症例数は不十分であり、結論的なことは言えませんが、減量してからの妊娠治療にメリットがある方とそうでない方が存在することを示しており、大変興味深い結果です。